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65.今がその時

今日何度目のチャイムだろう

聞きなれた音は感覚を麻痺させる

何度時刻を伝え終了を教えてくれているか忘れてしまった

そして何回目かのチャイムは一日の終わりを教えてくれた

 「ごめんね、結局日直掃除当番つき合わしちゃって…」

 「いいって何度も言ってんじゃん!!」

男らしく肩にかばんを持つマコ

 「この方が早く遊べる手っ取り早い解決方なんだって!!」

今日一日の授業の疲れをほぐすように背伸びをする

私もなんとなく真似するかのように

マコみたいに豪快ではないけど腰を伸ばした

その時伸ばした手に持っているあるものに気付く

 「あ…」

 「…あ?」

その手には…



 「「あぁ〜〜〜〜っ!!!!」」



声が思わずそろってしまった

伸びをした手の先には日誌が掴まれていた

思わず伸びを中断して日誌を大事なもののように両手でしっかりと掴む

 「これ、帰りに忘れないようにって思ってたのに…」

 「あぁ」

マコの棒読み溜息は普通に溜息つかれる以上にグサッっときた

さっきの倍になって落胆が体を重くする

 「これ、先生に渡してくるね」

 「……」

 「本当ごめんマコ!!すぐ帰ってくるから待っててっ」

両手で拝むように謝るとダッシュで校舎内に戻った

相当焦ってしまってるのか何度か転びそうになる

マコは溜息をつきながら近くの柵に体を傾かせる

本当はムカついていない

そんな満春が見れてむしろ嬉しい気もする

ドジで慌ててる満春 笑ってる満春 怒ってる満春

そんな満春が中学からの理想だったから…

不意に辺りが暗くなった気がする

いい感じに夕日は校舎を照らしているのに

と思いながら辺りを見渡すと

意外な人物がそこにはいた






 「よう…」

一瞬誰だと思う変装はあえて触れずに彼方だった

マコはとりあえず周りに気を配る

慌てた姿はやがて安堵に変わった

その反応を一部始終見終わってから変装を解く

今日は満春が日直もう残っている生徒はほとんどいなかった

前は大騒ぎになったが気にする必要はもうない

あの時は素顔も隠さず、下校時間真っ只中だったから

そう思うとかなり気を遣ってきてくれたらしい

 「よくまだ残ってるって分かったな…」

 「いや、勘」

突っ込みたいことは山ほど発言だか聴かなかったことにする

彼方は意外にも笑った

 「冗談だ。この時間しか空いてないんだ」

 「そりゃそうだろ…大変なんだろ?今、仕事が」

間が空いたが彼方は言葉を返した

 「死にそうにしんどいけど、楽しいよ…前と違ってね」

そういい終わった彼方はどこか潔い

マコはなんとなくその表情で読み取った

 「追い返さないんだな」

 「前とは違うからな。私もあんたも」

別にマコは彼方のことを嫌っているわけじゃない

ただ立場上どうしてもこんならしくない冷静な対応になってしまう

これはもう満春の保護者根性としか言いようがない

 「用は何?」

 「あぁ、そうだった…マコ、だったかな?」

イキナリの呼び捨てに言葉が詰まる

 「あ、わりぃ。満春からマコっていう名前しか聞いてないから」

 「別に平気だよそれで…で、用は?」

簡潔に言葉をつなげていく

彼方もそれに何か答えようとは思わなかった

 「これ、満春に渡して欲しいんだ…それだけ」

そう言いながら掌に封筒を差し出す

軽くその封筒を握り感覚で中身に予想をする


 「手紙?」


 「いや、違う。チケットだ…」

素直に内容を告白する彼方

マコの表情は変わらなかった

 「つき返さないんだな…事実して欲しくないけど」

 「しないよ。満春は満春なりに考えがある。力になるって約束したから」

少し彼方の前で微笑んだかのように頬を上げる

そう思ったからなのか彼方も少し笑顔になる

 「じゃぁ、悪いけど…お願いできるか?」

 「あぁ、いいよ」

マコが受け答えすると彼方は踵を返した

その行動があっさりとしていて動揺する


 「あっ…!」


 「ん?何…?」

呼び止めた意味が分かってないかのような反応

 「あ、あのさ」

 「……え」

 「いや、あの…なんだ」

 「へ?」

突然の慌てぶりに彼方は目は点になる

 「会ってかないのか?満春に、今…日直だからまだ教室にいるんだ。なんなら待ってれば?」

しどろもどろになりながら伝える

立ち去ろうとしていた彼方は会話が聞こえる距離まで戻る

 「マコは許してくれるのか?」

 「え…?」

 「あ、いや…遠慮しとく。今は時じゃない」

