スカポンタン再び。
エマは窓から砦全体を見てみてみる。
「あっちの建物は馬屋の様だし、なんとなくあの建物が臭いわね。」
エマは人影が見えた建物を指して言う。
「どうしてそう思うのですか?」
「入り口の前に旗が立っているわ。たぶんあれは国旗ね、きっと重要な建物だからあんなものを掲げているのよ。」
入り口には頭にこぶをこしらえた男が倒れている。見張りなんだろう。
外に立っているので薬が効かなかったのかもしれない。
キューちゃんが再び目を延ばして中を覗くと奥の方に格子の有る部屋が見つかったらしい。
中に入るとやはり何人かの男たちが倒れている。
奥に進むと格子の付いた部屋が有り、中に子供が二人倒れていた。
「鍵がかかっているわ。」
「では、これをどうぞ。」
シドらがどこからか鍵の束を取り出す。
「こんな物どうしたのよ。」
「先程の部屋に大きな机が有りましたのでついでに中を物色しておきました。」
「アンタ意外と抜け目無いのね。」
「はい、ウィザーですから。」
胸を張って答えるシドラである、ウィザーは盗賊のスキルもあるみたいだ。
「それより早くこの子達を。」
ひとりをエマが抱きかかえるともうひとりはシドラが抱える。
戒律には触れないのだろうか?それとも幼女だからいいのだろうか?
二人を外に連れ出すとうまい具合に馬を繋いだ馬車がある。
なんだこのご都合主義は?
「本当に日常業務の最中にみんな眠らされたらしいですね。」
アンタの頭も本当のご都合主義なのか?
御者台に倒れていた男は頭に大きなコブをこしらえていた。
全部が全部ご都合主義と言う訳でも無いようである。
「アンタの馬車に乗せると戒律に反するんでしょ。」
「はい、ご理解頂いて恐縮です。」
そこでニッコリ笑うな!顔が見えないけど。
エマは馬車に二人を乗せると外に向かった。
「追手がかかるまでどの位の時間が有るかしら?」
「判りませんがそんなに時間はかからないでしょう。外に出ていた人間もいるでしょうから。」
そうなるとやっぱり救援が無いときついかもしれない。
「自警団の方はどうかしら?」
「人を集めてからこちらに向かいますからすぐと言う訳にも行かないでしょう。」
ま、いいか、コイツもいることだし。
「は?何か言いましたか?」
「いや、なにも。」
二人を乗せた馬車はコトコトと走っていく。
馬車を引いているからそんなに早くは走れない。追手がかかれば直ぐに追いつかれるだろう。
「ちなみに私をあてにはしないでください。」
ちっ、読まれていたか。
まあいい、ウィザーが同行している時点で威嚇にはなるだろう。
「うう~ん。」
荷台で揺られていた二人が風に当たって目を覚ましたようだ。
「あら?目が覚めたみたい。」
「いやああ~っ、此処はどこ~っ?」
いきなり二人そろって悲鳴を上げる。
「は~い、砦からおふたりを奪ってきました。」
笑顔で答えるエマであった。
エマは手短に今までの経緯を説明した。
「それじゃあの二人も?」
先に逃げた二人の事は知っていたみたいだ。
「そうよ、先に馬で街へ向かってもらったわ。」
「安心は出来ませんよ、追手がかかって来るかもしれませんから。」
またそうやって不安をあおるんじゃない!
「その時はそこのウィザーが相手をしてくれるから。」
「いたしません。」
「まーたまた、女の子の前だからって照れちゃって。」
「照れてません。」
いかん、どうも意固地になっているみたいだわ。
「きゅっきゅきゅ~う。」
「駄目ですよキューちゃん。私たちはウィザーの戒律が有ります。」
おお?再びキューちゃんの反乱か?
