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そして僕は心を変えると決意した

 太陽の光が差し込んできて、その眩しさに目を覚ました。他の人達はまだ起きていないようだった。僕は起こさないようにゆっくりと起き上がる。静かにしようと思えば思うほどにちょっとした音に敏感になってしまう。今だって立ち上がった時の物音が大きく聞こえて、起こしてしまうんじゃないかと気を揉んだくらいだ。


 寝起きの喉を潤そうとテーブルに放置された水をグラスに注いでそれを飲む。生ぬるい水が喉を通り僕を潤してくれた。


 手持ち無沙汰な僕は何の気無しにサシャの家の中を見て周る。マナー的には良いものでは無いと思うけど好奇心が僕の体を動かした。


「ここは」


「別に面白い物なんて何も無いぜ?」


「なんだ。起きてたのか」


「まぁな」


 いつの間にか起きていたサシャは僕に声を掛けると、僕が開けようとしていた扉を開く。サシャが僕に手招きをして、こちらに来い。とジェスチャーで伝え、それに素直に応じて扉の奥へと入って行く。


「すごいな」


 扉の奥に入った僕の目に飛び込んで来たのは陳列されたり、飾られた武器や防具の類だった。僕から奪った剣もこの中にあるのだろうか。


「何もすごい事ぁねぇよ。親父が武具の商店をしてたってだけだ」


「僕はこんなに武器や防具が飾られているのを見た事が無いからね。今もお店をやっているの?」


 バルおじさんの剣の所在が気になったけど言い出せない。だから、それを言うタイミングを見計らいながら話をする。


「今はもうやってねぇよ。親父は死んじまってるからな」


「そっか。悪い事を聞いたよ」


「別にそんな事はどうでもいいさ。お前は俺に聞きたい事があるんだろ?」


 僕の気持ちを察しているのかは分からないけど、サシャからこの話を振ってくれるのはすごく助かった。


「率直に聞くよ。あの剣はどこにある? 返して欲しいんだ」


「はじめは売っちまおうと思ったんだが、それは止めた。あんなもん売っちまったら俺の身が危ねぇからな」


「それで? 返してはくれないの?」


「返すわけにはいかねぇな」


「売らなかったと言う事は君の手元に……ここにあるんだろ? どうして返してくれないのさ」


「ふん。あの剣だけじゃねぇ。お前に剣を持つ資格が無ぇって事だよ」


 僕はサシャに対して腹立たしくなり睨みつけた。睨みつけたところでサシャ顔色一つ変えない。サシャのそんな態度も僕をイラつかせる。


「どう言う事だよ。君にどうこう言われる筋合いは無い」


「確かに筋は通ってねぇかもしんねぇけどよ。お前。おの剣はどこで手に入れたもんだ?」


「あれは僕を導いてくれた人が譲ってくれた物だ」


「ふぅん。まぁ、大切な物なんだろうさ。ただな、大切な物ならもっと大事にしやがれってんだよ」


「大事にしていたさ!」


「どこがだよ。ロクに磨きもしていない。錆びついてもいた。それのどこが大事にしていただ? あぁん?」


「そ、それは……」


 何も言い返せなかった。確かに大切にしていたし、大事にもしていた。言い訳になるかもしれないけど、整備の仕方なんて知らなかったし、バルおじさんの遺していった荷物に入っていなかった。いや、入っていたのかもしれないけど僕が自分の判断で置いて行ったのかもしれない。用途の分からない物は……


「剣ってのは飾りじゃねぇんだよ」


 そう僕に言い放ったサシャは背を向けてみんなのいる場所へ戻って行く。その背中がとても冷たく、遠く感じた。昨日は近寄れたと思ったのに。


 自分が情けなく感じてしまう。何が友加里を探すだ。探す宛も無いのにただ旅をしているだけじゃないか。どうやって探すのか考えたか? 僕なら分かるハズだって楽観的に考えていた。村長から剣術は学んだけどそれ以外の事は学ぼうとしていなかった。サシャの言葉も僕の胸に突き刺さる。


「はぁ……結局僕って何なんだろうな」


 大きな決意を持って旅を始めたのに、いきなり躓いてしまった。何だか現実を突き付けられた気分だ。考えが甘い。もし、友加里と出会えたとしても僕がこんなんじゃ幸せにする事なんて出来ない。


