表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/93

7.前触れ

朝8時30分だんだん教室に生徒が集まっていく

土、日を挟んだ学校というのはいつにも増して賑やか

ほんの2日間友達に会えなかっただけなのに

なにをそんなに話すことがあるのだろうか

理解できない眼差しで窓の外を見つめた

そんな冷めた考えも空しく周りは騒々しくなっていくのだが

中で一際うるさく近寄ってくる人がいた

奈津実かな?

 「おいっ!満春!!」

あ、違うか…

血相を変えてマコは私の前に立った

もう息はとぎれとぎれって感じ

 「おはよ…」

振り向き際軽く挨拶をする

 「あぁ、お早う…んで、ライブどうだったよ?!電話入れようかと思ったんだけどよぉ…バイトあるは先公やらウチのババァやら…って!そんなことはどうでもいいんだよ!?」

私が言うのもなんだけど

お早うというのは朝の大事な挨拶なのにそれを簡単に言い捨てると

自分自身に突っ込みをいれる

マコ一人でしどろもどろになっていた

 「んでんで!!…ライブどうだった?」

鞄も置かずにものすごい身を乗り出して私を見る

気のせいが私には興味津々とは違う別の感情がマコには見えた

何か違う必死さがそこには見えた気がした

 「おい、勿体ぶんないで教えろよ…」

顔に焦りが見え始めた

本当に聞きたいらしい…

別に勿体ぶってる訳じゃない

マコが話し終わってくれないだけだ

 「カバン…」

冷静に私は答えた

 「あ…あぁ、んでどうだったんだ??!」

素直に従うマコ

 「別に…。」

バランスを崩すマコ

別に話すことなんてなかった

再び乗り出した机からマコが落っこちそうになってた

 「たったのそれだけ!!ライブ見にいっといて…いくら興味ないからって冷めすぎじゃないか…?!」

と、呆れた顔をする

少し間をおいて私は言った

 「…倒れた。」

ためらいもせずサラッと言い放った

きっとこの後もこのことを言わなきゃ質問責めだ

面倒だから私が先手を打った

 「…は?」

 「から、分からない」

呆れてた顔に一気にはてなマークが付く

目を丸くさせていた

 「た、倒れたってあれか?」

当然の解釈なのにマコの頭はついていかない

だか動作は倒れた真似をする

私はそんなマコをよそに頷くだけ頷く

 「なんでそれを早く言わないんだよ!ばかっ!!…大丈夫なのか?!」

マコはこういう奴だ…

いつも私のことを考えてくれる

きっとマコの中から『彼方』という言葉は瞬間消えたのだろう

…多分、私が普段話さない分気を使わせている

別に頭痛持ちや病弱なわけでもない

なのにこうして心配してくれる

私は小さく頷く

 「大丈夫なのか…なら良かった。ライブの熱さでやられたのか?」

それ以上は話さなかった…倒れた以上は

話しちゃいけないような気がしたから



いきなり教室全体に響きわたる高笑いが聞こえた

思わずあまりにもけたたましい声に耳を伏せた

だが、当の本人は気付いてないようだ

 「ハハハハ!!…見てご覧なさい!このポスター!!」

義理と人情で振り向くと当の本人は立ちつくしていた

言葉通りの自信満々の仁王立ちで

 「なっ!!お前それ…!!」  

マコの目先には奈津実ではなく手元に釘付けになっていた

 「そ、それは!!…先着五百名様限り…しかもドームツアーでしか売ってない幻の!!前に彼方タオルが千名様で販売されたとき開始5分で完売!!そして今回は等身大…」

私のは聞こえない独り言を言いながら

奈津実へと歩み寄る

何処で売ってるんだそんなもの

きっとスポンサー関係なく露天で勝手に販売されていたものだろうなぁ

フッと奈津実の手元を見てみるとポスターが握られていた

 「なんでお前が持ってんだよ…」

引き寄せれてるかのようにポスターに振れようとした

やっぱり奈津実がそれをさせなかった

 「誰が貴方なんかに触らせるもんですか!…彼方は私のものよ。」

サッとポスターを引っ込める

そして不気味な笑いを浮かべ始めた

 「ほほほほっ!!…もっと見なさいっ!!…」

有頂天、そのままの笑みを見せる

