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そして僕は勇気を出した

お菓子を食べ終えた僕とアデーラは外に繰り出していた。護衛を付けると言った話はもちろん無く、何かあった時は僕がアデーラを守らなくてはならないと思っている。


「そうよ。お花を探しに行きましょう。この間はあまり咲いていなくて残念だったわ」


 花がどのくらいの周期で咲くのかなんては知らないけど、たった二日過ぎただけで咲いているものなのか疑問は拭えないが、アデーラの無邪気な笑顔を見て探しに行く事にした。


 もしかしたら咲いている可能性だってあるし、事実、気温は体感ではあるけど温かくなってきてるんだ。


「あんまり遠くに行くのは危険だから村の周りで探そう」


「分かっているわ。さぁ探しましょう」


 僕達は村の周辺を歩き回る。花がたくさん咲いている訳では無かったけど、所々に花が咲いていて、それを見つけては二人ではしゃぎ回った。


「何をしてるんだ?」


 村の子どもが僕とアデーラの姿を見つけると寄って来る。年齢が少し上の子や、僕とよく遊んでいる子達まで様々だ。恐らく僕が村では見慣れないアデーラを連れて歩いていたのが原因だろう。気が付くと十人近くの規模で行動をしていた。


 その場で思いついた遊びやこの村で考案された奇怪な遊びなど様々な方法で遊ぶ。アデーラも村の子達と仲良くなりよく笑っていた。


 太陽が真上に差し掛かってくるとそれぞれが一度家へと戻る。僕はどうすればいいのか分からずに辺りをキョロキョロと見回していたら、お婆ちゃんがこちらを見ている事に気がついた。


 どこか気まずさを感じてお婆ちゃんと目を合わせる事が出来なかったが、お婆ちゃんはそんな僕の気持ちを知ってか知らずかこちらに近付いてきた。


「あ。お婆ちゃん」


 今朝、お婆ちゃんに謝ろうと決めていたのに中々口に出す事が出来ない。隣にアデーラが立っていると言う事もあったのかもしれない。


「ほら。もうお昼だよ。食事の準備は出来ているから手を洗って帰って来なさい。そちらのお嬢さんも一緒にね」


 チョロチョロと流れる水場へアデーラと行き手を洗う。手を洗っていると視線を感じてアデーラ方を向いてみるとアデーラが真剣な眼差しで僕を見ていた


「どうしたの? あの方はルカのお祖母様なのでしょう? どうして余所余所しかったのかしら?」


「え? ああ。ちょっとお婆ちゃんとは喧嘩をしちゃっててまだ謝れていないから気まずいんだよ」


「それなら簡単よ! 誠意をもって謝罪すれば許してくれるわ。だって家族なんでしょう?」


「そうだね。ありがとうアデーラ。君のおかげで勇気が出たよ!」


「それなら良かったわ」


 僕達は手を洗い僕の家に帰る。お婆ちゃんは笑顔で僕達を迎えてくれる。食卓にはいつもよりちょっとだけ豪華な食事が用意されていた。


「貴族様の食事なんて分からないから口に合うかが不安だけれどどうぞ召し上がれ」


 まだ作りたての料理には料理の香りを運ぶように湯気が立っている。それを見たら僕のお腹が早くそれを食べさせろと言わんばかりに大きく鳴った。


「とても美味しそう。いただきますわ」


「あ、僕も! いただきます!」


「たんとお食べ」


 にこやかなお婆ちゃんの顔を見て僕は安心した。昨日の夜に見たお婆ちゃんはとても悲しそうな顔に見えたから。


「とても美味しいわ。お祖母様ありがとう」


「あら。こんなに小さいのにお上手ね」


「だって本当に美味しいんですもの」


 上品なのにパクパクと食事を進めるアデーラ。その顔はとても嬉しそうで微笑ましい。そして、僕はお婆ちゃんの顔をチラチラと見る事しか出来ない。意を決して口を開く事にする。


「お婆ちゃん。あのね――」


「分かっているよルカ。でもね、今は楽しい食事の時間なんだ。いつでも話せるのだから今で無くてもいいんだよ」


 一言謝りたかっただけなのに、それを止められてしまった。でも、お婆ちゃんの言い方は僕が謝ろうとしていると分かっていたようで、確かにアデーラも隣で食事をしている時に言い出すものでは無かったのかもしれない。


