62.私の中のピース
退屈な授業の中間点昼休み
一時の自由時間にハイテンション
天気もいいことだし
今日は中庭に出てみようとマコのナイス提案
少し早めに終わった授業のおかげで
晴れの時は大人気の中庭には人が一人もいなかった
「おぉ!!優先席がいっぱいありますなぁ…」
隣で歓喜の叫び
こんなことで喜べるマコ
片目でクスクス笑いながら心は弾んでいた
ここでいいかなぁって決めたところに
お弁当を広げる
「あれ?…マコ今日は」
「あぁ、これ?ちょっと気分が乗ってね?」
ワザとらしく語尾にハテナマークつけてふざける
いつも近くのコンビニとかでご飯を買ってくるマコが
そう鮭おにぎりは必須!
だけど今日はかわいらしいお弁当を取り出した
そんなマコと一緒に私もお弁当を広げた
「あたしだってやるときゃやるのさ!!見てみて」
視界にマコの力作お弁当が登場する
自分のお弁当を膝においてマコのを手に取る
「味見してみろよ…ほら」
言われるまでもなく箸は自然と向いていた
その時見知らぬ男子が私たちの声をかけた
「あ、あのさ」
自慢の肉じゃがを口に運ぼうとするその時
私の味見は中断された
誰か分からない男子に私たちは言葉を失った
聞けば隣のクラスの子だと言う
「何だよ…何か用か」
少しぶっきらぼうなマコ
余程味見の邪魔をされたのが気に食わなかったらしい
「マコ!ごめん、何?」
眼飛ばしを静止するかのように割ってはいる
それにもめげず睨みを利かす
「…話あんだけど」
そう言われて私はその隣の男子についていった
「何で」って疑問なマコを何とかなだめ
過保護なマコを置き去りにその男子と歩いていく
マコの後姿が見える
呼び出されたのは私だけ…
用が済んだのはついさっき
色々気をもんでいるであろうマコの元にたどり着く
気付いていないマコの背中を軽く押した
「おまたせ」
私が座るのも待たずに質問攻めにあう
「何だよ。あいつ…何のようだったんだ?」
とりあえず座らせてと無理矢理座る
「んで!!!」
食い入るように私の顔を見つめる
そのマコの反応に私はますます言いづらくなってしまう
「な、何でもないよ」
何食わぬ顔でお弁当を手に取る
「何でもないでこんな楽しいお昼時に声かけるか!!普通」
肉じゃがの瞬間を奪ってしまった罪は大きい
と声を上げて言うマコ
そんな言葉を横目に玉子焼きをかじる
「本当にたいしたことないんだ…」
「じゃぁ言え」
間髪もなしにマコの返事は返ってくる
言葉を詰まらす
玉子焼きを何とか喉に通す
そして静かに箸をおく
「告白…」
「はぁ?」
間抜けな声を出すマコ
今度は横目で睨みながら再度言葉にする
「告白されたの…さっき」
言ってるこっちが恥ずかしくなる
だから言いたくなかったんだ
こんなこと何だかマコに教えるようなことじゃないような気がするし
「告られたのか?」
きっと赤い顔をしてる
俯くだけじゃ隠し切れないって分かってるから
ますます顔が反応する
「こくっ…付き合ってて」
「告られたのかぁ〜」
「何回も言わないで!!」
声を荒げる、だって嫌なんだもん
知ってはいた
奈津美から聞いてはいたけど
だけどもてるとかもてないとか関心なかったし
何で今まで平気だったのかわかんないくらい
今となってはこの状況は恥ずかしいの何者でもない
なのにここぞとばかりに聞いてくる
「何々!!つ、付き合ったりとかするのか?」
まるで娘の交際を目の当たりのしてるような顔
目を丸々とさせる
「こ、断った…に決まってるでしょ」
私は恥ずかしくなって言葉に詰まった
違う意味で熱くなるマコ
「くぅぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!!」
「ま、マコ????」
何故か体を打ち振るわせる
その時間は数分だったか数秒だったか
「何ぁ〜だよ!!付き合っちゃえばよかったじゃぁぁぁあん!!!☆」
「え…」
「こんな出会いはまったくと言って良いほどないぞ!!あ、いやいやお前にはあるかもしれないけどどう見たってカッケー奴だったじゃないか!」
「私、知らない人だし…」
「はぁ?知らない人…私だって知らない人だ!!…それだけで決め付けるのか?何事も出会いがキッカケで人と人は結ばれていくこれが人間の摂理、出会いなくては心の繁栄はないんだぜ?良いこと言ったな」
マコの怒涛トークが続く
何故か反抗する言葉が出てこない
「いい奴だったんだろ?」
私は黙ってうなずいた
「まぁ、告られただけでいい人かどうかはわかんないけどな…あの後姿、言葉に出来ないぜ…なんて断ったんだよ」
「考えられませんって…他の子探してくださいって」
ため息をつき肩を落とす
「酷いフラれたかだわ、それ何者でもない好きな子にそれ言われるのって…軽はずみすぎるなぁ。満春さん、少しは相手の気持ち考えて」
きっと冗談で言ってるって分かる
「満春らしくないなぁ」
少し調子に乗ってるだけだって分かる
だけど私の中で何かが切れた
「!!!!!っ…」
心の一番奥にワザとしまい込んでいた
何よりも怖かった自制する最後の太い線
知らないうちに剥き出しのなって
