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14話 眷属は吸血鬼となかよし

「………………………………」



 眷属は犬を持ち上げる。

 顔の前あたりで止めて、しげしげとながめていた。



「なんだ貴様、我に何用だ」



 犬が言う。

 正しくはドラゴンだ――『犬のようなドラゴン』でさえなく、ドラゴンだ。


 四足歩行で、尻尾が生えていて――

 体表がウロコで覆われ、翼と角の生えた、首が長く、爬虫類みたいな目をしている。



「……」



 眷属は言葉を発しない。

 ただ、黒髪に隠れていない方の目で、持ち上げるのにほどよい大きさのドラゴンをジッとながめるだけである。



「なんだ貴様、なにか言え。我を持ち上げてどうしたい?」

「…………」



 眷属はきょろきょろと周囲を見た。

 ここは、主の部屋だ。


 遮光カーテンが閉め切られた真っ暗な空間。

 ただし視界は悪くない――光源があるとかでなく、眷属は暗いところでもよく見える。


 普段はベッドに寝ているか、ベッドに座っている主はいない。

 今はちょっと、別な場所で趣味の日用大工にいそしんでいる。


『フハハハ! 物質顕現能力に頼らず、戦いの役にも立たぬ物を作るという無為さ! これはこれでなかなか興味深いものよ!』とか言いながら始めたのが四百年前だっただろうか……

 それ以来、主は身の回りのものはだいたい自分で作っていた。


 今はチェス盤を作成中のはずだ。

 駒まで削っている。


 今度聖女が来た時に誘ってみるそうだ。

 めんどうとか言いつつ、主は聖女来訪を楽しんでいるフシがあった。



「おい、貴様、我を見るのか見ないのか、どっちなのだ」



 手の中でドラゴンが言う。

 威厳ある声だ――さぞかし雄大なる姿を持つ者が発しているのであろうと予想できる。


 まあ、現実は手の中サイズの爬虫類だ。

 腹をなでると喜ぶ。



「おう、おう……やめろ……親指で我の腹部をクリクリするでない……」



 身をよじっていた。

 嬉しそうだ――声と動作と姿のギャップがひどい。


 眷属は再び、ジッとドラゴンを見る。

 ドラゴンは股間を隠すように尻尾を持ち上げた。



「なんなのだ貴様は……我をもてあそんでどうしたい?」

「…………」

「無口なやつめ。ふん、よかろう。貴様が我に無礼を働こうというのなら、その前に教えてやる――我はかつて『空より降り注ぐ災害』と呼ばれ怖れられた、ドラゴンどもの王である。今の姿に騙されて我をあなどるのはよした方がいい……我がその気になればこの世界などあっというまに炎に包ま……うひゃ、やめろお前足のつけ根をこしょこしょするなあ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「……」

「……ふう、貴様、なかなかの指技を持っているな……よかろう、我のハーレムの一人に加えて……やめい! 我の腹部を左右からギュッてするのやめい!」

「……」

「わかった! わかった! ハーレムに加わらなくともよい! ……ふう、まったく……我のハーレムに加われるなどという光栄を辞するとは、なかなか謙虚なやつよ……」

「…………」

「おい、なにか話せ。我ばかりしゃべっていてアホみたいではないか」

「……………………」

「――ふむ、なるほど、そういうことか」

「……」

「宿敵が部屋にいないタイミングで我に近寄ってきたこと……そして我の体をおもむろに抱き熱く見つめてくること……なによりハーレムでは嫌だというその態度――貴様、我の正妻になりたああああああああああああ!? 肋骨の方をゴリゴリするのやめい! 痛気持ちいい!?」

「……」

「なにが不満なのだ……我は種族を問わず様々な女を魅了してやまぬ竜王であるぞ……ウロコ磨きとかやらせてやるのに……」

「…………」

「わかったわかった。貴様にも世間体があろう。我が宿敵に仕える立場で我の正妻というのは少々扱いが派手――おい待て、なにをしようとしている。なぜ我を片手に持ってふりかぶるのだ。まさか投げようというのではあるまいな?」

「……」

「冗談だ冗談……冗談だよ?」

「…………」

「そうそう、よーしよしよし。いい子だ。ゆっくりな。ゆっくり我を降ろすのだ。そうすれば我に言い寄ったことは宿敵には――」



 ガチャリ。

 扉が開いて、部屋の主――吸血鬼の男性が帰ってきた。


 べちゃり。

 眷属はパッとドラゴンを床に落とした。



「我の金属より硬いプリティなウロコに傷がついたらどうするのだ!」



 ドラゴンが騒ぐ。

 部屋に帰ってきた作業着姿で白髪を後ろにまとめた男性は、不思議そうな顔をする。



「どうしたのかね?」

「……」



 眷属は黙って首を振った。

 そして――



「…………おかえりなさい。あなたの、けんぞくです」

「どうしたのかね!?」



 あれほど無口な眷属が『話せ』と言われなくてもしゃべった――

 その事実に、男性は心配そうな顔になった。

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