「きゅうう~っ。」
「え?僕はウィザーじゃないですって?」
「いいえ、眷属だから同じです。」
「きゅいっきゅいっ。」
「眷属じゃなくて使い魔だから良いんだって?いいえ、あなたは眷属なんですよ~っ。」
「戒律はプログラムされてないって?いったい誰だ、手を抜いた奴は?」
「きゅきゅきゅうう~~っ。」
なるほど先ほどの命令違反はその理屈ですか?良い事ですねえ、ムフフフフ。
「ウィザーって馬車と喋るんだ。」
「アタシも初めて見た。」
意外と中身は似たようなものだったりして。
その時後ろの方から駆けてくる馬の姿が小さく見えた。
「追手が来たようね。思ったよりずっと早いわ。」
シドラは目に手を当ててじっと彼らを見ていた。
「私はちょっと隠れています。」
「なによ、あんた逃げるつもりなの?」
いいえ、私がいるといろいろ面倒が有りまして……彼らの逃げ道をふさぎますから。
なんのこっちゃ?
訳の判らないことを言うとシドラはキューちゃんの向きを変えて草むらの中に入って行った。
「いたいた、見つけたぜ。」
「なんだ女しかいないじゃないか。」
「一人増えてら。砦を襲った奴らは何処にいったんだ?」
後ろの方から下品な声が聞こえる、シドラはいったい何を考えているのだろう?
「まあ良いじゃねえか、儲けが増えら。」
「ああ、ピクシーの女と一緒に売っぱらっちまおうぜ。」
「だけどこいつらが砦のみんなを眠らせたとも思えねえが。」
「いいじゃねえかこっちは女の回収さえできりゃそれでいいんだからよ。」
何処かで聞いたような声が聞こえる。
まあいい、こいつらをアタシに手を出す様に仕向ければシドラが……ぐふふふっ。
「おい、そこの姉ちゃん、そいつは俺達の砦の馬車だぜ。」
来たな、今に見ろ!
「お前がみんなを眠らせたのか?随分豪気なことをするじゃねえか。」
3人は馬車を囲む様に馬を進める。ピクシー族の二人は馬車の中で震えている。
「たまたま俺達が外に出ていたのが不運だったな。こっちを向きな。」
エマは追手の方を振り向いた。
「「ひええええ~っ」」全員がお互いを見て悲鳴を上げる。
「「「凶暴女~っ!!」」」
「イチモツ男~っ!!」
宿屋でエマを襲った3人組であった。
「アンタ達こんな所で悪さしてたのね~っ!」
「か、金がねえんだ!新しい就職先を捜したんだ仕方ねえだろ。」
「まともな所で働けばいいでしょ!」
「うるせえ!太く短く楽をして生きるのがオレ達の信条だ!」
あ~っ碌でもない!
「丁度良いからこの間のお礼をしてあげるわ。」
エマは指をポキポキ鳴らしながら言う。
「そ、そいつはこっちのセリフだ。3人ともヒーヒー言わせて天国に送ってから売り飛ばしてやる。」
「冗談は顔だけにしておきなさい。そんなに臭いんじゃ女なんか寄ってくるわけないでしょう。」
「このやろう、この間はウィザーに邪魔をされたが今度こそヤッてやる!」
「おうさ、ウィザーさえいなけりゃお前なんかイチコロよ。」
「何か御用でしょうか?」
いつの間にかシドラが後ろに回っていて男たちの退路を断っていた。
「「「この間のウィザー!!」」」
「て、てめえ!なんで人間同士の問題に首を突っ込むんだ、戒律はどうした!」
「いえいえ、エマさんがぜひとも皆さんにお礼がしたいとの事でしたので私がいては邪魔かと思いまして。」
「お、俺たちをはめやがったのか?」
「さあ、どうでしょうか?少なくともエマさんはやる気満々の様ですが。」
エマはニタニタ笑いながら指をポキポキと鳴らしている、やる気は満々である。
「よ、よーしそれじゃこれから起きる事に手を出すんじゃねえぞ。」
「状況によりますね、武装した大の男が3人でか弱い女性を襲うのであれば流石にちょっと見過ごす訳には……彼女は私の保護対象者ですし。」
「そ、それなら素手ならどうだ。」
