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87.お母さんの匂い

……………

なんて言えば…。


何かを言うキッカケがなく言葉が詰まる

 「ど、どこか行くの…?」

 「うん…」

何の用事かなんとなく分かってるんだろう

私と視線を合わせないようにする


 「そう、気をつけてね…いってらっしゃい」


お互い何か言いたいことがある

じゃなきゃ私の部屋のドアと向かい合ってるはずが無いから

だけど、お母さんは全てを飲み込んで私にそう告げる

 「あ、うん」

そういうとお母さんは私に背を向ける  



このままでいい訳がない

気持ちが両足を動かなくさせる

無意識に言葉にする

 「私…私!!」

階段に差し掛かるお母さんが

怯えたかのようにピタッと立ち止まる

そんなお母さんがとても小さく見えた

何を言うかなんて考えてない


 「こうなってよかったって思ってる…から」


 「…!!」

再び大きく震える

何をしゃべればいいかなんて気に出来ない

 「確かに100%よかったとは言えない…マコから話を聞いてそれでも母親なのって気持ちもある」

 「………」

 「だけどそれよりかそんな憤りを背負ったままここまで育ててくれたんだなって思うと感謝が勝っちゃって…怯えて震えてるお母さん見たくないし」


本能だった

嘘偽りない言葉

ただ自然と私が言いたかった言葉


 「母親として何をしなければならないのか一番に分かっていた。それを貴方のお友達に指摘されて何も言えなかったわ。そう『何が分かるの』って 正直もうそんな素直に受け入れられるほど余裕がなかった」

 「………」

 「怖かったの…これ以上満春を踏み込ませて悪化してしまうことが。だったら本当の娘にはもう戻らなくてもいい…昔みたいに笑ってくれなくても、娘は娘だから。全てはお友達の言う通り身の保身ね。娘の立場には慣れなかった…。真っ直ぐな人ね…こっちが大人なのを忘れてしまうくらい。」

 「お母さん…」

 「言い訳なんかしないわ…満春ごめんなさい」


そういうといつの間にか振り向いていたお母さんが

頭を下げていた


ドクンッッ!!


私の心臓が飛び跳ねた

ドクンドクン!!

違う違う…っ

私が欲しかったのはこれじゃない

頭を下げるお母さんなんて見たくない

 「やめて…やめてよっ…!」

無意識に肩を掴む

お願いというか縋っていた

お母さんって言う想像上の人物に

私が描いているお母さん像に


 「…謝って欲しいわけじゃない」


声のトーンが下がる

 「自分の中でお母さんが霞んで見えるの…薄く霧がかかってて今にも消えそう」 

久しぶりに見る正面からのお母さんの瞳は

儚く消え去りそうになってる

 「私の記憶の中でもお母さんは…幼い頃の『ママ』しか知らない。手を繋いだ時の暖かさとか洗濯物を干しているお母さんの背中とかもう思い出せそうにないの」

 「………」

 「私がこんなんなってからお母さんの笑顔とか温もりとか無くなっている気がしない?」

瞳をいつまでも見続ける


 「もっと笑ってよ…これからもっと笑っていっぱいお話してこんなこともあったねっておかしくなるほど話そう?私がお母さんに求めているのは謝罪じゃない。事実をそのまま受け止めてくれることなんだから…それ以外私は何も欲しくない」

お母さんに向き合いながら断言する


偽りのない直球の言葉

そしてそれが何よりも難しいことも知ってる

頷いて笑って欲しい

受け入れることがどれほど苦しいことか

だけどそれをお母さんと…


 「それだけで幸せだよ」


積み重ねて生きたい…

そういって私はにっこりと笑った



 「……!!」

目の前の表情が驚く

そしていつから見てないのか表情が和らぐ

今にも消え去りそうな母親が笑った

 「そうね…」

 「え…?」

 「思い出したわ…私の娘はそんな笑い方する子だった」

そういう顔は私に負けず劣らず微笑んでいた

 「ごめんなさい。そしてありがとう。満春」

こんなお母さんを許してくれて…って続きそうな気がした



何度目かのありがとうに私は背を向けた

きっといい方向に行くと思う

最後にお母さんは私の名前を呼んで笑った



そして

これから行かなきゃいけない

行きたいその場所を目指して



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