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37話 吸血鬼の城は今日も楽しそう

「いや、あの聖女絶対おかしいぞ」



 テーブルの上で小動物がなにか言っている。

 奇妙な小動物だ。赤い。とにかく赤い。頭のてっぺんから長い首を経由して毛のない甲羅みたいな胴体も前足も後ろ足も翼もぶっとい尻尾の先端までとにかく赤い。


 しかも、体には人形を乗せている。

 その人形もまた奇妙であった。

 スクワットしている。

 正しくはスクワットをしようとしているかのような体勢で、お尻を後方に突き出してプルプルしていた。


 そんな生き物がいきなり目の前のテーブルに現れたのだから、男性は困惑する。

 そしてたずねた。



「……君たちはなにをしているのかね?」

「一体感を高めるための訓練である」

「君の体の上で妖精がスクワットをしようとしているように見えるのだが」

「しようとしているように見える、ではなく、しようとしている」

「なぜそんな展開になったのか私は気になってたまらない……」

「そんなことより、聖女のことだ」

「いや、君たちの方が気になるのだが……」

「聖女のことだ」



 ドラゴンはゆずりそうもなかった。

 仕方ないので、男性はソファの背もたれに深く腰掛け、話を聞くことにする。



「聖女ちゃんがどうしたのだね?」

「貴様と聖女のやりとりを隠れて見ていたのだ」

「なぜ隠れる」

「我はともかく妖精が動いているところを見せるわけにはいくまい」

「いや、それはむしろどんどん見せてやりたまえよ」

「妖精が没収されたらどうする。我は妖精と二人で世界一カワイイユニットとなる訓練中なのであるぞ」

「申し訳ない、確認させてほしいのだが、君はえーと、どういう生物なのだったかな?」

「ドラゴンである。ドラゴンの意味は『カワイイ』『愛しい』である」

「私の中では、『ドラゴン』の意味が『いい加減にした方がいい』『おかしい』になりつつあるのだがね……」

「見解の相違だな」

「埋まることのない溝を感じるね……」

「話を戻すぞ」

「まあ、そうだね。お互いゆずれない部分はあるのだろう……それで?」

「あの聖女、わかってやっておらんか?」



 ドラゴンが鎌首をかしげる。

 その上で妖精がべしゃりと膝から崩れ落ちた――たぶん筋力の限界なのだろう。

 それはともかく。



「『わかってやっている』とは?」

「我らが吸血鬼であり、ドラゴンであるのをわかったうえで、無理矢理に『ヒキコモリのおっさん』や『超カワイイ子犬』として扱っておらんか、と言っておるのだ」

「そんなことをして彼女になんの得があるね? あれはそう……今時の若者によくある『自分が現実だと思うこと以外認めない』的な視野狭窄ではないかね?」

「ほう、ヒキコモリが『今時の若者』を語るか」

「…………五百年前の若者によくある視野狭窄ではないかね?」

「データが古い」

「若者なんていつの世もだいたい同じものだろう!」

「貴様が視野狭窄に陥ってどうする。今時の若者は――すごいのだぞ」

「どのあたりが」

「我が型を披露するとだな、よこすオヤツがすごい。五百年前にあのような食品はなかった。日々人類は進歩しているのだ」

「それは食品加工技術が進歩しているだけではないか!」

「ヒトとはオヤツをよこす存在であろう。そのオヤツが進歩していれば、ヒトは進歩しているということではないか」



 ひどい視野狭窄だった。

 広い視野でものを語れる存在が部屋のどこにもいない。



「……まあとにかくだね? 私は、君の考えすぎだと思うよ。だいたい、そういう陰謀論はよろしくない。世界の誰しもがなんらかの意図や野望をもって行動しているわけではないだろう。連中は『なんとなく』行動することもあり、むしろそういうことが多いのだ」

「わかるー」



 なぜか妖精が反応した。

 ちょっとドヤ顔で、とてもムカつく。


 男性がどうしていいかわからず沈黙していると――

 ドラゴンがあくびをした。



「ふわーあ」

「そのわざとらしいあくびはなんだね」

「いやな、貴様は相変わらずめんどうくさい吸血鬼だと思っただけのことよ」

「私としては君の問題提起の方がめんどうなのだが……」

「では貴様にもわかりやすく整理して言ってやろう」

「ふむ」

「我は『聖女はおかしい』と言った」

「ああ」

「『おかしくない』という反論が聞きたいわけではないし、事実なぞどうでもいい」

「…………」

「我の意に沿うような話題展開をせよ。ストレスで我がハゲたらどうする」

「最初から毛なんてないだろう、君は!」

「心がハゲるとしたら?」

「なんて不毛な会話だ……!」

「ようするにな、我は接待されたいのだ。いいから貴様も聖女のおかしな点をあげよ。妖精はいいぞ。少し長い話をすると一も二もなく我に同意する。なあ妖精」

「わかるー」



 絶対になんにもわかってない。

 男性は形勢の不利を感じた――いつの間にか妖精がドラゴン陣営にいて、男性が数の上で劣勢になりつつある。



「くっ……眷属! 眷属よ! このドラゴンになにか言ってやれ!」

「馬鹿め! 眷属を呼んでなんになる! あやつはしゃべらんだろう! 議論できぬ者に力などないわ! これが最近流行りの『民主主義』の力であるぞ!」

「なんだその怖ろしげな概念は……! 王政は!? 血統主義はどこへ消えたのだ!?」

「血統主義は死んだわ! フハハハハハ! この城も民主主義にしてやる!」

「おのれ……! させんぞ……!」



 男性は汗を垂らして拳を握りしめる。

 そばで眷属が『楽しそうだなあ』というような顔をして、ため息をついていた。

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