「うーん、少し考えなくも無いですが……。」
なかなか巧みにシドラは要求を積み上げていく。
「いいわよ、3人まとめてかかって来なさい。地獄を見せて上げるから。」
「よ、よし!目にもの見せてお前を3人でヒーヒー言わせてやる。」
「では3人とも馬を降りて武器を外してください。」
3人は馬を降りて腰の剣を外すと馬に掛けた。
「いいこと?私が降りたら直ぐに馬車を出発させるのよ。」
エマはピクシーの娘達に小声でささやく。
「えっ?」
「私があいつらの相手をしているからその間に逃げるの、いいわね。」
「そ、そんなことしたらあなたが……。」
「大丈夫、いざとなればあのウィザーがいるから。」
その間もシドラはさらに3人組に要求を続ける。
「あなたはそのブーツの中のナイフもお願いしますね。」
「お、おう。」
一人がブーツの中からナイフを出す。
「そちらの方は背中に隠した大きなナイフですね。」
「わ、わかった。」
もう一人が背中のナイフを外す。
「あなたはズボンの中の棒ですね。」
「ば、ばかやろうっ、こんな物外せるか!」
「おや、そうですか?凶悪なイチモツとか抜けるとか言っておられたように思いますが?」
「意味が違うわ!お前知っててわざと言ってるだろう。こないだは無理やり引っ張りやがって。」
「そうですか?一度外して見てみたいと思ったのですが…残念です。」
シドラが本当に残念そうに言うと男は股間を押さえて後ずさりしていた。
「エマさん、これで彼らは丸腰になりました。」
「オッケー、シドラありがと。」
「はいっ!」
エマが馬車から飛び降りると直ぐに二人は馬車を走らせた。
「「「ああっ!」」」
一瞬男たちの目が馬車に向く。
その瞬間、目にも止まらぬ早さで前に飛び出すとエマはイチモツ男の股間を蹴り上げた。
「ぐえっ。」
次いで隣の男の眉間を蹴り飛ばす。
「うぐっ!」
「最後の男は正面からパンチを食らわす。」
「ぐはっ!」
「やったね!」エマは勝ち誇った。
「ぐぐぐぐっ。」
「いってえ~っ」
「ふがががっ、ほのひゃろふ。」
股間を押さえている男以外はエマに対して殴りかかって来た。
あれ?予定が違う。
そう思ったもののエマは再度男たちの頭を蹴り飛ばす。
ボカッ
「うぐっ!」
ガコッ
「く、くそおっ!」
しかし意外と男たちはしぶとく何度蹴っても殴っても立ち上がって来る。
「こ、これはまずいっ。」
だんだんエマも疲れてきた。流石にまともな攻撃は受けていないが疲れで動きが悪くなる。
そこにイチモツ男も復活してきてますますエマの旗色が悪くなる。
「きゅうう~っ。」
「え?助けないのかって?」
「う~ん、まだ大丈夫でしょう。顔にパンチを受けていませんし。」
男たちの顔も既に腫れ上がってきているがエマの手足も相当なダメージが出始めた。
相手を攻撃する度に手足に激痛が走るようになって来た。
「きゅいいい~っ。」
「いいですか?キューちゃん。敵の強さは正確に図らなくては行けません。敵を知り、己を知ってこそ戦いは勝てるのです。」
「きゅうっきゅうっ。」
「自分を過大に評価し、敵の力を見誤るとお互いにこの様に結果になります。」
「きゅうう~っ?」
「どっちに言ってるんだって?さあ、どっちでしょうか?」
「く、糞野郎、このアマッ!!」
男の一人が我慢できずに馬の鞍から剣を引き抜く。
「ほいっ。光弾。」
男の持っていた剣が根元から折れる。
「あわわわっ。」
3人はぎこちなくシドラの方を見る。
折れた剣を見て心の方も折れたのか、男たちは我先に馬に乗って逃げて行った。
アクセスいただいてありがとうございます。
エマの無敵はシドラに対してだけでした。
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