74.傷の治し方
やっとこの日が来た
もうこの日が来た
心境はどっちが正しいんだろう
ここから何かが変わる
そんな予感は前からしてる
だけど一歩踏み出すことはとても困難だって
これまでの経験で鍛えられてる
だからこそ『怖い』って言う意味も込めて
『もう…』なのかもしれない
彼方君からは何にも聞いてない
逢うことはなかったけど電話は何回があった
いつも他愛のない話で
だけどその半分が昔の話でとても楽しかった
ただ単に楽しめばいい
そう言ってる片方の私がいるけど
電話での彼方君があまりにも変わらないままで
だから逆に私の心が落ち着かないまま
気もせいって言ってしまえばいい
そう思えば思いっきり楽しめる
何だか胸騒ぎがする…
最近変に考え込む癖がついてから
少し臆病になってるだけかもしれない
私はすこし前向きに微笑んでみた
「何だよ、イキナリ変な笑い浮かべやがって…」
へ、変な笑い
少しへこんだかも
覗き込みながら顔を引きつるマコ
当然ライブまで一緒に行くことになってるんだけど
やっぱり変な引きつり笑いなのかな
少し不安になる
彼方君に会ってもこんな感じならどうしよ
くだらない考えまたまた臆病虫が再発
「ったく!…なんでお前までいるんだか」
ワザと大声で聞こえるように
「まぁ!…そんな私達さっき彼方ファンクラブを独自結成したばかりじゃない!!」
隣でおよよと倒れこむ奈津美
「昨日だって二人で仲良く内輪とハチマキ作ったじゃない!!『これで二人で応援しよっ!』って手を取り合って。ひ、酷いマコ!!そんな私達の友情を忘れたというの!!」
キラキラというよりギラギラとうざったく光る内輪を掲げる
「さも事実かの様に語るな!!ってか、デカすぎなんだよその内輪!!?…作んのにも程があんだろ!!」
奈津美に覆いかぶさるように怒鳴り散らかす
言わずと知れて周囲の注目の的だ
「ねっ、ふ、二人とも…人が見てるって」
私のことなんか気にも留めてない
「ありがと、ごめんね…私の心配してくれるんだね。マコ…私なら大丈夫。彼方に負けないくらい私の隣にはマコはいるよ。」
ゆっくりと立ち上がり涙を浮かべながらマコの肩を叩く
気のせいか口の端が光って見える
「私をお前の友情物語に巻き込むなッッ!!!」
げんこつで頭を叩く
あ、あいたぁ!!
私は思わず目を塞いだ
「仕方ないなぁ…親友の君の頼みだ。」
ってか、効いてないみたい
マコの呆気に取られて何も言えなかった
「主人公は君で行こう」
「誰が配役の不満を訴えとるんじゃ!!!」
っとまたもや腕を上げるが止める
その手は私の腕に来た
「いこっ満春。ほっといて」
「ほっといてって…それは」
奈津美の方に視線を配る
「あいつに付き合ってるとこっちの骨が折れる」
な、なるほどね
「くすっ!はははははっ」
思わず笑ってしまった
「それでいいんだよ。」
「え?」
笑いが止まってしまった
その言葉が気になって
「いつもお前は笑ってようって心がける癖があるから…落ち込んでる時とか考えてるときとかそれなりの顔してりゃいいんだよ!!」
今度は私の軽く頭を殴る
あいたっ!
