表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/143

25話 吸血鬼と眷属はだいたいこうして暮らしている

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」



 なんかものすごい見られている。

 男性は猛烈な視線を感じて目を開けた。


 目が合った。

 片目を黒髪で隠した、メイド服姿の少女――眷属が、寝ている男性の顔をのぞきこんでいた。



「……なんだね」

「…………」



 眷属はなにも言わずに去っていく。

 本当になんなのだろう……


 男性が首をかしげていると、眷属が戻ってくる。

 片手にトレイと、その上にティーカップを持ってきた。


 スッ、とソーサーに乗ったティーカップが男性に差し出される。

 男性は首をかしげた。



「なにかね?」

「…………」

「……飲めばいいのかね?」

「…………」



 そういうことらしい。

 男性はソーサーごとカップを受け取り、口に含む。



「ふむ? いつもと違うが……茶葉を変えたのかね?」

「…………」

「目覚めの紅茶を提供したかったのかね?」

「……」

「ん? カップをよこせと? あ、いや、まだ飲んでいるのだが」



 眷属はかまわずカップを奪っていった。

 そしてまた、去る。


 しばしして――

 また、戻ってくる。

 やっぱりトレイとカップを持っていた。



「今度はなんだね?」

「…………」

「また飲むのかね? ……まあ、別にいいが…………ふむ。先ほどとはまただいぶ違った茶葉のようだね」

「……」

「先ほどからなんなのか、私はそろそろ説明がほしいのだが……」

「あじ、を」

「味?」

「れぽーと、しろ、ください」



 なんかいきなり食レポを要求された。

 男性は悩む。


 はっきり言って困るのだが――

 この、必要なこともなかなかしゃべらないような眷属が、自分から発声してまで依頼してきたのだ。

 そこには並々ならぬ意思というか、覚悟というか――食レポへの興味があるのだろう。


 男性は悩む。

 そして――



「最初のお茶をもう一度」

「……」



 眷属がスカートの下からお茶を取り出す。

 どうやらそこにしまっていたらしい――なんだろう、色々言いたいことはあったが、においをかいでもお茶に間違いないし、男性はお茶と一緒に言いたいことをのみこんだ。

 そして――



「こちらのお茶は、少々渋みが強いが、さわやかな味わいだね。草の香りというのか、植物らしさが嫌みなく体に染み渡ってくる。朝に飲むと目が覚めるような、体が健康になりそうな、そういうお茶に思える」

「……」

「そして、えー……二杯目は、デザートのような甘酸っぱさがあるね。しかしくどくない――ほんのわずかなお茶特有の渋さが、果物のような甘味と酸味を上手に打ち消して、後味をよくしている。アフタヌーンにいただきたくなるお茶だね」

「…………」

「……えー、こんなところでよかったのかな?」



 眷属はうなずいた。

 その日、午後のお茶には、スコーンと一緒に『二杯目のお茶』が出た。


 吸血鬼は誰も来ない日、だいたいこんな日常を過ごしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