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18話 やっぱり聖女のペースで物事は進んでいく

「おじさーん、朝ですよー!」



 ガッシャアアアア!

 けたたましい音を立ててカーテンが開かれる。

 真っ暗闇に包まれていた部屋に、朝の光が差しこんだ。



「おじさん、朝!」

「……やあよく来たね聖女ちゃん。待ちわびたよ」



 部屋のベッドの上には、膝を抱えて不敵に笑う男性が一人。

 白髪頭の、社会不適合者のおじさん――それは仮の姿で、本当は吸血鬼なのである。


 別に隠してない。

 ただ、世の中が『吸血鬼ってお伽噺に出るアレでしょ?』という風潮のせいで信じてもらえないだけである。


 だから聖女にとってこの男性は『社会になじめないおじさん』でしかなく――

 聖女は今日も、おじさんを社会復帰させるために来たのだろう。



「まあ! 待っててくれたんですか!? 嬉しいです!」

「ああ、待った。対策は万全だ。今までは君を侮っていたようで、すまないね」

「いえそんな、おかまいなく!」

「……それで」



 男性は、聖女の周囲をキョロキョロ見回す。

 たしか先日、チェスで勝負をした時――



「今日はお友達を連れてくるのではなかったのかね?」

「ああ! そのことで、わたし、ちょっと反省したんです」

「ふむ?」

「たしかにわたしは、『誰とでも仲良くできる子』を連れてこようと思っていました。でも、それって乱暴だったかなって思ったんです」

「と、言うと?」

「『誰とでも仲良くできる』っていうのは、おじさんのことをちゃんと見てない気がしたんです。『誰とでも仲良くできる人とは仲良くできない人がいる』って、おじさん、言ってたじゃないですか」

「うむ」

「考えても、ちょっとよくわからなかったんですけど……」

「……まあ君は光の者だからね。我らの気持ちはわかるまいよ」

「でも、『誰とでも』っていう考えは、乱暴でした! 人は、一人一人違って、みんな素晴らしいのに、おじさんを『その他大勢』みたいに扱ったように感じられるかなって思ったんです。おじさん、ごめんなさい!」

「……う、うむ」



 今日の聖女は一段と光パワーが強い。

 男性はちょっとひるむ。



「だから今日は、連れてくる人をおじさんに選んでもらおうと思うんです」

「……面接でもするのかね?」

「いいえ、相性診断です!」



 と、聖女は背中からなにかを取り出す。

 そこにはいくつかのチェック項目が並んでいた。



「これに『はい』『いいえ』『どちらでもない』を答えていただくことによって、おじさんと相性のいい子がわかるようになってるんですよ!」

「…………最近は便利なものがあるのだね」

「今、若い女の子のあいだで流行してますよ!」



 若い女の子のあいだ、とか言われる男性はなにも言えない。

 おじさんなのだ――『おじさん』の対義語は『若い女の子』である。



「じゃあ、始めていいですか?」

「まあ、それで君が納得するのなら、かまわないがね」

「ありがとうございます! では――第一問! 『わりとめんどうくさがりな方だ』」

「『はい』」

「第二問! 『本音を言えば、吸血鬼や妖精や幽霊などは実際にいると思っている』」

「その質問にもの申したいのだが……なぜ吸血鬼と妖精と幽霊が同一ジャンルみたいに語られているのかね?」

「全部お伽噺に出てくるからです!」

「……」



 時の流れを感じる。

 幽霊はいないし、妖精はいるが連中は虫とか動物と同じジャンルだし、吸血鬼は人かそれ以上の自我と知恵をもってここに存在しているのに……



「……まあ、いると思っているがね。三分の二は確実に……」

「では、第三問! 『空想にふけったりするのが好きだ』」

「歳をとると、昔のことを思い出す機会が多くなるのだが、これは『空想』に入るのかね?」

「どうなんでしょう……若い女の子向けの相性診断なのでそういうのは対応してないんじゃないでしょうか……あ、でも、回想も空想の一つ……なのかな……すいません! ちょっとよくわからないです」

