25話 吸血鬼と眷属はだいたいこうして暮らしている
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
なんかものすごい見られている。
男性は猛烈な視線を感じて目を開けた。
目が合った。
片目を黒髪で隠した、メイド服姿の少女――眷属が、寝ている男性の顔をのぞきこんでいた。
「……なんだね」
「…………」
眷属はなにも言わずに去っていく。
本当になんなのだろう……
男性が首をかしげていると、眷属が戻ってくる。
片手にトレイと、その上にティーカップを持ってきた。
スッ、とソーサーに乗ったティーカップが男性に差し出される。
男性は首をかしげた。
「なにかね?」
「…………」
「……飲めばいいのかね?」
「…………」
そういうことらしい。
男性はソーサーごとカップを受け取り、口に含む。
「ふむ? いつもと違うが……茶葉を変えたのかね?」
「…………」
「目覚めの紅茶を提供したかったのかね?」
「……」
「ん? カップをよこせと? あ、いや、まだ飲んでいるのだが」
眷属はかまわずカップを奪っていった。
そしてまた、去る。
しばしして――
また、戻ってくる。
やっぱりトレイとカップを持っていた。
「今度はなんだね?」
「…………」
「また飲むのかね? ……まあ、別にいいが…………ふむ。先ほどとはまただいぶ違った茶葉のようだね」
「……」
「先ほどからなんなのか、私はそろそろ説明がほしいのだが……」
「あじ、を」
「味?」
「れぽーと、しろ、ください」
なんかいきなり食レポを要求された。
男性は悩む。
はっきり言って困るのだが――
この、必要なこともなかなかしゃべらないような眷属が、自分から発声してまで依頼してきたのだ。
そこには並々ならぬ意思というか、覚悟というか――食レポへの興味があるのだろう。
男性は悩む。
そして――
「最初のお茶をもう一度」
「……」
眷属がスカートの下からお茶を取り出す。
どうやらそこにしまっていたらしい――なんだろう、色々言いたいことはあったが、においをかいでもお茶に間違いないし、男性はお茶と一緒に言いたいことをのみこんだ。
そして――
「こちらのお茶は、少々渋みが強いが、さわやかな味わいだね。草の香りというのか、植物らしさが嫌みなく体に染み渡ってくる。朝に飲むと目が覚めるような、体が健康になりそうな、そういうお茶に思える」
「……」
「そして、えー……二杯目は、デザートのような甘酸っぱさがあるね。しかしくどくない――ほんのわずかなお茶特有の渋さが、果物のような甘味と酸味を上手に打ち消して、後味をよくしている。アフタヌーンにいただきたくなるお茶だね」
「…………」
「……えー、こんなところでよかったのかな?」
眷属はうなずいた。
その日、午後のお茶には、スコーンと一緒に『二杯目のお茶』が出た。
吸血鬼は誰も来ない日、だいたいこんな日常を過ごしている。




