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81話 ツボの正体が判明する

「ギャアアアアアアアアア!?」



 静かな城内に地底の底から響くような重く低い声が響き渡った。

 夜である。


 迷惑だなあ――そんなことを思いながら、男性は目を覚ました。

 もちろん男性の叫び声ではない。


 男性は吸血鬼だ。

 朝日を浴びたならともかく、こんな夜中に、あんなはしたない叫び声を上げるほどもうろくしてはいないつもりだった。


 では、誰の叫び声なのか――

 男性がベッドの上で上体を起こし、ぼんやりしていると――



「おい、吸血鬼! 吸血鬼よ!」



 なにものかが、ペット用ドアをくぐって男性の部屋に現れた。

 赤い小さな生き物――ドラゴンだ。

 男性は『やっぱりか』というような顔をする。



「どうしたねドラゴンよ。今度はどんな遊びを見つけたのだ?」

「遊びではないわ! なんか、我の枕元に、なんか、動く……!」



 要領を得ない。

 男性が首をかしげていると――


 ガタガタ……ガタガタ……

 耳慣れた足音(?)を響かせ、何者かがペット用ドアから入ってくる。


 そいつは――

 ひとかかえはありそうな、黒くて丸い陶器であった。

 くびれた首にはタリスマンがかけられていたり、口にはものものしい封印がほどこされていたりと、どう見てもいわくつきの代物である。



「なんだツボか」

「ツボだが! たしかにツボだが!? あやつ動くぞ!?」

「……」



 男性はドラゴンを見た。

 人類に子犬と誤認されるこの生き物も、そして吸血鬼である男性自身も、とうにお伽噺にしか登場しなくなった『幻想種』である。


 生きた『不思議』だ。

 それが――ツボが動いた程度でここまで取り乱すのか。

 男性は失望の念を隠すのが難しかった。



「なんだねドラゴンよ、ツボが動いた程度で大騒ぎして……」

「いや、普通、ツボが動いて、しかもそいつが、いつの間にか枕元にいたとあっては、おどろいて当然だと思うのだが!?」

「当然ならざる我らが当然を語るというのは、時代を感じるね」

「いいや、この件にかんしては絶対貴様がおかしいからな!?」

「……ん、ああ、そうか、君は知らなかったのか……実はな、そのツボは中に誰かいるらしいのだよ」

「なんだ、中に誰かおるのか。それならば動いても当然――ってなるかァ!」



 ドラゴンがみっともなく大声を出す。

 どうやらこの件について相互理解は得られないようだと男性は悟る。



「そうだ、ドラゴンよ、私はこのツボの中身を調べたいと思っているのだが、君、なにか心当たりあるかね?」

「たぶん『ミミック』であろうよ」

「……なんだ君、正体まで予想して、それでも怖いのか」

「我はこやつら苦手なのだ。我の宝物庫にいつの間にかおり、宝をおがもうとすると箱を開けた瞬間飛び出し、我をびっくりさせよる……妖精どもが『一度見かけたら潰さねば安眠できぬ害悪』であるならば、ミミックは『油断したころ姿を見せてきて、一度見てしまえばしばらく宝の中に潜んでいるのではないかと緊張を強いる害悪』であるぞ」

「なるほど……だが君、それは宝物の管理を怠っていたからではないかね? 我が城の宝箱にミミックが湧いたことなどないぞ」

「我の元の肉体のサイズを思い出せ。昔の我は大ざっぱな動作しかできんのだ」

「ああ、たしかに」

「だからこそ『ハーレム』を築いて女どもに世話をさせるのだがな」



 今明かされるドラゴンの習性の必然性であった。

 まあ、『黄金に興味持つなよ。お前ら使わねーだろ』というのがそもそもあるのだが……



「ともあれ――ツボよ、お前は『ミミック』なのか?」



 ツボがうなずいた(?)。

 どの動作も横揺れなので、判別は難しいのだが、ツボと長く語らい続けた男性には、ツボの意思がなんとなくわかるのだ。



「では開けるか」

「おい貴様ァ! 我の話聞いておったか!? ミミックであるぞ!? 箱を開けたら飛び出す害悪の代表格ではないか! 永遠に封じておけい!」

「まあ、妖精もミミックもたしかに害悪だが……しかし私には約束があるのだ。それに、いいではないか。危害を加えてきたならば、それはそれで対応したらいい。起こらぬかもしれない危機にびくついて約束を反故するのは――優雅ではない」

「吸血鬼はいつもそうだ! 毎度毎度舐めプしおって! そんなんだから絶滅するのだ!」

「そっくりそのままドラゴンにも当てはまりそうな文句だね……ともかく、私は開けるぞ」

「もう勝手にせい!」



 ドラゴンがプンプン怒ってピコピコ去って行く。

 男性はペット用ドアが閉じたのを音で確認し――

 ツボの封印を解いた。

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