「まったく…いつも笑顔でいなきゃいけないなんてことないんだから」
「……」
「あいつもそう思ってるはずだし」
私に再確認を要請する
「うん。そうだね」
マコはその言葉を聞くと気合を入れた
満足したようなそんな表情を見せる
置いてけぼりの奈津美をそっちのけで
なんとも場違いな会話をしていた
私達の話を聞いて
後ろでハンカチ片手に嘘泣きしてるのも
気付かないフリをして…
久しぶりの会場
何回も来た記憶はないものの懐かしい
その感情の裏に
嫌な記憶が一つまた一つと甦ってくるような気がした
少し手が震えてる
きっと私だけなんだろうな
皆わくわくしてる中でこんなにモヤモヤ考えてるのって
頭の中ではこれから起こるライブへの期待とか
グッズなに買うとか、何を歌ってくれるのかとか
ワクワクした感じ
脳裏に浮かばないわけじゃない
確かに彼方君に会えて
期待とか楽しみじゃないはずがない
けど、素直に喜ぶにはここでは色々ありすぎたから
久々の東京ドーム
私のお腹の中、頭は複雑な気持ちが渦巻いている
意味もなく周りの空気が気になる
すれ違う人と肩が触れそうになる度警戒する
知らない人と目が合いそうになると思わす硬直する
私の視線とは裏腹にガヤガヤとにぎわっている
その集団の中で心狭しと歩いていた
思った以上に軽く見ていたのかもしれない
ここにくる事の意味を。鮮明に思い出す
6年前を、記憶が戻ったときを
身体が無意識に震えてる
だけど、逢いたかった
それに勝るほどに
今日という日を彼方君と…一緒に、いたい
同じ空間にいたい
一途な想いがさっきの気持ちと反比例する
気持ちがごちゃ混ぜになってあふれ出しそう
気持ち悪い…
「おい、満春顔色悪いぞ?」
突然マコが私に話しかける
そういいながら私の肩を支えてくれる
「ごめん、ありがと平気だから」
「平気そうな顔してないじゃんか」
心配かけないように少し表情をつくる
「何?どうしたの」
少し離れてた奈津美も私の顔をうかがいに来る
言葉に出来ず手で大丈夫と合図
「何それ、ぜんぜん信用できないんですけど」
呆れたような顔をする奈津美
その奈津美の顔をさえぎってマコが支えながら話しかけてくる
「さっき言ったろ?無理すんなって」
気のせいかマコの言葉が荒々しくなる
聞いている奈津美も目が点になる
「あ、あそこにトイレあるから一緒に行こうぜ」
歩き出そうとするマコ
私はそれを弱々しく制した
「大丈夫…人に酔っただけ」
「ってまたお前!!」
「歩けないほど気持ち悪くないから…自分一人で行ってくる。顔でも冷やしてさっぱりしてくる」
マコの言いたいことは十分分かる
だからこそ、私はマコと一緒に行くことを拒んだ
微笑んでトイレに足を急がせる
「分かってるんだよ・・・」
奈津美の耳にマコの独り言が耳に入る
同じく満春を見ていた奈津美だかマコに視線を向ける
「あいつが迷惑かけたくないって頑張ってることくらい」
「マコ?」
「だけど、そんな一人で何でも考えて悩んで答えを出せるほど強くない。あいつは」
遠くを見るような瞳で駈けて行った後を見つめる
「あまりにも情緒不安定なんだ。心を閉ざしてた時間誰よりも…だからこそ周りって必要だろ?なのに無理して」
「………」
「なぁ、お前はどこまで聞いたんだ?」
不意に奈津美のほうに視線を向ける
「またまたぁ、真面目な顔しちゃってらしくないよぉ〜」
茶化すように向けられた顔を背ける
「別に本当に何も聞いてないよ…ただ彼と何あったってことは聞いたけど…」
ここは公衆の面前名前はさけた
ちらっとマコを見ると奈津美は微笑む
「相談したいって顔だねぇ〜…マコりん☆ふふふふっ!!相談料…」
綺麗にマコの目の前に手を差し出す
少し間が空くとその手を払った
「そんな気見せたのがそもそもの間違いだったな」
呆れたような怒った様な顔すると
マコは顔を逸らした
「そんなただでは真面目な奈津美ちゃんにはお会いできませんって!!」
そういうと意味なくVサインをする
恥ずかしい奴と横目でみる
「だって事実何も知らないもん…付き合ってるって聞いただけ。」
その言葉本当に信じているのか分からない
あまりにも軽く言葉にするから
「ただ、あんたはそのまま鉄砲玉の様に飛んでっての性格で十分なんじゃない?満春にとっても…鉄砲玉は何も心配せずに馬鹿みたいに真っ直ぐすっ飛んでいくのがお似合いだって」
「なんか引っかかる言い方だよなぁ」
何が引っかかる分からず首をかしげる
その姿を横目に奈津美は歩き出す
「おいっ!もうすぐ会場入りだぞっ!!」
「知ってる。だからトイレ」
振り向きもしないでマコに向けて手を振る
適当極まりない奈津美の行動に言葉を失い
止めようとした手は元の場所へと戻った