 「……」

 「つい勢いできたけど…まだ、俺たちは会わないほうがいいんだ。まだ誰も許してくれない。人も時も」

優しく大人になったと言わんばかりに話す

それがマコにとっては苛立たしかった


 「時や人が許す許さないも関係ないだろ…大切にしなきゃいけないのは今ここに来た理由、気持ちだろ。本当は会いに来たんじゃ、ないのか?」


自分がどんな自分勝手なことをいってるか分かってる

一般人で関係のない人間だっていうなら本当の身勝手だ

これから二人の力にはほんの少しならなってあげられる

けど、被害危害をこうむるのは自分じゃない彼方や満春だ

 「チケット渡しに来ただけだから…その日俺にとっては特別な日だから」

冷静に受け答える態度に業を煮やす

 「正直言うよ。あいつはあんたに会いたがってる!!…だから私も一目でいいから会って欲しいって思ってる。あんたもそうなんだろ?…」


 「なら…会いにいけばいいじゃねーか!!」


マコは叫んだ心の限り

ずっっと言いたかった言葉

けど、その重み…その言葉の重大さに心が潰されそうになる

自分は観客側…見てる側

その事実が消えない以上自分は何言っても人事

マコは悔しくて悲しくて仕方ない

イラだって居たたまれなくて涙が零れる

 「お前には分かんない話だけど…色々ゴチャゴチャやってきて本当は駆け引きとか苦手なんだ会う時期とか機会とかタイミングとか関係ない今すぐ飛び込んで行っちまえば一番楽で二人が幸せになる…その後の波風なんて二人が本気なら手を取り合って頑張れるはずじゃないのかよ」

 「マコ…」

口を挟めるはずがない

目の前に立っている彼女はあまりにも綺麗で

表立って乱暴さは目立つが心は誰よりも澄んでいる 

 「理想論だって分かってる!世の中そんな甘くないって分かってる!!だがな、私にはどうしてもちっぽけなものにみえんだよ。二人が幸せじゃないのに何を成功させようって言うんだ?6年間前とか、幼い頃の約束とか…有名人とかそうじゃないとか…どうでもいいじゃないか!!それを消せるのも、あいつの空白の時を埋めるのもお前しかいないんだ…お互い好きなんだろ?!」


マコの言葉は止まるを諦めていた

出来るなら変わってあげたい

でもそれは出来ない

そういえるのは部外者の余裕

傍観者だからいえる言葉

…それが何より悔しい


一度流れたら自然に止まるのを待ってるしかない

 「そうだろ!!」

彼方は答えなかった

 「勝手だって分かってる…部外者のたわ言かもしれない。だけど、もういいじゃないか?今行くしかなんじゃないか?」

気がつけば彼方の肩を強く掴んでいた

マコの手が微かに震えていたこと彼方は感じ取っていた


 「マコのその力があって前向きな考えが満春を支えてくれていたのかもな」



 「俺も、前向き思考だけど、あそこにいる以上、色んなものを覚えさせられる。正面向いてるだけじゃ能無しなのと変わらない…そこに人や成果がついてこなきゃそれはただの悪あがきマイナスにしか見えないこと」

静かに震えるマコの手を取って放す

 「だけど、マコはそれでいいのかもしれない…。マコにはパワーがある。人を説得させるだけの気合がある。人を素直にさせるだけの原動力が」

彼方は涙を拭くように促すと


 「『俺』という人が成果としてついていくわけだし…」


マコは思わず瞳を見開いた

そこにはまだ大粒に涙が残っている

そしてまたそれは涙となって額に落ちる

 「こんなに泣いたのは久々だ。」

 「男冥利に尽きるね!!」

軽くガッツポーズ

 「なんかそれシチュエーションが違わないか?」

泣きっ面に笑顔がよみがえる

彼方も思わずふき出す

 「会って、くんだろ?」

マコは確かな言葉が欲しいのかもしれない

再度同じ問いかけを彼方に下す

考えている通りの沈黙の後に

 「あぁ…」

 「そ、そっか」

マコはその言葉を笑顔で受け止める

もう自分にはそれしか出来ないといわんばかりに

肩をぽんと叩くマコ

その場しのぎだって分かってる

何も起きないなんて誰にも決められない

だけど、二人とも知っていた

このままじゃ何も変わらないって

 「私的にはもっと嬉しそうな顔してくれると助かるんだけど…?何せ満春の親友兼保護者からの許しが下ったんだから」

何故か自信満々

 「今、きっと昇降口辺りにいると思う…二人で話してきなよ」

彼方はその様子に頷いた

 「ここで待ってるからさ・・・」

その言葉を聞いたのか聞いてないのか

マコの傍から離れていった


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