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付与魔術師の冒険  作者: アリンコ
1/1

「守る」ための付与魔術

初投稿です。


右も左も分からない人間が書いているため、読み手の方に不快な思いをさせたらすいません。

皆さんの意見を参考にして、なるたけいい作品になるよう努力していきます。


更新も慣れない状況のため、なが~~い目で温かく見てやって下さい。


これは現代とは異なる世界でのお話。


現代の科学とは違い、神秘の力「魔法」が日常にある世界。


「魔法」と言われると何を想像するだろう?燃え盛るような炎?迸る雷鳴?凍てつく氷河・・・?それとも傷ついた身体を一瞬で治癒するもの?

誰も彼も想像する「魔法」とはこの世界においても、主流とされる魔法。そんな魔法だが、果たして主流、主役とされる魔法が最も優れているのか?

そして、「主役」の魔法を行使できないことは他よりも劣ることなのか・・・?





その答えはきっと・・・・・





頬を撫でる心地よい風。季節は新緑。芽吹きの香りも付随するため非常に心地良い。その香りを胸いっぱいに吸い込む。

「ん~~~!気持ちいいなぁ。」

無意識に言葉が漏れ、両手を天高く伸ばしてみる。まるで空を漂う雲すら手に掴めそうな気がしてくる。・・・いや、ホントは掴めないんだけども。


そんな生産性のない思いに耽っている青年。背丈は180㎝そこそこだが、線の細さも相まって風吹けば飛ばされそうな印象すらある。やや緑がかった黒髪に寝癖チラホラの髪型(本人的にはナチュラルヘアー)。

顔つきは・・・ダラケている。ダラケきっている。そう、まるで縁側に丸くなっている猫のように。ポカポカ陽気のためか、もともとか。何度も言うが、ダラケきっている。ダラケ顔のため年齢不詳だが、20代くらいか?

そんなダラケ顔・・・もとい青年だが、一つだけ特徴がある。濃紺色のコート、ローブを羽織っていることだ。この世界でローブを羽織っている者は一目で「魔術師」と分かる。


・・・魔法。この世界が現在の世界と異なる大きな要因。神秘の力の具現たる「魔法」を行使することでこの世界は成り立っている、と言っても過言ではない。

それは「火」であったり、「水」であったり、「風」であったりというように。その事象を発現し行使することで生活している。


もちろん、万人が魔法を使える訳ではない。

生まれ持った「才能」。正確には魔力があるか、ないか、これに尽きる。

魔力を持たないものは、例えどれだけ切望しようと神秘たる魔法を行使することが叶わないのだ。

故にローブを羽織っている者は一様に一般人から見ると畏怖、はたまた尊敬の対象となるのだ。


そんなある意味エリートである魔法職の青年は・・・。

ダラケ切った顔つきで街道をの~んびりと進んでいる。

田園風景が見受けられる田舎道であるため、行き交う人は数えるくらいだ。しかし、その誰もが青年(ローブ)を見て畏怖し、そしてその表情を見て(ダラケ顔)、呆気にとられている。

そんな視線に気付いているのか、気付いていないのか青年はの~んびりと南に向かって進んでいる。


この「名も泣き街道」を抜けると町がある。といっても規模としてはこの田園風景に比較したサイズの小規模の町だ。

変わったネーミングセンスの街道ではある。名も泣き街道って・・・。何が泣いてるの?!


またもや生産性のないことを考えていたが、


「来ないでよぉ!!誰かぁ~~~!!」


・・・大音声の泣き声。さらに助けを呼ぶ声が、まるで図ったように街道外れに位置する岩場の死角からする。

う~~ん。名は体を表す、とはこのことか?


