64.進んでいく日々
教室中あわただしい
それはそのはず明日から三連休
なんだか忘れたけどどこかの代わりの休日
いわゆる振り替え休日
と、土日がはさんで私たち学校だけの三連休
子供じゃないけど子供みたいにはしゃがずにはいられない
なんだか特別な気分になってしまう
それ以上に幼稚園の遠足並にはしゃいでる人が一人
いやいや、これから一人増える模様
「明日から三連休だな!!」
ハイテンションなマコ
こっちもうれしくなる反面子供でも引いてしまう
「どうすんだ!明日からの連休」
「んーーーー別に用事はないけど」
そんなに寄んなくても聞こえてるよ
「んーーーっとね!!奈津美はライブ三連続!!!」
突如現れる奈津美
一瞬何なのか分からなかった物体に目を大きくする
私の言葉よりマコの拳が先に来た
パコーン!!
それは何も入ってないであろう脳天に直撃した
「「ったぁ!!!」」
それは私の両サイドから声が聞こえた
奈津美なら分かるけど…マコ
奈津美、あんた何も入ってなさそうなのに
どうしてそんなに硬いの?
思わず脳内実況をしてみたが
早くも復活することは分かっていた両サイド
「何で私が痛がってるんだよ!!」
もう逆切れする始末
「アハハハハハハッ!!!」
私は無意識に大声を上げて笑ってしまった
お腹を抱えてしまうほどに
沈黙があると思ったら
笑い転げていた私をジーッとみつめる二人
それに気付いたらおかしいことが何だったのか忘れてしまった
「えっと、何?」
二人が物珍しげに私を見るから
見られてるこっちは
ちょっと気恥ずかしくなってしまった
「あ、いや別に」
少しはにかんで顔を背けるマコ
ますます首を傾げるしかない私に奈津美は言った
「あんた、そんな風に笑うことあるんだ…」
「え?」
突然なことに戸惑う
不意に奈津美は微笑んだ
「そっちのほうが良いよ。前みたいにツーンとした感じじゃなくてさ!」
そういうとまた今度ははにかむように笑顔を向けた
「それなら田中君を私は忘れられる…」
なんだか格好つけながら私の肩を優しく叩いてるけど
………… …。
田中君って誰?…だっけ。
「田中って誰だよ」
心のうちをマコに読まれたみたいに質問が入る
「私が告白したダーリン。私が小鳥のさえずりを聞きながら体育館裏で告白した愛しのあの方」
なんかそんなエピソードもあったようななかったような
思い出せるような出せないような
「あぁ!結局相手はこなかったって奴?あ、それとも『俺は団子より花がいい!!』って逃げていった奴だっけ?」
あ、思い出した
振り向いた奈津美の額には青筋が浮き出ていた
「あの時は血迷ってたけど…今回は彼方という誉れ高き男に惚れたわ!!そうよそれを言いたくて私はここに降り立ったのよ」
ここが戦場みたいなニュアンスでことを進める
「聞いて!!この三連休私は彼方三昧よ!?彼方オンパレードよ!!」
分かったもなにも
マコは言葉を失った
今の話しでどんなリアクションを取れと?
「分からないなら説明してあげる…彼方のライブに行くのよ」
説明は簡単だった何より簡潔始めからそういえば良いのに
「はいよぉ…いってらっしゃい」
適当にあしらうマコ
「あ、いってきます…じゃない!!!!」
そっかぁ…雑誌とかで見てはいたけど
彼方君まだライブの最中なんだ
ふっと彼方君の顔が思い浮かぶ
「そう、今回ツアーはなんと全国50件以上はまわるといわれてるのよ半年間で!!私はその中の半分は行くわ!!愛しの彼方に会いに…これは愛の鉄則、ライブなくしては二人は会えないの。いいの分かってる、彼方は忙しい人だもの…少し会えないことぐらい奈津美我慢する。いい子にして貴方の帰りを待つわ!!理解ある彼女だなって…もういやだぁ、本当の事いわないでぇ〜っ」
始まってしまった奈津美劇場
閉幕まではもう少し、いや大分かかりそう
「へぇ、あいつそんなにまわるんだ」
「何それ、知り合いみたいに言わないでよ」
私は少しどきりとした
「な、何言ってんだよ!!お前には勝てないよ」
必死にマコは誤魔化す
考えてみればそうなんだ…。
奈津美は私という存在知らないんだよね
幼馴染って存在…知らないんだ
分かってる下手なこといわないほうが良いって
でも、チクリと痛んだ
「勝てないなんて当たり前よぉ〜…そういえば最終公演のチケット取りたいんだけどまだ決まってないんだ。まだ先のことだから決まってなくて当たり前なんだけど」
奈津美は真剣に考え込む
ふっとした疑問
「何公演行くの?」
「29公演…だから次は記念すべき30だから他、チケット取れなかったから最終公演で決めたい!!」
「その間、学校どうすんだ?」
その前にお金の出所!