「とっても美味しかったわ。お祖母様」


「それはありがとうね。作った甲斐があったてもんだよ」


「あの……お婆ちゃん」


「なんだい? いいんだよ。今日はしっかり遊んで来なさい」


「で、でも」


「そんなにうじうじして。男の子なんだから、女の子の前でそんな姿は見せるもんじゃないよ。わかったかい?」


 お婆ちゃんに諭されて謝るきっかけが掴めないまま僕は外に出る。アデーラはそんな僕の姿をニコニコとした笑顔で見守るだけだった。


 僕達はその後暗くなるまで二人で遊び、村長の家へと行く。村長の家に入るとお婆ちゃんが料理を作っていたのを見て僕は驚いた。


「どうしてお婆ちゃんがいるの?」


「村長が凝った料理を作れないからって頼まれたのよ」


 僕は村長を探すようにキョロキョロと辺りを見回してみたけど、その姿は見つけられない。アデーラはちょこんと椅子に座ってお婆ちゃんが料理を作る様を見ている。


「村長はいないの?」


「そうね。何か用事があるからと出て行ったわよ」


 僕は椅子に座るとアデーラと会話を始めた。もう少しでお婆ちゃんの料理が完成しようとした時だった。


「お嬢様。一緒に来て頂きましょうか」


「あら、どうしたの? イゴール」


 イゴールの登場に、僕はの心臓は大きく脈打つようにバクバクと鳴っているのが分かった。イゴールは剣をアデーラと僕に剣を突きつけている。


「あんた突然なんだい。そんな物騒な物を子どもに向けて」


「煩い。あんたに話し掛けられる耳は持っていない。さぁ。お嬢様。こちらへ」


「駄目だ! 出て行け!」


「ん? なんだお前は。あぁそうか。この間のガキか。どけ!」


「ぐあ――」


 僕はアデーラの前に立って、両手を広げて守ろうとしたものの、あっさりと蹴り飛ばされて壁に身体を打ち付けてしまった。


「ルカ――!」


「イゴール! 何をするの!? 離して!」


 イゴールはアデーラを脇に抱えて外へと逃げ出した。お婆ちゃんは僕を心配して駆け寄って来る。


「大丈夫かい?」


「うん。ありがとうお婆ちゃん。でも行かなきゃ」


「ルカが行かなくても……」


「放っとけないよ!」


 背中を打ち付けたせいなのか呼吸がしづらい。それでも僕は立ち上がってイゴールを追おうと走り出そうとした。向かった先は分かっているんだ。行かなきゃ。


「ルカ!」


 お婆ちゃんの僕を呼ぶ声が聞こえたけどそれを振り切って走る。暗くなった道をひたすらに走り、洞窟まで辿り着いた。この中にイゴールとアデーラがいるはずだ。僕は意を決して中へと入る。


 暗い洞窟の中を走って何度も躓いたけど、僕は奥の広間まで辿り着く。そこには既に村長と辺境伯が駆け付けていたらしく、松明の明かりが広がっていた。


「これはどう言う事なんだ。イゴール」


「近付かないで頂きたい。これ以上近付くとお嬢様を殺す事になる」


「イゴールどう言う事なの?」


「お嬢様は黙っていて下さい!」


 アデーラは地面に放り出されてイゴールに剣を突き付けられていた。イゴールの後ろには僕が簀巻にした不審者の二人が横たわっている。


「な、何がお主をそうさせたのだイゴール」


「そうさせた? 私は元からあなたの地位を奪う為に動いていただけなのだが? それにあなたのような貴族がいるから平民どもが付け上がる。私はただそれを正したいだけだったのですよ。しかしお嬢様を攫ってここに来たと思えばクズ二人はこんな姿になっていて、貴様どもが私の前に現れた。私が平民を使ったのが間違いだった。全ては筒抜けだった。と言う訳だな」


「俺にはお前のような奴が貴族を名乗る事の方が間違いだとは思うけどね」


「煩い! 黙れ。平民風情の貴様が私に話し掛けるなどあってはならぬ」


 誰も僕に気が付いていないようで、話を続けていた。僕はアデーラを助け出す為に岩影に隠れながら進んでいく。進んでいくと僕が簀巻にした不審者の二人と目が合った。簀巻になっている不審者の二人はニヤリと笑っているのが目に付く。


「貴様の考えは分かったがそれにアデーラは関係無いだろう。離してやってはくれんか?」


「関係無い? とんだご冗談を。私はチェルベニ➖辺境伯が行方不明になった後、アデーラお嬢様と婚姻を結び辺境伯として、いや、この国そのものを手中に治めなければならないのだ」


 よく見てみると不審者二人のロープが緩んでいる事に気が付いた。再び目を合わせると無言で頷く不審者の二人。そして、睨むようにイゴールの背中を見やっている。


「しかし、私の画策を知られたからにはここにいる者には行方知らずになって貰わねば困るな。そう、凶悪な魔物に襲われたが、お嬢様だけを何とか助け出す事が出来た。そんな筋書きでどうだろうか。うんそれでいいだろう。まずお嬢様は魔物に襲われ癒えぬ傷を付けられたとい――ぐはっ」


「アデーラ!」


 イゴールが剣を振りかぶった瞬間、不審者の二人がイゴールに突進をした。不審者の二人が動いた瞬間に僕はアデーラを突き飛ばすように覆い被さる。僕が後ろを振り向くと、村長がイゴールに剣を突き付けていた。不審者二人に羽交い締めにされ、剣を落としていたイゴールは為す術無く拘束される。