またまた、生産性のないことを考える。


「誰かぁ~~~~~~!!!!!」


おぉ、さらに切迫している様子だ。


「・・・はぁ。流石に放っとけないよなぁ・・・。」


青年はダラケ顔のまま、器用に眉だけをしかめ後ろ髪を搔きつつも街道から翻った。




いつもの事だった。彼女は名も泣き街道を3日に1度の頻度で町から森の山菜を採りに出かけていた。

ショートカットに切り揃えられた亜麻色の髪、クリクリっとした猫目、やや幼さは残るが傍目にも美少女だ。

そんな彼女は山菜、主に食用、そして薬草といった医療用の採取を行い細々と生計を立てている。

か弱い女性が一人森に入ることを良しとしない者もいるが、彼女は周囲の反対を押し切り採取へ出かけている。

ある程度腕に自信があることもあるが、彼女は「危機回避」に関して才があった。


この世界には神秘の力「魔法」で成り立っているが、それに付随して「特技」が存在する。

特技は彼女の「危機回避」など個々の能力を跳ね上げるものであり、各個人で特技の具現は異なる。

これは、個々人の経験や才と大きく影響している。

経験とは、有体に言えば剣を振り続けることで剣の使い方が上手くなり、個人の才にもよるが、才あるものは「剣撃」を習得する。


彼女の特技は「危機回避」。それは彼女が周囲の反対を押し切り危険な森へ踏み入って採取していることが習得につながっているが、彼女の才も影響している。


そんな彼女だから、普段と変わらず、危険に対しては事前にエスケイプ。

専守徹底を心掛けていたおかげで、今まで事なきを得ていた。

しかし、この日は少々普段と異なった。

彼女が森に入る前に既に先客がいた。・・・子供だ。それもまだ、はいはいすら出来ないような幼子。

彼女は人一倍責任感が強い。それは自他ともに認めるところだ。

そんな彼女が森にほど近い木の幹に置かれている子供を見て。

・・・放っておける訳がなかった。

そして、子供が泣き喚いた時に、彼女の「危機管理」は凄絶に彼女に警告をした。


せめてこの子だけでも!


そんな切実な思いだけでひたすら危機から逃れる。

草木を掻き分け、時に物影に隠れながら必死で危機と距離をとるように。


しかしながら、運命とは無常。まるで彼女をあざ笑うかのように袋小路になった岩場へ誘う。


彼女は必死に視線を動かし抜け道はないか、なんとか抜け出せないか画策する。

しかしそんな時


「グルオォォ~~~!!」


遂に「危機」がやってきた。

・・・それは「魔物」。


この世界には2つの大きな勢力がある。

人間と魔人だ。

人間が神秘の力による魔法を行使するとしたら、魔なる者、魔人が行使、使役するものが、「魔物」。

古来より、人間と魔人は相容れぬ関係にある。

魔人は人間を忌み嫌い、人間も同様に魔人を忌み嫌っている。

魔人が使役する魔物とは魔人の魔力を注がれ変異した生物、物質を指す。

その特性は身体能力強化、特殊能力付加などあるが、最大の特徴は人間に害となる、ことだ。


彼女を囲む魔物は5匹の群れだ。

体は茶色。体毛を生やした小柄な人間と大差ない大きさ。簡単に表現すれば二足歩行する犬、が最も近いか。名をコボルト。


1、2匹程度なら彼女でも撃退することは可能。しかし、コボルトは集団戦を得意とする。一般人が集団のコボルトに被害に遭うことはざらだ。5匹のコボルトに囲まれた状況はまさに彼女の今までで、一番の危機的状況だ。


彼女も単身で森に入っている以上、ある程度は戦闘についても経験がある。通常のコボルト5匹なら怪我はするだろうが、何とかなるかもしれない。一か八かに掛けることも可能だった。しかし子供を守らないといけない状況が彼女に捨て身という選択を削いだ。それが、今の状況に追いやった。


更に集団コボルトを指揮するリーダー。こいつが厄介だった。


・・・それは、特異種。

魔人が通常、魔力を注ぐ相手は少数だ。それは魔人族事態の数が少ないことや与える魔力が大きいことも影響するのだが、その少数が各々交配し、子を増やすのが一般的な魔物だ。

特異種とは魔人が直に魔力を注いだ相手を指す。彼女を囲んでいるコボルトリーダー(仮)はまさに特異種だった。今までのコボルトの比ではない基本能力を持っており、一目、彼女では太刀打ち出来なかったのだ。


(このままじゃ・・・!・・・・・もうなりふり構ってられない!)


彼女は決断する!コボルトリーダー(仮)は彼女の変化に対し、敏感に反応し迎撃できるよう身構える!

