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88.予期せぬ友達

やっとはっきりとしてきた

幼い頃見たお母さんの姿はさっき

玄関で見送ってくれた姿

私の中で甦るお母さんの面影


今ついたばかりの電車に乗り込む

夜でも会社帰りのサラリーマンや

遊びに行ってたであろう中高生くらいの男女

たくさん乗っていた

だけど急いで乗ろうとする人はいない

朝の通勤ラッシュならまだしももう帰るだけだから

安心した電車は静かにそのドアを閉めた


少しずつ思い出していく

私の霞がかった記憶

思い出したお母さんの姿

にっこりと笑う口の端、皺の少し入った笑顔

私の姿が消えるまで見つめていたその眼差し



あと幾つ

この電車に乗って

『あぁ…そうだったんだ』

って霞が晴れていく感じ幾つ待っているんだろう

気持ちが高まった

確かに記憶は確実に私の手元にある

けど、実感が欲しい…

私はそこで生まれて奏汰君というお隣さんと出会って

短い期間だったけどたくさん遊んで

お互いの親にみっちり怒られたりして

思わず家出したりとか

お互いの家に遊びに行って…


自分の気持ちとか嘘だとか思わない

何気ないことで笑ったり泣いたり怒ったり騒いだり

でも今の私には『記憶』がそのまま掌に乗っかってて

これが貴方の記憶ですよって気安く扱われてるみたいで

どこか実感っていうものが存在しない

そのための時間が欲しかった


ポケットに閉まった紙を取り出す

綺麗に折りたたまれた二つ折りの紙を広げる

そこにはお母さんの直筆で書いてある

自力で捜すつもりだった

記憶の道を辿って

でも、そこに書いてあったのは住所だった



それはお母さんが心から納得してくれた証拠

私のこれからも続いていく彼への気持ちを――



ふっと見上げるともう夜で何も見えなかった

けど何か確かにそこにあって心をつき動かせてくれる

一つの光みたいなものがあった



何も考えてなかった

お金なんかたっぷりあった

ここできっと切符なんか軽く買えるお金の量

少し安心この中途半端な平日

何にも考えてなかった私にも新幹線に乗れるチャンスはあった


訳ありかぁ?

そんな表情をしながら駅員さんは切符をくれる

それもそうだこれもまた考えてなかったことだけど

こんな夜中にどう見ても未成年の半端な子供が一人で新幹線

訳ありに見えないって言う人はいないんだろう

指定された座席を見つけると腰を落ち着かせる

 「ふぅ〜」

その言葉以外何も出ない

ライブの後に新幹線

電車に揺られてその内乗り換え2回

さすがの現役女子高生でもこんな仕打ちを受ければ疲れる

私もふまえ今頃の子は大概体力無いけど…



一段落着いた時に私の携帯が鳴った

軽快な着信音に周りを気にしながら

急いで取り出し今は五月蝿い極まりないお気楽な音を消す

その時落ちそうになった上着を支えながら

奇妙な格好のまま携帯を確認する


 「あ…」


あの女性からだ

実はあの会場に行って一人友達になった子がいた

それは隣にいた一番初めに拍手をしてくれた子

何だか不思議な雰囲気を放ってた

そして気付いたときには帰り際私から声をかけてメアド聞いてしまった

こっちから連絡入れるねって言ったのに

律儀にも先にメールを送ってくれた



 (『ライブ楽しかったですね…』)

なんとも挨拶って感じのメール

年上で明るく抜けてそうだけど判断を誤らない何かと――


彼女を思い出しながら読み進んでいく

 (『ところで彼方のお相手なんですか?』)


――何かと鋭い人だと


ゴンッッッ!!?


いきなりすぎるっ!!

なんてものじゃない

全てご存知なのですか?

私の洞察力も鈍くは無い

最後私に微笑みかけてくれたのはそんな意味で

でも、私には迷うことなど何もなかった

 (『そうです』)

短いメールを送る早く次のメールを見たかったから

やっぱり動揺を隠せないのか

焦ってメールばかりを気にしてしまう

周りにこんな夜中だから気にする人はいないけど

さっきからの行動変質者に見えてもおかしくない

マナーモードにしたおかげで夜に似つかわしくない音は聞こえない

私の太ももを無音で振るわせた

慌てて受信メールに目を釘付けにする


 (『短い返事(笑)…だけど安心してください。私は彼方の唄が好きなんです。だから貴方をを軽蔑したりとかマスコミに売ったりはしないので』)


だから貴方は超能力者

って言いながらも少し苦笑した

私そんなわかり易い性格なのかって

また新たな自分発見

年上ならではの余裕の持ち主できっとずっとこの人には敬語なのだろう


 (『ありがとうございます…じゃぁ、これからもファン仲間でいてくれますか?』)


ポチッ

送信した

途端顔が熱くなった感覚

なんか恥ずかしいこと送った気がする

昔はこんな私でなんとも思わなかったけど

少し心も身体も大きくなりすぎたみたい

こんな些細な意思表示がここまで私を動揺させる

今度は手に持っていたのですぐ反応に気付く


 (『もちろんですよ!!ところで貴方お名前は?』) 


読み終わるとすぐに返信ボタンを押す


 (『名前教えてませんでしたよね?桐谷 満春です』)


信じられなかった

私が友達を作るんなんて

普通の友達じゃなくて

予期せぬ友達を


 (『あ、ごめんなさいね。こっちから言っておいて私の名前は――』)


香織さんっていうらしい


 (『今度、ライブ一緒に行けたら良いですね…』)


私はゆっくりと携帯を窓側のテーブルに置いた

長い時間メールを交わしていた

どれくらい経ったんだろう

こんな真夜中だというのにいいのかな

って思った矢先メールは途絶えた


暗闇の中迷いもなくレールの上を突き進む電車は

まもなく目的地の半分を過ぎようとしていた


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