「ルカ……怖かったよぉ」


 アデーラは僕にしがみ付くと声に出して泣き始める。剣を突き付けられ、あまつさえ危害を加えられそうになったのだから、本当に怖い思いをしたと思う。僕も正直怖かったが僕のそれ以上の恐怖を味わっていた事には違いないと思う。


「ルカ! また危ない事をして……」


 僕を追って来たのだろうか。お婆ちゃんも洞窟の中へとやって来ていた。お婆ちゃんの顔は僕をしていた為なのか今にも泣き出しそうな顔になっている。


「心配をかけてごめんね。お婆ちゃん」


「どこも怪我をしてないのかい? アデーラちゃんも平気なのかい?」


「うん大丈夫だよ。アデーラも平気だよね?」


「うん……ひっぐ……」


 アデーラは目に涙を浮かべて大丈夫だと頷いた。お婆ちゃんは僕とアデーラを包み込むように抱き、良かったと何度も呟く。


「あのね。お婆ちゃん。昨日は酷い事を言ってごめんなさい」


「いいんだよ。私もルカの気持ちも考えずに酷い事を言って悪かったよ」


 こうして、イゴールの企てたこの事件は被害者を一人も出す事無く終結した。イゴールは辺境伯が王都へ戻る際、一緒に連れて行かれ、そこで罪に対しての罰を言い渡されると言う。また、不審者二人に対しては大きな罪としては扱われず、無罪放免とはまでは行かなくともとても軽い罰で許されている。


「お婆ちゃんおはよう」


「おはよう。今日も行くのかい?」


「うん。まずは自分の身を守れるくらいに強くならなくちゃね」


「危ない事はするんじゃないって言っても聞かないんだろう?」


「どうだろうね。ハハハ」


 あの事件からもう十年近くが過ぎていた。僕ももう十五歳でもうすぐ大人の仲間入りする。独り身だった村長は領主様の屋敷でメイドとして働いていたリビエラと結婚をし子どもも出来た。


 少しづつこの村も変化して行ったけど基本は変わらない。水が豊かで綺麗な村だ。子どもの頃に僕とよく遊んでいた子も村の中で恋人を作ったり、喧嘩をして別れたりと様々だ。それでも僕の気持ちは変わらない。友加里を探す為に旅に出たい。その為には自分の身を守れるくらいの強さは必要だ。


「おー。来たね。早速やるかい?」


「はい! お願いします!」


 木剣を片手に地面を蹴る。カンカンカンと木剣同士がぶつかり合う音が朝もやに覆われた村に響き渡る。ちょっとした隙を突かれて僕はあっと言う間に追い込まれ……


「参りました」


 村長の木剣の切っ先が僕の鼻先に突き付けられる。


「いやー。まだまだだね。それとも俺が強すぎるのかな? はーはっは」


 高笑いを始める村長が憎たらしいほどの笑顔を僕に向ける。いつか必ず村長の高笑いを止めて見せる。今はその気持ちが僕に剣の稽古へと向かわせていた。そう。僕は弱い。村の中では強い方には入るだろうけど、同世代の子に普通に負けたりもするし、勝つ事もある。僕から始まった村長の剣の稽古だったが、気が付くと村の若い人間がみんな剣を振り始めたのには驚いた。


「また負けたの? ルカ」


「俺は弱いからね」


「私なんかよりもずっと強いじゃない」


「ずっと剣を振ってる僕とアデーラを一緒にしないでくれよ。出発は今日だよね? こんな所にいてもいいの?」


「いいのよ。朝の散歩がてらに村長さんに負けるルカを見てから家に帰るのが私の日課なんだから」


 アデーラはあれからも村に残り、このヴォーダ村で過ごした。貴族としての教育は屋敷で行っていると聞いていたし、稀に王都へ向かう事もある。それでも村に帰って来ていたのだが、もうすぐアデーラのお披露目があり、それに合わせて王都で生活する事になるらしい。


「また趣味が悪いんだな」


「そんな事無いわよ……それじゃあ私はそろそろ戻るわね。あーあ王都になんか行きたくないなぁ」


「まぁ、いつか会えるだろ?」


「そうね。お祖母様には旅に出たいって言ったの?」


「それは……」


「伝えたい事は早く言った方がいいわよ。それじゃそろそろ戻るわね」


 アデーラが僕の隣を通りすぎようとした瞬間、アデーラの薄い金色の長い髪が僕の眼前に広がり、僕の頬に柔らかい感触が伝わった。


「ルカ……またね!」


 アデーラは元気よく走り出す。僕はアデーラの背中を見守る事しか出来なかった。


「そっか」


 僕は頬に手を当てながら小さく呟く。


 呆然と立ち尽くした僕はアデーラの背中が見えなくなると木剣を村長に向けた。


「お願いします!」


 そして僕は色んな思いを振り切るように剣を振り続けた。


  


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