早く外に出たいって叫んでた
それがこんなことがキッカケで表に出るなんて
私はちっとも望んでなかった
「何…それ」
「はははっ…っえ?」
「何それ、マコは冗談で言ってるのかもしれないけど…どれだけ私は不安になってるのか知ってる?」
一気に頭がさえる
違う私は何かをしゃべってる
これは紛れもなく自分
そう納得するしかない
だって他の誰でもない私が自分の発する言葉に納得している
「ねぇ、答えてよ」
思った以上に声が低い
「私はね、確かに一本につながった。それまでバラバラだった」
「み、満春?」
マコのしどろもどろな問いかけに私は無視した
「夢の中が現実だってそう思い込んでいたけどそうじゃなかった。いきなり迷路に迷い込んだ気分よ。それが漫画とかで見る展開だったらよかった、だけど私は現実に戻った私は途端一番大事なものを失ったわ」
「………」
「だけど、別の部分で抑え切れないものが膨れ上がっていって綺麗に飾ってた私が小さくて人が羨ましく思えるって!!別れなきゃ良かった…記憶なんて戻らないほうが楽だった。何も感じな自分が懐かしいって。マコの気持ちも無視して出てくるもの醜い自分ばかり!!こ、こんな自分の事ばかりしか考えない自分もだいっ嫌い」
笑って文句を言っていたマコ
そんなマコが初めて嫌だって思った
「昔、確かに明るく元気でみんなの人気者だったかもしれない。だけどこんな私と比べないで…『らしくない』って言わないでよ」
ここにきて初めて悔し涙を出した気がする
流れてくる感情に私が制御できずにいる
私の感情は真っ当な人間何だって実感できる
悔しさ、悲しさ口にする以上に重くのしかかる
蓋をしていた自分
それは何よりも醜くて、汚くて
6年間燻ぶっていた気持ち
同時にこれから出てくる言葉も全て本心なんだって分かる
「落ち着いたか?」
こんなに取り乱した私の傍にマコはいてくれた
とっくに午後のチャイムは鳴っていた
酷いことを言った
それだけは自覚できる
だけど、今の自分は落ち着いていて
何を言われても素直に答えられる
「はぁ…冗談で言ったつもりだったんだけど、な。調子に乗りすぎたわりぃ〜」
ばつが悪そうに言うマコ
私は静かに首を振った
「だけど、結果よかったかもな…」
「え?」
よかった?
頬が引っ張られる
「いたたた!」
「どうだ?気分は…清清しいだろ?」
「一気にしゃべっちゃったからね」
「我慢すんなっつーの」
またつねるのかと思いガード
「お前記憶が戻った時だって何も喋らないままなんだもんなぁ…勝手に黙って苦しんでしんどいだろ…お前の癖だ!!」
「彼方君に会わないって言った時その時はこれで良かったって本気で思った…彼方君のため、見守るファンのため…。記憶が戻って一気に押し寄せた選択の嵐、感情の中で何を大事にすればいいのか決められなかった」
「…………」
「何が大事か。応援してるファンをないがしろに出来ないっていうのも嘘じゃない。それって偽善かな?」
問いかけた私の傍でマコが笑う
ちょっとムッときた
「いや…正直、満春らしい…」
「釈然としない言い方」
「あれだな…お前、今どうにも動けない私の背中を誰か押してくださいって心境か…」
どこかトゲがございますね
そのお言葉…
思わずお嬢口調になる
「だけどね…それ以上に私」
彼方君が好き
奏汰君が、好き
「きっと5年後、10年後、20年後お婆ちゃんになっても芸能人じゃなくなっても変わらず彼方君に会いたいって思ってると思う…それって偽善かな?」
隠されていた奥深くの一本の線
真っ白になって私は一層強くなった
想う気持ちを無理に押し殺そうとするから限界がきちゃうんだ
素直に受け止めればいい
そんな気がする
溜まってた感情をさらけ出た後
見えてくるのはいつも本当の自分ばかり
「今までの自分なかったことにしようとしてた。何か一つでも許してしまえばもろく崩れる…彼方君と一緒に過ごした時間、楽しかった時、必死に忘れようとして落ちてきたもの一つ一つの収拾に必死になってた…でも違う。それさえも受け止めればいいんだ」
黙って聞いている
「マコ、寝た?」
途端、不意打ち頭にこぶしが振ってきた
「どうやって寝ろっていうんだよ!!ここで」
意外に痛くなかった
「ははっ!そりゃそうだ!!…ねぇ、マコ?」
自然とマコは私の顔を見つめる
「私、もっと貪欲になったほうがいいのかな」
マコの表情が一瞬止まった
だけどそれは本当に一瞬
いつものマコに戻る
「それは何とも難しい問題だね」
マコは腰をあげる
そして随分同じ場所に座ってたからか腰をポンポンと叩く
太陽は赤く染まりマコの大きな影をつくっていた
その中で大きく伸びをする
「んーーーーーっ!!」
気持ちいいのか声が漏れる
「んはぁ!」
ババくさいってマコ
「だけどさ…」
「え?」
「何度も言ってるけど…力にはなるから」
マコ…
そういいながら体をもっと伸ばす
ごまかすのが相変わらず下手
そんなマコに私は後ろから抱きついた
「ぐへぇ〜!!」
タイミング悪かったのか変な声を出す
「痛ってぇ〜なぁ!?」
気にしない
マコが痛がってることなんて
私がそうしたいんだから