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さくら荘の珍住人  作者: 和泉あや子
第一章 挨拶まわりの壁
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第一章2 夜中に響く隣室からの音

 第一印象「引っ込み思案な人」を回避するつもりが、一〇二号室の住人がいきなり壁だった。壁どころか城壁じゃないか? 大家さんは、いい子だっておっしゃっていたから完全に安心していた。挨拶まわりってこんなに難易度高かったっけ。こんなんでこの先大丈夫かな、私。隣に住む女子のことが気になってしまう。


 しん、とした部屋にまぬけな音が鳴りひびいた。腹の虫は悩みおかまいなしに空腹を訴えてきた。隣の変わった住人のことはひとまず忘れることにし、少しはやいが夕飯の支度にとりかかった。

 実家に居たころも、料理が苦手な母に代わって毎日ごはんを作っていた。

「母さんたち、ちゃんとご飯食べてるかしら」

 こぼれた独り言が、誰もいない部屋にむなしく響いた。できあがった料理をお皿に盛り、テーブルにセッティングした。お気に入りのマグカップに紅茶を淹れた。考えてみると一人で食事をするのは、はじめてに等しい。秒針の音が響いていた。こんなにも一人での食事が、味気ないものだったのかと、ぼんやり思った。



 引っ越しの片づけと隣の住人のことで、一気に疲れたのか、眠気がおそってきた。早々に寝支度をし、ベッドにもぐり込んだ。すぐに眠りに落ちた。


 どこからか、かすかな声が聞こえてきた。目を開けてみると、夜中なのか外が暗い。一瞬、実家にいるような錯覚がして、母さんたちがまだ起きているのかと思った。部屋は肌寒かった。枕もとの携帯電話で時間を見れば、まだ二時だった。声はまだ何かを言っている。耳をすますと壁ごしに隣から聞こえてくるようだった。



「……か……ない……け…ない………………かばな……い」


 何なんだこんな時間に、しかもうなっているように聞こえる。しばらく耳をそばだてて聞いていると物音がし始めた。さっきの声より大きく、近いようだった。踊っているのか、大掃除でも始めたのか。ガタゴト音をさせて何をしているんだろう。気になって眠れない。


 しばらく経つとうるさい音は収まった。かと思ったが、何かを打っている音が鳴りはじめた。カコーン、カコーンと薄気味悪い。丑の刻参りを連想してしまう。いや待って、今まさに丑の刻じゃないか。もしかするのでは、と考えついて身震いした。きっと違うよね、うん。丑の刻参りは神社でするものだし、人に知られないようにするものだし。私の思い込みだろうと信じられる理由をあげて落ち着こうと言いきかせた。


 隣人は毎晩こうなのかしら。長いため息をついた。布団を頭からかぶって眠ろうとした。だけどすぐには眠れず音が鎮まるまで眠れなかった。




 引っ越して一日、すでに隣の住人が怖くてどうしよう。





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