それに対し、彼女は姿勢を低くし、大きく息を吸い込み!・・・・・え?


「来ないでよぉ!!誰かぁ~~~!!」


これでもか、と大声で助けを呼んだ!

彼女Aは大声で助けを呼んだ!

・・・しかし、たすけはこなかった!!


「誰かぁ~~~~~~!!!!!」


彼女Aは再度大声で助けを呼んだ!


予想外の行動にコボルトリーダー(仮)は様子を見ていたが、助けを呼んでいることを理解したのか、周囲へ指示を出す。

徐々に包囲網が狭まっている。

彼女は壁に背を付け、左手で子供を抱え、右手で腰から一振りのナイフを構えた。


酷い手段だ、とは彼女自身思っていた。

この状況に助けを呼んだところで来ない可能性もある。

何より、もし助けてくれるようなお人好しが来たとしても、この状況では道連れになる可能性の方が高い。

そんなある意味他人を犠牲にする非情な手段をとったのも、一重に彼女の左手に守られている存在故だ。


(せめて、貴方だけでも守ってあげるからね!!)


彼女の頬を汗が伝う。空気が緊張する。まるで自分を中心に時がゆっくりと流れているような感覚。


(やるなら、先手必勝!!)


周囲を狭める包囲網の一角に狙いを定める。向かって左側からの包囲網脱出を図るべく、彼女はナイフを抜刀し肉薄する。


獲物の思わぬ速さにコボルト達は反応追いつかず、一体のコボルトは首から切断され地に伏した。が、それには構わず、コボルト達は彼女へ襲いかかる!

それに対し彼女は振り抜いた位置からさらに、右足一本にてスピンし振り抜いたナイフに遠心力を纏わせコボルトリーダー(仮)の首元に振るう!!


それは完璧なタイミングに見えた。一般的な身体能力から言えば彼女の一撃は必殺の一撃としてコボルトの首と体を分かれさせていただろう。

しかし、流石は特異種といったところか。彼女渾身の一撃はコボルトリーダー(仮)の爪にて防御されている。


彼女の行動はそこまでだった。自慢の疾走からの一撃。そこからの連撃にて特異種を切り伏せる。これを回避された段階で彼女は詰んだ。


そこへ他のコボルトが各々、攻撃を仕掛ける!

それに対し右手のナイフで防御するも、片手で全ては防ぎきれない。コボルトリーダー(仮)が間隙を縫って彼女の胴体へ蹴りを入れた。


「かはっ?!」


肺から強制的に空気を吐かされ、壁へ背中からぶつかる。彼女は左手に抱えた子供に力を入れ何とか衝撃から守る。泣き声が聞こえるからきっと大丈夫だ。そう思い、再度守る者を認識し、現在の切迫された状態でも気を保つ。

ぼやける意識においても必死に前を向くが・・・・。運命は無常。

既に目前にコボルトの爪が彼女へ向かって振り下ろされようとしている。


(あぁ・・・。やっぱり、この世に神様っていないんだよね。初めから分かってたけど、それでも・・・。それでも、この子だけは助けたかったな・・・。)


今までの生涯が彼女の脳裏にフラッシュバックする中で、彼女は切に願った。

・・・せめて、この子だけでも助けたい・・・と。


左手で子供を搔き抱き、茫然と振り下ろされる爪を見る。


しかし、その爪は振り下ろされなかった。

無常に振り下ろされるはずだった爪はその持ち主とともに前向きに倒れた。


「・・・・え?」


彼女は茫然と横たわるコボルトを見た。

見れば、コボルトの胸に拳ほどの大きさの空洞が出来ている。


「大丈夫・・・ですか?」


ひどく、緊張感のない声。

まるでゆるりと流れる風のような、場違いといっても良い程。

それでも彼女の心に安堵を与える優しい声が聞こえた。


同様にコボルト達にも聞こえており、コボルトリーダー(仮)を筆頭に後方へ振り返り威嚇する。

それと同時、彼女もコボルトの群れから後方を垣間見る。


そこには濃紺色のローブをはためかせ、佇む青年がいた。

やや困ったような、それでいて気遣っているような優しいまなざし。


彼の表情にも意識がいくが、それよりもローブを羽織っている、ということが、彼女にとって意味が大きかった。

要は魔術師が助っ人に来てくれた!これで子供も、私も助かる!助けてもらえる!

