82.等身大の『愛』(前編)
―――俺には好きな人がいる―――
脳に響き渡る低く落ち着いた声
嘘、偽りのない瞳
から伝わり…脳で確信を得る
「昔から俺のことを見ていてくれた笑顔の耐えない彼女…」
脳に響き渡る低く落ち着いた声
嘘、偽りのない瞳
耳から伝わり…脳で確信を得る
「昔から最高の笑顔で俺を支えてくれてた人…俺が皆の前にこうしていられる理由」
脳に響き渡る低く落ち着いた声
嘘、偽りのない瞳
耳から伝わり脳で確信を得る
「認めて欲しい。」
脳で確信を得る
頬を伝った涙が行き着く場所を知っているかのように
同じ場所に零れ落ちていく
手の甲に弾け落ち広がる
次に繋がる言葉なんてない
きっと今、何か言ったら私は
「俺の中での彼女の存在を認めて欲しい…」
そう答えると再びゆっくりと頭を下げた
今度は一人の音楽を奏でる者ではなく
肩書き全部取っ払った一人の人間として
それはさっきまでの涙とは違った
辛さとか後悔とかたくさん入り混じった涙が
一瞬にして心の中心から浄化するかような涙
それはたぶん時間が経てば判明する感情
けど、今の私にはその機能は停止していた
私のために頭を下げてくれる彼方君
以降マイクからは何も流れなかった
それだけが言いたかったそう主張するかのように
マイクは彼方君の手から離れ椅子に置かれている
そしてその身一つで許しの言葉を乞う
会場はシーンと変わらず静かだった
彼の気持ちは届いているのか
届いてないのかその意思がまったく分からない
あれだけ何分か前は盛り上がっていた会場が
見るにも無残に感情一つも交わっていない
…怖い。
広い分この静寂が怖い
承諾とも拒否とも取れない間が続く
視界に見える何段が前の子が席を立つ
そのままその私の同年代くらいの子は会場を去った
それにつられるように何処かで光が漏れる
反対の方向から静かにドアが開く音がする
顔が見れるような距離にいる2人も席を経つ
酷く失望したような顔だった
だけど、何もしゃべることなく扉を手にする
落胆は隠せなかった
綺麗に理解なんてしてくれるはずがない
どこかで彼方君を応援し
それがいつか皆にも伝わるそう考えていたのかもしれない
そう甘くはない
溜息さえも口から出ない
都合よく考える自分に嫌気が差す
やっぱり覚悟が足りなかった
色んな感情が抑えきれないくらい溢れ出す
そう悔やんで唇を震わせている間に光は四方八方から漏れる
外の空気が入ってくる気配がする
彼女達は何を思い、この会場を後にするんだろう
「仕方ないよね…」
マコかと顔を上げる
だか、違っていた
その隣軽く話を交わしただけ女の人が独り言のように口を出す
田舎からここまで出てきた女の人
「仕方ないんだよ。理解できなくて、出て行く人がいたって…」
独り言、なのだろう
口を挟めずにいる私
「それだけ『彼方』というアーティストを好きになってしまった」
「もしかしたら、離れていくかもしれない…一人も残らず。だけど、頭を下げた後委ねられるのは会場の皆なんだから…覚悟もしているってこと。拒否されることも理解されないことも…じゃぁ、私。」
名前の知らない隣に座る女の人
見つめる先に立ち上がり出口に向かう人が目に入る
重なるように立ち上がる知らない人
覚悟が出来てる…
彼女の言うとおり
だからそう、だから彼方君は私に電話してきたんだ
本当に今日が最後になるかもしれないから
この先はこの冷たく逆転してしまった会場に任される
この人も会場を後にするのだろうか・・
思わず顔を背けようとする
「…彼の言う彼女ほどじゃないけど理解出来る人の一人になりたいわ…」
「…え?」
意外な言葉に目を背けることが出来なかった
理解できる人間?
途端彼女は立ち上がって拍手を送った