「ルカ?」


「ん? どうしたの?」


「それはこっちが聞きたいよ」


「うん」


「あー。分かった。サシャに何か言われたんでしょ」


「言われた……と言うかね。僕には剣を持つ資格が無いなんて言われちゃったからさ」


「ふーん」


 ヤルミラはゆっくりと僕に近付いて、隣に座る。


「あいつの言葉に納得しちゃってさ。現実を突き付けられた気分だよ」


「サシャのお父さんってね、ここで武器を売ったりしてたんだ」


「聞いたよ」


「それでね、ある日このお店に強盗が入ったの。その強盗はサシャのお父さんが追い払ったんだけど、サシャのお父さんも深い傷を負ってしまったの」


「うん」


「結局、その傷が元でサシャのお父さんは死んじゃったんだ。どうしてだか分かる?」


「血を流し過ぎたから?」


「ううん。サシャお父さんの傷は錆びてたくさん刃こぼれをしたような剣で切られていたの。傷口はグチャグチャで塞がらないし、怪我が治る事は無くって苦しんで死んだわ。それからサシャはお父さんの跡を継ぐって言って、自分で鍛冶みたいな事をやったりしていたんだけど、気が付くとあんな感じになっちゃってたのよね」


「そっか」


 どうしてヤルミラが僕にサシャの過去を語ってくれたのかは分からないけど、サシャの剣に対する執着のような物は理解出来た気がする。


「でも、人の物奪っておいて、奪われたルカが目の前にいるのに返さないってのも道理が無いよね。説教しなきゃ! あ、そうだ! 朝食が出来たって呼びに来たんだったよ。ルカが暗い顔してたから本来の目的を忘れちゃってたじゃない」


「ご、ごめん」


 明るく笑うヤルミラが僕の心を軽くする。ここで俯いてたって何も始まらないと思うし、反省しなきゃいけない所はしっかりと反省して僕も変わる努力をしなきゃ駄目だ。


 僕が戻るとみんなは食事を始めていた。ギエフさんもヤルミラも僕を笑顔で迎えてくれたけど、サシャとだけは目を合わせる事も出来なかった。


 食事を終えて、僕達は今後どうして行くのか話し合いを始める。全員ベドジフに顔を知られているのもあって外を出歩くのは危険だろうし、ベドジフの計画についても何とかしなきゃいけないと思う。


「さて、これからどうするかだな」


 口火を切ったのはギエフさんだった。昨日の夜とは打って変わって真剣な表情をしている。


「どうするも無ぇよ。ベドジフの野郎はぶっ潰すだけだ」


「そ、そんな簡単にはいかないよ」


「あぁん? てめぇ俺に文句あんのかよ」


「考えなしに突っ込んでも一緒だろ?」


「じゃあどうするってんだよ」


「そ、それを今から考えるんじゃないか」


 サシャはとにかく正面から突っ込む事しか考えていないように思える。僕はそんなサシャに意見するも、ただの水掛け論になってしまう。


「ベドジフはこれを狙っているのよ。それなら私が囮になってベドジフが油断した隙に――」


「駄目だろ!」


「駄目だ!」


 ヤルミラが袋から宝石を取り出し、囮になると言った瞬間に僕とサシャは駄目だと言った。サシャと同じタイミングで口を開いたからなのか分からないけど僕はサシャに睨まれてしまう。僕も負けじと睨み返すもサシャの眼力に目を逸したくなるが、何だか負けたくなくて睨み続けた。


「ほら! 喧嘩はしないで」


「してねぇよ。ちっ」


 僕達が睨み合っていたからか、ヤルミラは大きな声を出して僕達を諭すとサシャの方から視線を外した。なんだか勝ったような気がして自然と笑みが溢れる。


「あ、てめぇ笑いやがったな? 勝った気でいんなら覚悟しとけよオラァ」


「サシャ? いいから静かにしてて」


「わ、分かったよ」


 僕のせいで不機嫌になっているのだろうと思うけど、普段は表情が豊かなヤルミラが真顔で声を低くしサシャを咎め、サシャは黙った。その顔が僕に向けられたらと思うと恐ろしい。


「時には喧嘩も必要だ。そう怒ってやんなよ嬢ちゃん。それよりもベドジフは嬢ちゃんのその宝石を狙ってんだろ? そんじゃこの街を出るってのはどうなんだ?」


「街を出るかぁ。考えた事も無かったけど、私は平気だよ。もう家にも帰れないし、お母さんみたいな研究者になる為には色んな所に行って知識を深めなきゃって思うしね!」


「嬢ちゃんは中々んぽ冒険家のようだな。ガッハッハ」


「僕は元々旅をしていた身だし問題無いよ」


「サシャはどうするの?」


「ふんっ。俺は群れるのは嫌いなんでな。勝手にすりゃいいさ」


「そっか……」


「それに、正義感の強い甘ちゃんと経験豊富なおっさんがいんだから平気だろ」


 協調性の無い奴だとは思っていたけどヤルミラが行くと言うのに幼なじみのサシャは考える素振りもなく僕達とは行動しないと言い切ったような物だった。


 確かに自分の生まれ育った街を出るかと聞かれているのだから断るのも自由だとは思うがサシャにはデリカシーと言う物が無いのだろうかと思える。


「それで、街を出たとして、どこに向かうの?」


「そうだな。ベドジフの件は俺達だけで解決出来るような事では無いと思うし、この街もチェルベニー辺境伯の領地だからどうにか辺境伯に伝えられないかと思うんだが辺境伯が取り合ってくれるかどうかが問題なんだとな」


