50.中途半端な私
前とまったく同じ生活が戻ってくる
いつも通り玄関を出て
マコにあって、授業受けて、マコと奈津実のバトルを隣で聞いて
帰りは時々マコと寄り道して
いつも通りの平凡な毎日が帰ってきた
あれから速瀬さんからも
もちろん彼方君からの連絡もない
前からこんな生活だったかのような日常
今までが嘘だったんだろう
なんかそれが事実な気さえしてきた
というか、ドラマを見てたんじゃないか
少しリアルな物語
今日一日の日課
学校という日常は終わった
今日の昼休み提案したこと
奈津実はどうしても連れていきたくないからって
いない時を見計らって
明日は日曜だしマコん家に遊びに
もとい…勉強しに行こうと言うことになった
もうすぐテストがあるからって
私は平気なんだけどマコが大慌て
『今度赤点取ったら親父にチクられる!!』
なんだそうだ…
ここまでマコを駆り立てるお父さんのパワーって一体
なんて思いつつも
別に私は構わないからOKを迷わず出した
んーーーーっ…
確かにそうだ
ここに奈津実がいたんじゃはかどるものもはかどんないだろうなぁ
帰り際にコンビニへと寄っていく
マコにとっては毎度お馴染みのコンビニ
夜のご飯を買っていく
「おっ…みっけ!!私の大好物」
と、マコは迷わず鮭おにぎりを手に取った
人のカゴ見てアレコレ言うのも何だけど
マコの性格が出てる
欲しいと思ったものはバコバコいれってってる
すばらしいほどの潔さ
…恐れ入ります
そしてコンビニを出る
「あ、そうだ!!…そこの自販機寄っていい?」
歩きながら私に尋ねる
「別に良いけど…ジュースならなんでコンビニで買わなかったの?忘れたの?」
そう私が言うがいなやマコは軽く微笑んだ
まるで悪巧みを考える子供のように
そんな表情を見せると小走りで自販機に駆け寄るマコ
規則正しい自販機は音をたてると
マコはなにやら見せつけながら
こっちへと帰ってくる
「へへっ!!何つってもこれがなきゃ始まらないもんなぁ〜」
お酒、みたい
私はマコに合わせるように笑いを浮かべた
時間は夕方近く
珍しく二人して視線は下を向き教科書が開かれてる
…んと、この問題を上記を例にして答えを導き出しなさい
思った以上に勉強ははかどっていた
カラン…この音は?
もうすぐそんな貴重な時間は終わりを告げようとしていた
「あーーーーっ!!もう飽きた!!」
と、いうかジ・エンド
マコ自らがボス戦に挑んで全滅したご様子
いわゆるゲームオーバーですな
電源も切ってしまったみたい
ゲームの舞台となる教科書は投げ捨てられた
「一番最後にこんな難しい問題出すなって言うのっ!!」
それが問題でしょ…
「最終ボスは手強かったか…」
私は独り言を漏らす
それでなくても雑魚でも仲間の手助けがなきゃ倒されてたし
「もうやめよう!!やーめっ!!!!」
乱暴に寝っ転がる
あぁ、世界に平和は戻らずかぁ…
頭の中で繰り広げられていた物語に終止符を打った
静かに教科書を閉じる
「どうする?マコ」
次にやることを体勢を崩しながら訪ねる
あれ…返答が返ってこない
「マコマコ、寝た?」
「んにゃ!!…起きてるよ。」
言葉と同時にマコの顔が起きあがる
「腹減ったなぁ〜って単純に」
そして無造作に探り当てテレビのリモコンを押した
場所を把握してたのかなぁ…素早い動き
自分の部屋だからって納得していいもの?
今まで無音だった部屋に騒がしさがプラスされる
今まで灰色だった画面に彩りがプラスされる
一気に場の雰囲気が変わった
別に悪かった訳じゃないんだけど
「なんか面白いのやってないのかな?」
そう言ってマコは無意識に時間を見た
私もそれにつられ時計を見る
「…6時」
見計らったかのようにコマーシャル
時刻は6時少し過ぎていた
隣でマコのため息がほとばしる
「何だよ…ニュース領域じゃん」
そう言った矢先にニュースが報じられていた
何もすることがなく画面を見つめる
「あっ!そう言えばお腹空いたって言ってたよね?」
やることを見つけ座布団から腰を上げる
「確か…さっき買ったお菓子が何個か」
言い終わらないうちに視線は画面に釘付けになってしまった
表情もいつの間にか蒼白になる
私達の視線は同じ方向を向いていた
「…これ」
マコはやっとの思いで言葉にする
そこには『速報彼方、芸能活動停止!!』と書かれていた
マコの反応をうかがいながら何くわぬ顔をつくる
「お、お菓子持ってくるね?」
返事はなかった
それはそれでホッとした
だけど私の脳はいつの間にか足を止める命令を出していたらしい
一歩たりとも動かなくなった
「…それね」
「満春、知ってたのか?」
私は振り向かずに頷きだけで返した
「そうそう!!この前遊園地行ったじゃない?…その時速瀬さんっていう彼方君のマネージャーさんにあって偶然!!」
明るく元いた席に戻る
「その時に、これ聞いたんだ」
「……」
「もうね、危ないって…色々あったみたいで、さ。でもほらっ!うちらにはどうすることも出来ないし…」
「へぇ…」
マコは何気ないような返事を返す
何故か倍に明るい口調で話を続けた
「まさか今になってねぇ!!」
思いつく限りの笑顔をマコに向ける
だけどマコは無表情のままだった
一瞬にして沈黙
ニュースだけが私達の空気を取り持っていた
「いきなりの活動停止ですね…事務所はこのことについて一切語らずで…」
調子付くコメンテーター
相づちを打つキャスター
「ネットでは恋人発覚という情報も流れているみたいですね…お相手は高校生。それ以外は一切不明その噂から間もなくして活動中止。これは何かつながりがあるんでしょうか?」
無言の時間が長く感じる
私は勇気を出して語りかけた
「ははっ!!今更だよね?…チャンネル変えようか」
何か言われるかと思ったけど
マコは何もいわずに従ってくれた
もう何もかも終わっている
だけどそんなマコの仕草に
私の心は穴が空いたような気になる
いつものマコだったら何か言ってくれる
何でそうなんだ!!違うだろう!!とか
勢いのある言葉を浴びせてくれる
今の私はまだ中途半端
あの、彼方君と別れを告げた日から
ガツンと背中を押してくれる言葉が
欲しいのかもしれない
いつからこんなになっちゃったんだろう
こんな他力本願な考え方
こんなの戻りたかった『満春』じゃない
いつになく曇った私の表情
マコはどう思っているのだろう
やっぱり嫌いこんな私