77.光交差する先へ
彼方はステージの前にいた
「もうすぐ出ます…!!」
誰に言うでもなく確認で大声で合図を取る
落ち着かない 落ち着かない
そんな落ち着かないスタッフの中
絶対に落ち着いてなきゃいけない人
誰にも流されてはいけない
一人モチベーションを整えていた
彼方は一呼吸入れた
そして再び瞳を閉じる
テンションは最高潮
準備は出来ている
彼方の後ろをまた一人慌しいスタッフ駆け抜ける
緊迫しているそう思える
舞台の裏側、表側こんなにも違っていていいのか
「彼方…」
ゆっくりと速瀬は彼方に近寄る
オープニングが会場では始まっていた
客電は一気に落とされ真っ暗になる
その分客席は張り裂けんばかりの歓声
何が起きるか分からないこの状況に
いてもたってもいられない
そんな興奮がここまで届く
「………」
「…………」
少しの間沈黙が続くと色んなライトアクションがもっとテンションを高くする
赤、青、黄色、緑…次々と変わっていくライトアクション
その姿をまだ裏で隠れている彼方と速瀬を照らし出す
そこに一気に音が入る
鼓膜が破れるくらいの音にファンの誰一人乗り遅れるものはいない
会場中に響き渡る
スピーカーからの音にライトが分散する
観客をなぞるかのように二つに分かれた一筋の光が放たれる
その間ステージを照らす証明が何十もの色が交差する
そこに一発目の衝撃音が入る
これは客の声なのか最大まで加速される音響なのか判別つかない
混乱を招くくらいにザワザワと会場を揺るがす
「私は…」
その中でも別の世界にいる
彼方の耳にはこんな興奮の中速瀬の声が忠実に聞こえている
「彼方さん!!!準備お願いします…っ!」
スタッフの声が聞こえる
一瞬そのスタッフのほうに振り向く
だか、瞬時に顔は速瀬へと戻される
「私は貴方の才能に惚れこんでいるわ」
真面目に彼方の瞳を見つめる
一時も引かなかった
「速…?」
「貴方のやりたいようにやりなさい!!」
照明が変わる中
変わる瞬間に見える速瀬の表情
赤、青…会場脇光が漏れる
紛れもなく優しく微笑んだ
夢に向かって送り出す
そう、母親のようだった
無言でうなずくと
赤や黄色に変わる世界へと
足早にステージへと姿を消す
会場がうなる中
ますますまわりのお客さんたちが盛り上がっていく
眩しいくらいの照明に言葉を失う
だけど、爆発しそうな身体には丁度いい
この張り裂けそうな音が私を繋ぎとめる
夢の中じゃないよって訴える
ぎりぎりの境界線
ただただ叫びだしたいそんな興奮
隣にいるマコはなんというか容赦ないけど・・・
さすがの私もそこまでいけない
遠くから来た彼女は席を立ってその状況をただ楽しんでいる
・・・案外冷静な子なのかもしれない
そして私はまた会場へと視線を向ける
私の中のどきどきが止まらない
何も考えられない
証明と歓声と音に紛れて私というものがなくなる
ライトとライトが重なるとき
バァァァァー―−―ンッッッ――!!!!?
驚くほどの音で爆音が鳴った
その音が耳をつんざく
思いっきり目を瞑った
辺りがシーーーーンと静まり返る
視界が真っ白になっていた
瞳孔が麻痺してるんだろう・・・
そして・・・
ポツン ポツン ポツン
ザワザワザワザワ・・・
アリーナの前のほうから沈黙が歓声に変わっていく
何が起きたのか分からない
それは波のように周りに伝っていき
煙が晴れそうになったとき
お馴染みの彼方君の曲が耳に入る
イントロだけで会場の全員が分かる
散らばっていた歓声が一気に一つに重なる
はっきりとした意識で見つめている私は
その一体感にビックリした
マコと自然と目が合い笑う
煙だか熱気何だか分からない中に
彼方君が現れる
一つ掛け声を上げると
瞬く間に歓声の一つ二つ
もう一つ声を張り上げると
流れている曲のまま歌に入った
ステージに出ている彼方君は
やっぱりいつもの彼方君と違っていて
すっかり『アーティスト』に変わっていた
その姿を不満とか不安になる自分はなかった
この瞬間は会場の皆が一番好き
満足の何者でもなかった