「それなら何とかなるかもしれない」


「どう言う事だ?」


 僕はアデーラだけでなくチェルベニー辺境伯との付き合いもあった。村にいる時、何年かに一度、娘のアデーラに会いに村に来ていたし、その時も村長と屋敷に呼ばれて辺境伯と話し込んだ事もある。


「チェルベニー辺境伯がどこにいるのかは分からないけど、娘のアデーラに話を通せば何とかなるかもしれない」


「あん時の嬢ちゃんか」


「うん。アデーラは村に残って数年前まで村で暮らしてたんだ」


「なるほどなぁ」


 手に顎を乗せ関心したように頷いたギエフさん。サシャは関心が無いように振る舞っているがヤルミラは僕の話を聞いて驚いているようだった。


「貴族のお嬢様と知り合いだなんてすごいんだね」


「知り合いと言うか幼なじみみたいな物だよ。ほとんど毎日一緒に遊んでいたからね」


「へぇ。で、そのアデーラさん? はどこにいるの?」


「王都だよ」


 アデーラの顔が僕の頭の中に浮かんでくる。一緒に過ごした時間は長かったのに、離れてる期間の方が長く感じてしまう。時間の流れとは残酷だと思う。もし、僕が友加里を見つけても友加里の気持ちが変わっていたらと考えてしまう事もある。


「王都かぁ。どんな所なんだろう。どうやって行くの?」


「そうだな。本来なら馬車を使うか行商に混ざって行くかしたい所なんだが……」


「どこにベドジフの息の掛かった人間がいるのか分かった物じゃないって事か」


「そう言う事だ。馬をあつらえるのも良いが、金が掛かるし馬に乗るのも技術が必要だ。俺は馬になんか乗った事無いしな」


「お金ってどのくらい必要なの?」


「相場は分からねぇがかなりの額が必要だろうし、そこから俺達の足が付いたんじゃ意味がねぇ。結局は徒歩になるだろうよ」


 お金の話になって僕の持ち金がいくらくらいあるのかが気になった。買い物なんてほとんどしたことは無いし、この世界どころかこの国の物価すら分からないのだから仕方がないと思う。何か買い物をしておけば良かったと少しだけ後悔してしまった。


「出発はいつに?」


「出来れば早い方がいいが……」


「待って! ルカはもう怪我大丈夫なの?」


「もう痛みはほとんど無いから平気だよ」


僕はヤルミラを安心させるように力こぶを作る真似事をする。大した力も無い僕が力こぶを作った所でなんの意味も成さないと思うけど。


「サシャは本当にどうするの? この街にいたら危険なんだよ?」


「逃げるのは簡単かもしんねぇけどよ、この街で俺は生まれ育ったんだ。逃げる事なんか出来ねぇよ。それに、攫われた連中だっているかもしれねぇ。俺だけ尻尾巻いて逃げれるかよって」


 ここに来て始めてサシャの本音を聞いたような気がする。正直、僕は自分や僕の知っている人の身の安全ばかりを考えていたけど、サシャは違うようだ。


 僕にはサシャが段々大きく見えて自分がなんて小さな人間なんだろうと思ってしまう。


「そう……だよね」


「ヤルミラ。お前は逃げろ」


「うん。分かった。サシャ。後で話があるの」


「なんだ? 別れ際に愛の告白でもしてくれんのか? ヒャヒャヒャ」


「そんなんじゃないったら! ばか」


「そんじゃ、多少は準備も必要なんだろ? この街を出るまでここにいてもいいからよ」


「すまんな。助かる」


 こうして僕達の話し合いは終わって方向性だけは見えた。ベドジフの件は僕達だけでは解決は出来ないと思うし、組織めいた何かがあるかもしれない。


 新たな旅の仲間が増えた事は嬉しく思うけど、どうしても気がかりなのはバルおじさんの剣の事だ。僕が剣を持つ資格が無いと言われたのは納得したくはないけど、そう思う部分もあった。サシャが何と言おうと僕は剣を奪い返さなければならない。


 ヤルミラが引っ張るように連れて行くサシャの背中を僕は睨みつけていた。


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