「……まあ、『どちらでもない』としておこうか」

「わかりました! では、第四問!」

「全部で何問あるのだね?」

「全部で五問です! 第四問! 『年上より年下の方が好きである』」

「……その質問、私にするのに向いていないんじゃあないかね?」

「でもいちおう答えていただけると……」

「私より年上はそうそういないのだが」

「じゃあ『年下好き』でいいですか?」

「ニュアンスがこう……まあ、まあ、かまわん。それでいい」

「では、最終質問です! 『外に出る時は近場でもしっかりした服装をする方――』あっ」

「…………」

「す、すいません」

「いい、謝らないでくれたまえ。私とて生まれて一度も外に出なかったというわけではないのだ」

「じゃ、じゃあ、回想していただいて……」

「私は『夜の貴族』と呼ばれたこともあってだね……常に正装だったよ。タイの乱れなどもなかったし、眷属にもそのようにしつけをしていた」

「じゃあ『はい』ですね。では――結果発表! えーと『あなたと相性のいい異性は』」

「ちょっと待ってくれないか」

「なんでしょう?」

「相性のいい異性? なぜ異性限定なのだ?」

「若い女の子のあいだではやっている相性診断ですので……だいたい恋愛がらみしかないんですよ」

「私は別に、恋人を紹介してほしいわけではないのだが?」

「わたしもそんなつもりは……で、でも、わたしのお友達ですから、女の子ですし、別にほら、『恋人候補』と明言はされてないですし! あくまで仲よくなれそうかどうかですよ!」

「……まあ、いいか。続きを」

「はい! では――こほん。『あなたと相性のいい異性は、物静かで空想にふけるのが好きなタイプ。好きなことを共有できれば、話がはずむかも?』」

「……なぜ最後、少し言葉をあいまいに濁したのかね?」

「相性診断ってだいたいこうですよ」

「診断を謳うなら、もう少し確定した情報がほしいところだが……」

「とにかく、物静かで空想にふけるのが好きなタイプには心当たりがあります! まかせてください!」

「君やその相性診断にまかせるのは、それなりに不安もあるのだが……」

「大丈夫! その子、吸血鬼とか好きですから、きっとおじさんと話が合いますよ! すごい詳しいんですよ、吸血鬼とかそういうの!」

「……」



 マニアと一緒にされた。

 本物なのに……



「あ、そういえばおじさん、眷属ちゃんとわんちゃんは?」



 今気付いた、というように言う。

 たしかに今日は、部屋にいない。

 まあ広い城なので、別にいることのできる場所はこの部屋以外にもたくさんあるのだが……



「二人はお散歩だよ」

「まあ、そうなんですか」

「ドラゴンもドラゴンでやるべきことがあるらしくてね……今ごろは街で子犬などを観察し学んでいるのではないかな。眷属は同伴を嫌がったが、街に出るということなので、どうにか説き伏せたのだよ。いや、あいつはドラゴンの世話を嫌がるのでね」

「ドラゴン? わんちゃんの名前はドラゴンちゃんになったのですか?」

「いや、あいつはドラゴンだよ。もう犬はやめたのだとか」

「……えーと……あ、はい、なるほど! 大丈夫です! 今度連れてこようとしてる子、ドラゴンも好きですから! よく『竜の末裔で吸血鬼の魔法使い』って自称してます!」

「……竜の末裔で、吸血鬼の、魔法使い? ……竜の末裔で、吸血鬼の、魔法使い?」



 さっぱり姿が浮かばなかった。

 竜の末裔ということはドラゴンだろう。だが、ドラゴンは一般的に魔法を使わない。

 やつらには翼と息があり、強靱な体がある。また、驕りやすく努力を怠る性格の者が多く、魔法をいちいち学習したりはしないはずだ。


 吸血鬼で魔法使いなら、まあわからなくもないが……

 吸血鬼は目に魅了の魔法があったり、牙に隷属の魔法があったりと、体の各部位に魔法が宿っている。

 それのみならず、自然現象系の魔法の才能も高いので、だいたいの者が手足のように魔法を扱う。


 なので『吸血鬼』という時点で同時に『魔法使い』という意味も含む。

 よって『吸血鬼の魔法使い』は言葉の意味が重複している。

 あと、ドラゴンと吸血鬼は兼ねられない――ドラゴンを眷属にしたり同胞にしたりは、不可能だったのだ。



「……君のお友達は、どのような化け物なのだね?」

「あーその、えっと……そういうキャラなんですよ。たしかにちょっと話がわからない時とかもありますけど……明るくていい子なので!」

「竜種であり吸血鬼でありながら、『明るくていい子』……? 闇の者ではないのか?」

「闇の者だそうですよ」

「………………………………」



 おじさんは混乱している。

 いったいどんなクリーチャーを連れてくるつもりだというのか……



「……よかろう。なにが来ようと、もはや私の敵ではない」

「いえ、敵じゃなくてお友達なんですけど……まあ、おじさんなら話が合う気がします」

「そうかね? まあ、話が合わなくともかまわないが。なにせ私は、一人でもやっていけるのだからね」

「じゃあ、その子の予定が合ったら連れてきますね」

「うむ。待っているぞ」



 こうして吸血鬼の知り合いが増えることになった。

 やっぱり聖女のペースで物事は進んでいる。

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