85.それぞれの結論
とんだ騒ぎで忘れそうになったけど
なんとか気持ちを切り替えすコトが出来た
「用事あるんだこれから歩きながらでいい?そういえば満春は?」
そうここには満春の姿がない
ついて来てはいないのだ
『最後まで見ていて』
この場にいないことの不安に緊張が走る
「安心しろ!!ちゃんと最後までいたさ…。」
彼方は一瞬黙り込んだ
「満春、泣いてた?」
「……」
「まぁ、泣いてた。涙って言う涙全部」
「そんなに?」
自分のやったことに後悔の表情を少し見せる
「いや」
「え…?」
「涙って色んな種類あるじゃん?…私は今日次ぐ次ぐそう思ったよ」
マコは意味不明に笑う
その意味は彼方には分からない
「…後は本人に聞いてくれ」
「本人?」
本人とは満春のことである
だか、何度捜しても本人はいない
「本人からの伝言『待ってる』ってさ」
「え…?」
「待ってるって何処で?」
彼方は歩く足を止める
歩くのを止めた瞬間さっきのアンコールの声が強く聞こえる
ステージに近づいていたのだ
細かく言えば舞台袖だけど
さっきまで重ならなかった彼方の呼ぶ声が
今は一体となり地響きとなってドームを揺らしている
少し気になったマコだが話を続ける
「知らない」
「え?」
「教えてもらえなかった…知ってるんだろ?」
マコは確かめる様に彼方の顔をうかがう
思う場所は一箇所しかなかった
「…あぁ」
そう答えた彼方にマコは強気な微笑を見せる
「よっし!…じゃあ、行ってやんなよ!!」
少し強めに背中を叩く
最後の後押しとして…
「今は―――」
そう言い放つ彼方は笑顔だった
「今は行かない」
言葉の意味がマコには分からなかったわけじゃない
だけど気付けば聞き返していた
「なんだって?」
「今すぐは行かないよ」
もう一度同じ言葉が耳を掠める
「今は…アンコールを精一杯答えたくてウズウズしてる」
アンコール?
さっきから会場がざわついてる
それは知ってたけど音が大きくなっているのは
会場に近づいているからなのか
彼方がさっき用事あるから歩きながら
と言った先…
「中途半端にしたくない…俺は満春のために5万人を捨てる気はない」
「………」
「だけど5万人のために満春を捨てる気もない…」
それは天秤で量れない
「大事なファンだからこそ分かって欲しい…大事な人だからこそ俺は理解を要求する。それが『一緒にいる』って事だろ?」
「そうか…」
落胆したわけじゃないけど声のトーンが落ちる
「それが満春が笑顔でいられる条件だって俺は思ってる…」
「お前の結論?」
無言で頷いた
少し間が空いた後マコの口の端が上がる
「ははっ…そうか」
「………」
「まいったなぁははっ!!『明日の昼位になるかな?』ってさ…」
「え?」
「満春がドーム出る時に言った言葉…」
満春は知っていた
全てを苦しむことなく受け入れていた
こいつも見抜いてた
満春が納得してくれることを
「私はさ、『何言ってんだよ無理にでもつれてくるよ』って強気に返したのに」
「………」
「ごめん、ちょっと試してみた。帰っていたのは幸せそうな笑顔だけでちょっと悔しくなったから」
読めてなかったのは自分だけ
もう満春を分かってやるのはマコじゃないって
そう言われた訳でもないのに引導渡された罪人みたいな感覚
目の前にいる奴はもう
イキナリ学校に押しかけてくるような奴じゃない
覚悟できてたはずなのに心のどこかで否定してる自分
最高に分かってやれて最高の笑顔にしてやれる
それは目の前にいる彼方
『今は行かない』
私も知ってたそう言ったら言い訳っぽくなるけど
どこかで外れればいいなんて満春の言葉が当たんなきゃいいって
応援してたはずなのに
…笑った
でも、満春が今何処に向かっていて…彼方が何を言うかなんて
私は予想だにしなかった
6年間の隙間に私は居なかったことを思い知らされる
涙が零れる
やっと荷が下りたとか
もう一番に満春のことわかってやれるのは自分じゃない
なんだか子供じみた喪失感とかいろいろ混じってる
言葉に出来なかった
「ライブ…見てくか?」
彼は何も触れない
「やだよ…今お前のライブ見たらファンになりそうだもん」
初めはどうしても彼女を変えたくて
嘘から始まった
「ようこそ…いらっしゃい」
冗談で手を差し伸べる
自分で何やってんだかっていつも感じてた
似合わないウソなんかついて
でも気付いたら手当たり次第雑誌開いて集めてた
目の前の彼の情報を…
私と正反対の彼女が見せた
悲しそうな表情が忘れられなくて友達になって
「彼女名前なんていうの…?」
「彼女って…?あ、奈津美のこと?」
悲惨な事件に遭遇して
私の好きだった笑顔が失われた
会場に行くように仕組んでファンのフリして
ファンとしてこの彼方に偶然では逢ったけど満春が彼と会って
少しずつ変わって行った
今はあの笑顔が戻ってよかった
あのチケットを手に入れた時決意してよかった
必ず連れて行くと…
会場を後にする満春の笑顔は6年前に見た彼女の笑顔そのものだったから
「奈津美ちゃんっていうの…」
「…何」
「前、満春が俺に話してくれたから…ありがとって言っといて」
電話の前での寂しそうな彼女や
感情の行き来がない彼女にはもう戻らない
なんだかさっきまではショックだったけど
こいつに取られたって
「まぁ、見て行ってよ」
そう言って彼方はステージに姿を消した
その後会場にまた歓喜が沸き起こる
こいつも変わった…満春と出逢って
…割と、時間かからずにすみそう
私も奈津美と一緒であっけらかんと納得できたらしい
恋って言うものをしてみようかと…
ブンブンブン
頭の空想を追い払う
キャラじゃないから…