・・・これが、彼女にとっての意味合いだ。


そんな彼女の考えを知ってか知らずか、彼はまだ、曖昧な表情のまま彼女の動向を確認している。


そんな中、コボルトリーダー(仮)が黙っているはずがなかった。


「ブロオォ~~~!!」


咆哮にて威嚇、自身へ注意を向けつつ、既に新手と認識されたローブの男へ視界の隅より一体のコボルトに奇襲を仕掛けさせた!


「ギャウ!!!」


「ぐはっ!?」


コボルトリーダー(仮)の威嚇に対し、注意を削がれたローブの男は見事にコボルトの飛び蹴りを腹部へ喰らい、後方へ吹っ飛ばされた!!!


「・・・・・え?」


彼女は驚きを隠せない。

当然だ、ローブを着た一人旅風の男。

魔術師が一人旅をする。

これだけで彼に対する他者からの評価として、力量が高いことは誰でも容易に想像がつく。

そんな彼が特異種とはいえ、コボルト如きに遅れをとり、後方へ吹っ飛ばされたのだ。


・・・これは彼を犠牲にしてでもこの子と逃げるべき!?


そんな考えさえ、彼女に湧き起こらせた。


そんな不穏な空気を察したのか、


「痛たたった!!」


男が立ち上がった。

その周囲には既にコボルトリーダー(仮)を中心に包囲網が完成している。


「まずいね、これは。・・・・ごめん!彼女!少し手伝ってほしい!怪我は大丈夫かな?」


・・・はぃ???

助けてくれるのではなく、手伝ってと???


彼女Aは茫然としている!!


「えっと・・・。あなたは魔術師さん、ですよね?」


つい本音が出てしまった。

それについて彼は一瞬苦い表情をするが、すぐにいつも通りの表情と言うべきか、やや困った表情となり、


「・・・ごめんね。俺は、一応ローブは着てる。でも魔術師ではないんだ。・・・俺は付与魔術師なんだ。」


「・・・・・・ぇ???」


彼女の思考は真っ白になった。


・・・付与魔術師。

その名前の如く。

付与魔術師とは物体や生物に対して自身の魔力を行使して魔力を「付与」することを行う。付与魔術は現在の世界において欠かせない存在だ。

それは夜の帳を照らす明かり、食材を保存するための冷凍、冷蔵、料理を行うための火など、ほぼこの世界の生活必需品というものには大なり小なり付与魔術が関与している。

そんな理由で、付与魔術師は民衆から大きな支持を得ている。

だが、こと戦闘になると・・・。


彼女の反応は至極当然ともいえるものだった。


「付与魔術師はパーティーに入れるな。」

この世界ではある意味常識的な文言だ。

パーティーとは、この世界でのギルドに所属する冒険者たちが組んだチームのことを指す。

そのパーティーに入れるな、これは冒険者に付与魔術師はいらない、と取ることも出来る。

付与魔術は確かに高度な魔法操作能力を必要とし、その使用する魔力量も多い。

このことから、魔法の才は十全にあると言える。

しかしながら、行使速度が致命的に遅い。

これが冒険者から辛辣な評価を貰う要因だ。


一度行使してしまえば永続的な効果を与えることも出来る付与魔術だが、結局は戦闘中に行使出来なければ、体術も使えない、魔法も碌に放てない要員は足手纏い以外の何物でもない。

