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78.ステージの上

会場がうなる中

ますますまわりのお客さんが盛り上がっていく

眩しいくらいの照明に言葉を失う

だけど、爆発しそうな身体には丁度いい


この張り裂けそうな音が私を繋ぎとめる

いつ夢が覚めてもおかしくない中

夢の中じゃないよって音が教えてくれる

ぎりぎりの境界線

ただただ叫びだしたいそんな興奮


隣にいるマコはなんというか容赦ないけど…

ってかマコの叫びは何処か間違ってる

聞いてるとさっきから

イケ行け!!とか…よっ!待ってましたとか

でも本人楽しそうだから何も言わないけど


さすがの私もそこまではまだ弾けてない

左隣の田舎から来たという

彼女は席を立ってその状況をただ楽しんでいる


さっきとは違い

…案外冷静な子なのかもしれない

そして私はまた会場へと視線を向ける

私の中のドキドキが止まらない

この場所で何も考えられない

考えられるのは期待と興奮だけ

周りの歓声に紛れて私というものがなくなる



ライトとライトがステージに重なった時

バァァァァー―−―ンッッッ――!!!!?



耳を塞ぎたくなるほどの爆音が鳴った

突然のことで耳が麻痺し

気が付けば目を思いっきり瞑っていた

辺りがシーーーーンと静まり返る

視界が真っ白になっていた

瞳孔も麻痺してるんだろう…



そして…

ポツン ポツン ポツン

ザワザワザワザワ…

ステージに近い

アリーナの前の方から沈黙が歓声に変わっていく

何が起きたのか分からない

それは波のように辺りに広がっていき

煙が晴れそうになった時

お馴染みの彼方君の曲が耳に入る

イントロだけで会場の全員が分かる

散らばっていた歓声が一気に一つに重なる

私が先にと言わんばかりに彼の姿を捜す

誰一人としてステージを見ていない者はいない


はっきりとした意識で見つめている私は

その一体感にビックリした

マコと自然と目が合い笑う

煙だか熱気何だか分からない中に

彼方君が現れる

一つ掛け声を上げると

瞬く間に歓声の一つ二つ

もう一つ声を張り上げると

流れている曲のまま歌に入った


ステージに出ている彼方君は

いつもの彼方君と違っていて

電話でしゃべっている印象とは違っていた…

ふっと普段着てくる黒ずくめの服装を思い浮かべ笑う


…違う、違うんだ…


すっかり『アーティスト』に変わっていた

その姿を不満とか不安になる理由はない

この瞬間は会場の皆が一番好き

私もステージに上がって駆け回っている

奏汰君ではなく…彼方君が好き

満足の何者でもなかった



曲が半分くらい進んだ頃

もう会場には疲れ知らずの子達ばかり

その一人に私も位置していると思うのだけど

嗄れもしない声はいつまでも彼方君を呼び続けている



私も呼ぼうか…

沸々と沸き起こる

そしたらすっきり出来るかもしれない

ちょっとマコの腕でも引っ張ってみようか

いっぱい叫んでいる二つ前の子は私より楽しそうだ

でも、ちゃんと空気を読んでる

大人しめの曲では皆黙ってステージを見ていて

アップテンポは逃さないとばかりに食らいついていく


 「…っ楽しんでる?」


目にしみるのか汗を飛ばすかのように左右に首を振りながら話す

その言葉に周りの子達は叫び声を上げる

まだまだついていく気満々って感じで

 「ここで疲れてたらもう年だね。皆も俺も!!」

そう言うや否やまたまた聞きなれたイントロが入る

お客さんはまだまだ疲れを知らない

さっきの2倍の声が会場をうならせる


今度はこの曲なの!!?

って叫び声でなんとなく分かる

 「…このおなじみ曲は!!はぁ、はぁ」

息が整い切れてない様子

マイクも思わず下げてしまった

途端に会場に笑いがこみ上げた

 「君達も人事だと思って笑いすぎ!!」

二倍になって笑いがこみ上げる

思いっきり左右に首を振るとマイクをギュッと握った


 「うっし…!!次の曲は――――…」


聞き取れないうちに音は凄さを増した

気持ち良さそうに歌う彼方君

私の気持ちも最高潮に盛り上がっていた

『何があっても最後まで見ていてくれ…』

こんなに楽しく興奮している会場で

起こることなんて何も考えられなかった











ジャーーーーーーンッッッ!!!

ババンババ―――ン!!ダンッ

思いっきり打ち付けたドラムの音が耳を貫く

もうこの音に慣れていた私

まだ私の耳にはドラムの音が反響している

辺りが次第に静寂と化してくから尚更なのかもしれない

それを近くで聞いてる彼方君はどんな感じなんだろう


きっと…

きっと気持ちいいんだろな

あっという間に静かになった

次は何が始まるんだろうと期待するファンの子達

一瞬も一言も聞き逃さないぞっとステージを見つめる

ワクワクしながら一緒に来た友達と話すのが見える

全体では少しざわついた感じ

期待で会場は埋め尽くされている

キィーーーーーンッ!!

耳を劈くノイズの後、彼方君のマイクを持つ音が聞こえた

 「次が最後の曲となるんだけど…」

そう言いながらゆっくりとステージがライトアップされる

一人座る彼方君の姿があった

簡単に脇から持ってきたであろうパイプ椅子

不思議そうに感じながらも

ファンは固唾を飲んでその光景を見つめていた



 「その前に皆に言っておきたいことがあるんだ。」



―――――……。


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