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69.ケジメ

その時から会わないと決めた

悲しい結末じゃない

それだけは分かるから

6年分の穴を埋めたい

それは私も彼方君も願うとこなんだけど

…せめて、このツアーが終わるまで

15日が何よりも私の背中を押してくれる

そんな気さえしてくる


その間私も色々整理をつけなくっちゃならない

ケジメをつけなきゃいけないことがたくさんある

心配そうにマコは私を見送る

この場は一人じゃなきゃいけない

この気持ちは嘘じゃないんだから

いつでもどこでも一緒じゃいけない

マコに守られてばかりじゃ

私が弱くなってしまう


…私だけの言葉で伝えなきゃ意味がない


彼女はきっとそこまで真剣なんだから

いつも冗談しか言わない同級生の友達

教室で待っていた

でも、カバンはあるからいるのは分かる

しばらく待つと奈津美はドアを開けた


 「どーしたん?あんた、まだ帰ってなかったの?」


私だということを確認すると

教室に奈津美は早足で入ってきた

 「用事?」

 「あ、うん、どこ行ってたの?」

とりあえずは挨拶程度に言葉を繋げる

 「職員室!!…先生に用事がございまして」

 「……」

 「そっちこそどうしたの?こんな時間まで学校に残ってたりなんかして」

自分の席にカバンを取りに行く

軽くあたりを確認する

 「私は用がすんだから帰るけど…あんた誰か待ってるの?」

用のある本人から聞かれ顔が引きつる

奈津美は不思議そうに顔を見る

 「変なの。まぁ、とりあえず帰るね…じゃぁ明――」

 「あっ!待って!!」

思わず奈津美の袖を掴んでいた

自分で信じられないほどの大声に奈津美も驚いた顔

不意に口元を抑えた

 「あ、ごめん。用事、奈津美にあるんだ。これから時間ある?」

途切れ途切れに言葉を繋げる

 「何!?私に用事があったの。そんな改まった顔して。あっ!告白なら嫌よ…生涯をともにって誓った人が…というか、女同士ってところを突っ込めよっ」

一人ノリつっこみが成立していた

躊躇っていた私は奈津美のボケに笑うことが出来なかった

ますます顔をうかがう奈津美

 「何?真剣な話なの?」

 「う、うん」

下を向いたまま頷く

奈津美は小さい声で溜息をついた


 「しょうがない。深刻モードに入りますか…4年に一回しかなんないんだからね。深刻モード突入は!!」


な、なんだそれは

あんたの人生の半分は笑いで出来てるのか

そんなツッコミをマコはするんだろうけど

耳に入ってきてない

 「何?それで話って」

適当なところにカバンを置く

お茶らけじゃない

また適当な椅子に奈津美は腰を下ろした

 「何の話?」

覚悟を決めて

静かに口を開く

 「始めに言っておくんだけどこれは全部事実なんだ…それをふまえて聞いて?」

 「事実?何それ」

奈津美が何言ってるのかわからない

そんな表情をするたび私は心が痛んだ

これからの話は決していい話じゃない

不思議そうにしているその瞳をどの言葉で傷つけてしまうのか

慎重に言葉を選んでしゃべろうとする度

ますます余裕がなくなっていく

 「何?そんなに真面目な話なの?」

奈津美にあるまじき表情が硬くなっていく

 「奈津美ってさ…どうしてそんなに彼方君が好きなの?」

 「えっ、何を突然?」

 「あ、いや!ごめん」

調子の出ない私

自分は臆病だと再確認する

はっきり言わなきゃいけないことは分かってる

深呼吸して心を落ちつかせる

そして改めて口を開く

 「はっきり言うね…前に、彼方君の噂立ったよね?奈津美が言ってたネットで騒がれてるって」

 「結局は彼方話なんだ。なんだか不思議だね。あんたと芸能話で盛り上がれるなんて…変な感じ」

軽く笑いが教室に響く

決して『盛り上がる』話じゃない

否定の言葉で打ち消す

 「単刀直入にいうと私、彼方君と付き合ってるの…」

 「……」

 「う、嘘だって思うよね。どう考えても。奈津美にそんな話したことないし、言ってることも漠然としすぎてると思う。」

俯いたままで奈津美の顔が見れない

 「でも、本当なんだ。私と彼方君昔からの知り合いで幼馴染で…」

私はゆっくりと首を上げる

その時隣に座っている席から笑い声が聞こえた


 「ふっ…くっははははははっ!!!」


笑いに耐え切れず席を立つ

 「はははっはははっはっは…!!」

お腹を抱えて笑い出した

私は言葉をかけられず見ているしかなかった

 「あははは!いるんでしょ?マコ、出てきなよ!!よりによって満春使うなんてバレバレだっつーの!!」

お腹を抱えながら大声を出す

 「奈津美!!」

 「いいって…そんな大嘘つかなくても」

冗談でポンと私の肩を叩くと

これ以上笑えないのか顔を引きつらせながら笑う

 「あ…」

声をかけられなかった

腰掛けた椅子から立ち上がり

ただ教室中を歩き回る奈津美を見てるだけ

捜してる動作を見せる

 「どこに隠れてんだぁ〜」

 「………」

ドアの向こう、教卓の下、掃除ロッカーの中

ありとあらゆる場所を探し回る

 「…私を驚かそうなんて…そんなバカだと思ってるのかぁ?」

もう一度今度は反対側の扉を開ける


私は心が痛くなった

そんな奈津美を見て切なくなっていた

捜しても捜してもマコは見つからない

ありえないとありえないと余裕だった奈津美

ありえないありえないと思ってる

100%ありえない、当然マコはいない

そんな表情が空回りし始めてる

 「ねぇ…」

奈津美は知ってる

マコなしで私がこんなことするはずがないと


 「彼の本名、仲宮奏汰って言うんだ…知ってる?」


切り札を出すしかなかった…

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