むしろ戦闘前に付与魔術を掛けて、足手纏いとなるくらいなら、初めから付与魔術により帯電なり帯火ないされた剣や、道具を使う方が効率的だ。


このことから、付与魔術師とは一律に便利な魔法使いだが、戦闘は出来ない職業。

おおよそ冒険者のような戦闘向きの職業とは言えないもの。

この認識が世間一般だった。


彼女も世間一般は齧っている自覚がある。

そんな彼女だから彼が放った言葉に受けた衝撃は計り知れない。


「だから、お願いだ。君の力を貸してほしい。」


再度男から、彼女へ言葉が投げかけられる。先ほどよりも切迫した空気。


コボルト達が徐々に包囲網を狭め、様子を伺っているためだ。


「そんな!だって、、、私はさっき、コボルト達に追い込まれたのに・・・・。無理よ!!」


悲痛な叫びを上げ、子供を抱え蹲る。

見れば、彼女の肩は小刻みに震えている。


・・・無理もない。ついさっき死地を経験しているのだ。

そんな彼女にまた戦え、と言うのは余りに酷なお願いだ。


それを理解してなお、男は語りかける。


「お願いだ!僕を信じてくれ!僕は付与魔術師!!冒険者に役立たずって言われる職業だ!」


「・・・え?」


不意の発言に彼女がおもむろに男を見る。

男の表情、いや目が先ほどまでのものとは異なった。

彼女を真っ直ぐに見る真剣な眼差し。その左目は吸い込まれそうな程、幻想的な翡翠色をしていた。


「だけど!!必ず、君とその子供を守って見せる!!!俺の名前、アラド・ヴァ―ユンの名に懸けて!必ず、守って見せるから、僕を信じて欲しい!」


「ヴゥ!ウオォオオ!!!」


先の一撃から、何か仕掛けられているのか、警戒していたコボルトだったが、遂に痺れを切らしたのか、一体のコボルトが男・・・アラドへかぎ爪を振るう!!


アラドは地面に転がり何とか爪を躱す。しかし、態勢を崩した状態、隙を見せた敵に対してコボルト達は容赦なかった。

一斉にアラドへ襲いかかろうとする!!!


「俺を信じろ!!!!」


絶体絶命と思われたその時に、アラドはなんと、彼女を真っ直ぐ見つめ再度言葉を発した。


「!!!!」


彼女がヤケクソにコボルトへ疾走する!


「・・・え??」


彼女が地面を蹴った瞬間にコボルトとの距離を食い潰した!

彼女の視界一杯に迫るコボルトに対し、咄嗟にナイフを薙いだ。

まるでバターを切るかの如く、コボルトは胴と頭が離れ離れになった。


急迫した女に対し、コボルトリーダー(仮)を除く他、都合3匹のコボルトは意表を突かれた。


その隙を彼女は見逃さない。

距離を一足で食い潰した脚力は健在だ。チラと視線を向けると自身のブーツが淡く翡翠色に輝いている。それはナイフも同様。

驚愕を胸の内に秘め、一体を切り伏せ、一歩で跳躍、体を回転させ反対の足にてコボルト2体の頭を蹴り飛ばす!

ピンボールが吹き飛ぶように2体のコボルトは吹き飛ばされ、それぞれ木に激突し、こと切れた。

さらにもう1匹が彼女へかぎ爪を見舞おうとするが、それをナイフで迎撃する。

これも、バターを切るかの如く抵抗感もなく、かぎ爪ごと、コボルトの胴体を袈裟から分断した。


「グギャァオオ!!!」


コボルトリーダー(仮)が仲間を倒されたことに怒り、彼女へ発達したかぎ爪を振るう!!

タイミングが絶妙だった。

ナイフを振り切り、重心が泳いだ状態、さらに子供に狙いを定め振り下ろす!

それに対し、彼女は咄嗟に自身の体を捻り、子供を庇う!

彼女が子供を守りたいことを理解した上での攻撃選択。

まさにコボルトリーダー(仮)の必殺の一撃だった。


彼女が再度訪れた「死」に対し覚悟を決めようとするが、


「・・・信じてくれて、ありがとう。約束は絶対に守って見せるよ。」


ふわりと春風の如く、優しい声が彼女の耳朶をうつ。


女が驚愕に目を開ける。

そこには、振り下ろされそうとするかぎ爪と、彼女との間に体を割り込ませたアラド。

チラとこちらに目を向ける優しいまなざし。


「君はもう終わりだよ。悪いが牙を剥く相手に容赦は出来ない!」


迫るコボルトリーダー(仮)に対し決然と言い放つアラドは、自身の右手から翡翠色に輝く光弾を投擲した。


キィンッ!!!