 「ふふっ…それだけじゃないのよ!!見てごらんなさい!?」

そういうとちょこまかと首だけ動き始める

 「ほら見て!!」

 「はぁ?…見てって!!お前が首振ってるだけじゃねーか…」

めんどくさそうに答える

確かその通り…奈津実は首を振ってるだけだった

私たちが呆れてみてると発声練習みたいな声が耳をつんざいた

 「分かんない人ねぇ…いい!?分かりやすく説明するわよ!!ほらっ、右!左!上!下!右斜!!左斜め!!!右上斜め!!!左上斜め!!!…はぁはぁっ」

発音の良い奈津実の声は教室中に響きわたった

息絶え絶えなのが玉にきずだけど

だけどそう言う問題ではないマコの顔はそんな顔をしていた

端から見れば目を合わせたくもないただの変人

 「お前…何してんだよ」

そう言いたくもなる

そんなマコを後目に話を繰り出す

 「本当!!分からない人ね…。彼方君が私のことを離してくれないの」

 「はぁ??!」

いきなり脈略のないことを言葉にする

そう言いながらもポスターの彼方君に首っ丈っという感じである

 「だって〜ぇ…彼方君が私を見つめたまま離してくんないんだもんほら…右、左…ねぇ上からだって。私のことを〜ぉ」

語尾にハートマークをつけた奈津実の顔は気持ち悪いくらいにニヤけていた

確かにポスターとはいえ見つめ合ってる状態になっている

が、間髪入れずにマコの怒鳴り声が隣から飛び出した

 「阿呆かっっ!!それはカメラ目線だからだ!!…何を言い出すかと思えば」

深くため息をつく

何を言い出すかと緊張していたんだろう

 「ふふっ…嫉妬は醜いものよ」

どっかのサスペンスドラマの台詞のような…

 「何言ってんだよ。この前お前新しい奴見つけたって…あっ!ま、ま、まさか…もしかして芸能人って言うんじゃ」

話が終わらないうちに奈津実の顔は再びほころんだ

言うまでもない大正解と言ったところだろう

 「おいおいっ!所詮芸能人でなんだぞ!!」

………。

何故か今の矛盾というか違和感を感じた

マコの言う台詞とは思えない

 「結構冷めたことをいうんだ…自分だってこの等身大ポスター知ってるほどの追っかけのくせして…」

当然の質問をする奈津実

私は柄にもなくマコ次の言葉が気になっていた

 「………。」

ちょっとした沈黙が走った

何故かその質問には聞こえてなかったのか言い返さなかった

 「まっ!!そう言いたくなる気持ちも分かるけどぉー…うっふふふふ!結果は決まってるようなものだしーぃ!!どぉ?満春もこのポスター欲しい?」

自慢げにポスターを私の前に突き出す

 「別に…」

正直な答えを口にする

奈津実はそんな態度が気に入らなかったのか口をへの字に曲げた

まったくギャグと言っていいほどの怒りの表し方だ

 「また、そんな落ち着いて…キィーーーーーーーッッ!!!?」

もう面倒くさい…去っていった奈津実の姿を目で追わなかった

目でおえるほどのトロさじゃないけど

ポスターを忘れたのを気付いたのか戻ってきた

けど、私の顔をフッと見たかと思うと自分の席へと帰っていった

一部始終見終わったマコが口を開く

 「ったく、爆弾女だなぁ」

独り言のように言いながら体勢を立て直す

 「ねぇ、マコ…」

自分でも珍しい…話を切りだした

それに少々マコも驚いた顔をする

気にはなっていた前から

 「マコって芸能界に興味あった?」

さっきの言葉がどうにも気になって仕方ない

自分でも信じられないくらい

 「あ?何で…」

不思議そうに私の顔を見る

 「空手とか柔道とかスポーツ関係には興味あった気するけど」

 「…今まで話してなかっただけだよ」

言い終わらないうちにマコの答えが返ってきた

 「…………。」

キーンコーンカーンコーン

間を遮るように一時間目のチャイムが鳴る

先生がドアを開け教室へと入ってきた

中途半端な会話で終了しマコは黒板の方へと身体を向けた

いつも先生が来ても叱られるまで前を向かないマコが

まるで私を避けるかのように規律正しく先生に従う

いつになくマコが分からなくなった

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