71.冗談から見える本気
ただ押し黙る教室
辺りが紫に翳っていく景色が妙に怖かった
違う…
私が怖いのはいつも見ている奈津美じゃないから
奈津美の表情は逆光で見えなかった
泣いてる気もして怒っている気もする
正直彼女らしくない雰囲気に戸惑っている
「告白した人数とか誰とか関係なくいつも本気で好きになって、簡単に見えてたかもだけど必死に勇気出して告白してた…でもね。行く人行く人私自身を見てくれなかった。いつもはしゃいで冗談いってる私しか見てくれてない人ばかり」
「……」
「簡単に好きになってお気楽に告ってるとでも思ってるのかな?この容姿だからジョークで言ってるって思ってるのかな?太ってるから冗談?…綺麗だから本気?日頃面白いから冗談?真面目だから本気?」
奈津美のいつもとは違う態度
そんな彼女がいるだなんて思っても見なかった
奈津美はどこにでもいる女の子だった
「だから、私は夢に逃げるしかなかった。現実は私を拒絶するから…夢の中の私はそれなりに必死に彼方を追いかける恋する女の子…どんなに馬鹿にされようと一方的な恋だけど誰からも文句言われない…私は一番女の子でいられる空想の世界。だから、彼方とあんたがどんな関係だろうが私には興味のない話」
本気に夢も現実もない
必死にやり遂げれば現実に変化する
きっと夢の中であろうと奈津美は必死にもがきながら
一人の男性に恋をしていたのだろう
それはいつの間にか現実の境界線を気付かずに超えて
本物の顔で私の前に姿を見せる
彼女は本気だ
「所詮夢なんだから!!傷つくはずなっ…――」
気付くとしゃがみこんでいる奈津美を必死に抱きしめていた
それは同情なのかもしれない
奈津美の気持ち私には分からない話
嘘でも『分かる』なんていえない
「……っ!!」
だからなんでもいい
どうでもなんでもいいから
私には漠然と目の前にいる傷ついた奈津美を抱きしめる
「何よ!…してよ!!気持ち悪い。私にそんな気はないんだから…」
涙は私の腕に零れる
「離、してよぅ…」
「ぜんぜん知らなかった。奈津美はいつも元気ではしゃぎまくってる姿しか見てなかった。ごめんね」
これ以上はいえない
というか、私はそんな彼女の一番の理解者にはなれない
奈津美の言った通り偽善でしかない…
いい人ぶって接してるのかもしなれい
『ごめん』なんてその場の勢いみたいにしか聞こえない
『理解者』ここでなれるというのはそれこそ勢いってもの
気付かなかった私に思わせる力はなかった
だから言えない
今は何を言っても彼女は傷つく
これはこれから逢う奈津美の人生の中での理解者に出会うための
私は通過点、息抜きしか過ぎない
それでも…
だから何も言わずに思いっきり泣いて欲しい
それが精一杯
「ふっ…っう〜―――」
また私のせいで彼女を傷つけた
泣いて素顔をさらけ出している彼女の夢は終わった
満春という存在のせい
恋することにも臆病になっていしまった奈津美に
これから分かち合っていく人
それはこの傷を癒してくれる人じゃない
同じ視点を持っている人いわゆる『理解者』なんだと思う
「はぁ〜…落ち着いた」
私の腕の中で間抜けな声を出す
「よかった…」
静かに溜息をつく
奈津美は私の腕から離れた
「変なこと見せちゃっただわね」
変な語尾出現
いつもの奈津美に戻っていた
罰が悪そうに言葉を濁す
そして照れ隠しに笑う
またまたつられて笑ってしまった
「今度根掘り葉掘り聞くかんね…」
そう言って今度は心のそこから笑った
全てをさらけ出した奈津美の笑った顔は
私が男だったら絶対に惚れてる!!
そう断言できるほどいつになく違ったものに見えた
これから会う出会いにその笑顔のままでいられますように
翌日、何も変わった様子のない奈津美に
また彼方の話をされることなんて
わざわざ言うまでもないだろう
熱のこもったトークを気持ちを高ぶらせながら
それは普段と変わらない奈津美で
変わらない私で…