自身の耳に届いた音に驚愕とした彼女が、アラドを、コボルトリーダー(仮)を見上げた。


同時に、コボルトリーダー(仮)がかぎ爪を振り上げたまま前のめりに倒れた。

そう、最初にアラドが現れた時のコボルトと同じように。


女は再度、倒れたコボルトリーダー(仮)を見やる。

やはり、心臓の位置だろう、左胸にぽっかりと拳大程の大きさの穴が出来ていた。


「・・・大丈夫ですか??」


再度彼女へ同じ言葉を掛ける青年。

彼女は茫然と塵に変わるコボルトリーダー(仮)を見やっていた視線をアラドに戻す。


そこには困ったような表情だが、にこやかに笑う青年が・・・・鼻血を出していた。


「・・・ブフッッ!!」


彼女は盛大に吹いた。

シリアスな雰囲気から一転、急に肩を振るえ笑い出した女にアラドは不審な者を見る目を送る。


「フッ!うふふふ!あっはっははぁ・・・。はぁぁぁ~~~、笑った。・・・あの、鼻血、出てますよ??」


彼女からの発言にて、アラドは己の失態に気付いた。


「おぉう!!これは失礼しました!!」


そう言って手で鼻を拭おうとするが、そっと差し出された、若草色の布。


「どうぞ、です。」


「あ、ありがとうございます。」


「こちらこそ、助けてくれてありがとうございました。魔術師さん。」


「いや、俺は魔術師ではなく・・・」


「いえ、私にとってあなたは魔術師さんでしたよ」


その言葉にアラドは目を見開く。

自身は魔術師などの冒険者向けの高等な職ではなく、冒険の出来ない付与魔術師、そう思って生きてきた。例え便利な道具は作れても、冒険者をしたいなど、彼のように夢を見るものは周囲から蔑まれてきた。

・・・そんなアラドだからこそ、この言葉は、この言葉には意味があった。


そんな彼の心境を知ってか知らずか、彼女は自己紹介した。


「改めて、助けてくれてありがとうございました。私はウェンディ。ウェンディ・ノールです。この子も無事みたいで良かった・・・。」

慈しむように不安そうな目を向ける子供を見やる。


「こちらこそ、ありがとうウェンディ・・・さん?」


「なんでさん付なんですか??あと、なんでお礼を言うんですか??ウェンディ、でいいですよアラドさん。」

クスクスと笑いながらウェンディが答える。


「じゃあ俺のこともアラド、でお願いするよ、ウェンディ。」


「はい、よろしくです。アラド。」


「うん。・・・それでウェンディ、その子の名前は???ウェンディって若そうに見えてお母さんなんだよね???」


「・・・・へ???」


アラドの予想外の質問にウェンディは唖然とする。そんなウェンディに更にアラドは追撃を行う。


「あ、待てよ?女の人は見かけによらずしたたかだって、じいちゃん、言ってたっけな。・・・そっか、ウェンディもこう見えて実はいい年のお母さんなんだね!」


本人は何も悪意がない。繰り返し言おう!本人には何も悪意がない。

それ故に、ウェンディから表情が消える。


「・・・あれ??ウェンディ?何で俯いて肩震わせてるの??もしかしてどこか痛む???」


心配そうにアラドが俯くウェンディを覗きこむ。

子供がウェンディの表情を見て泣き出しそうな顔をしていることにアラドは気付いていない。

彼には「危機回避」はないのだから!


「・・・誰が、子持ちの年増女ですかぁああああ!!!」


覗きこむアラドに思いっ切りビンタを打ち放った!


「ぐはぁああああ!!」


アラドは盛大にぶっ飛ばされた。


「・・・なんでぇ???」


倒れたアラドは両鼻から鼻血を垂れ流しながら白目を剥いた。




空は青く澄んでおり、雲一つない晴れやかな一日。

麗らかな春の陽気を含んだ光が木漏れ日となり、そっと辺りを照らしている。


いかがでしたでしょうか??

つたない文章能力で最後まで読んで頂いた方には感謝です。


たちまち、しょっぱなは主人公、付与魔術の導入というニュアンスが強かったです。

これから、世界観などに触れていけたら、と思っています。

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