しばしの沈黙
「あ、愛に障害は付き物よ!!」
ガッツポーズする奈津美
あ、きっと奈津美追試する覚悟だ…
馬鹿馬鹿しいとばかりに奈津美を見つめるマコ
半年くらいライブするんだ…
あっちこっち各地回ってのライブ
体、大丈夫なのかな…
それなりの体制で挑んでるんだろうけど
雑誌で見るとまわりながらレコーディングやらテレビ出演やら行っていくらしい
言葉で語る以上に過酷なんじゃないかって
私はやっぱり芸能界って世界をよく知らない
だからあれこれと考えてしまう
傍にいたいなんて性懲りもなく思ってしまう
賑やかな会話とは裏腹に窓を見つめる私は
今日何度彼方君を思い出したんだろう…
◇ ◇ ◇
慌しい足音は鳴り止まない
たまに怒鳴りあう声も聞こえるほど
緊迫感は増していた
いつもお酒をがぶ飲みして笑い叫んでいるとは思えない
そう思うのはかなり失礼な話だか
見ないふりをするには差が激しすぎる
何度見てもなれない光景
その中に彼方ももちろん入っているのだが
楽屋には人が入れないほどの物であふれ返っている
片付ける余裕がない
全国ツアー中の合間に新曲づくり、生出演、取材…
その他衣装合わせ
計画は立てたそして通りにいってる
彼方はほんのつかの間の一時を手に入れた
少し落ち着くために体の力を抜く
「速瀬さん、休憩平気?」
すぐ傍にいる速瀬に声をかける
速瀬も忙しい中自慢の長い髪が鬱陶しいのかアップにしていた
「えぇ、そんなに余裕はないけど…歩きながら休んで」
「それ休憩じゃないよ。しんどいねぇ。さすがに…この年になると」
速瀬から疲れた表情が消える
そして、言葉もなく水を彼方に渡す
「なに?これ」
「さっきの合間に買っておいたのよ。車に乗りさえすれば到着まで休憩だから我慢してちょうだい」
そういいながら彼方は手に取る
「あんがと!敏腕マネージャー!!」
そういって笑うと一気に喉に流し込む
「そんなこと言ってもスケジュール通り行ってもらうわよ」
「分かってるって!!」
苦笑いになりながら言葉を返す
「しんどいけど、楽しくないわけじゃないからライブは精一杯楽しむよ」
子供みたいに笑う彼方
正面玄関ではなく裏からだというのに待っているファンの子は少なくない
こっちの出かたはお見通し
そんなファンの心の中が読み取れるようだった
手捌きというか上手く人並みを掻き分けていく
やり手敏腕マネージャーはするりと彼方を車まで誘導した
思わす彼方は拍手喝采だった
「もう、彼方!冗談はやめなさい!こんな時に」
「別に俺は苦労してないもん」
と、今度はVサイン
速瀬は呆れて答えられなかった
「車出してちょうだい」
困難を要したが何とか人並みをすり抜けられた
速瀬は小さく溜息を吐く
きっとこれは安堵の息だろう
「これから何処だっけ?」
「今度はMスタジオで…」
淡々と言葉を重ねる速瀬
「生番組じゃなかったっけ?」
「それは来週の火曜日…」
把握していらっしゃる
抜け目がない…質問にも即答
いつもの速瀬だ
スモークガラス越しから見える景色
もうすぐ高速に乗ることを予測
彼方は少し眠ろうと呼吸を落ち着かせる
この車から降りたらまた人騒動なんだから
目を閉じようとしたその時
「そう、…彼方、一つ報告することがあったわ」
「……」
返事を返さなかったが速瀬は続ける
彼方は聞いてることは百も承知だからだ
「最終公演が決まったわ…公演場所は東京ドーム。そう気付いての通り東京ドームから今回出発して東京ドームに帰ってくる…それまで一緒に各地を回ってくれたファン感謝を込めての同じ場所よ」
「……」
「追っかけのファンには最初の場所で感動フィナーレ」
速瀬はそういいながらゆっくりと次のページを開く
「そして、最終公演日時は…」
「9月15日」
彼方は眠るはずだった瞳を一気に開いた
「な、なんだって」
何故か動揺を隠せない彼方
さっきまでの疲れが吹っ飛んでしまったかの表情
「も一度言って…」
イキナリの豹変に速瀬は間髪も入れることなく繰り返した
「最終は9月15日」
彼方は動揺した
言葉を発したくても出来ない想い
ごちゃごちゃになった気持ちが脳を支配した