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47.変わっていく環境

彼方は無気力な顔で事務所のドアを開けた

何をするでもなくただ無意識に

一人ではいたくなかった

そんな気持ちは本人しか分からない

通り過ぎていくスタッフは

そんな彼方を知るまでもなく

慌ただしく資料集めや機材運びやアポ

それぞれの仕事をしていた

誰一人彼方を気にすることなく

それは普段の彼方だと気付く違和感

 「…あら?彼方」

書類を手一杯に持っている速瀬が声をかける

だが、彼方は返事をしなかった

 「そう、丁度ね話しがあったのよ。ちょっと来てくれるかしら?」

手に溢れ返っていた書類を適当なところに置き

彼方を引っ張るように手招きをする

それにつられるがまま空いている一室に招かれる

 「随分な顔ね」

 「……」

 「まぁ、いいけど…私にはもう関係のないことだわ

その一言に彼方は視線を向ける」

だがもう興味なしといったたげに早々と話題を変える

 「貴方に報告することがあるわ。今日限りを持って私は貴方のマネージャーから外れます…。貴方よりもっといい人材が見つかったの。この仕事に信念を持って取り組んでいる子をね…嬉しいでしょう?口うるさいのがいなくなって」

 「……」

 「貴方はもう私にとって何の価値もないわ。消えようが辞めようが私には一切関係のないことだもの」

相変わらずの強い口調

だか、それに動じることなく彼方は生気を失っていた

変わらない凍り付くようなヒールの音を鳴らす

 「あぁ、そうそう元マネージャーとして言っておくわ…貴方このままだと終わる。その時は一体何人の子を悲しませるのでしょうね?遠くから応援してるわ」

 「…!!」

強い口調ではあるがまっすぐに彼方を見据える

バンッ!!!!?

 「何も答える気がないならもういいわ!!一人でそうやって黙り込んで誰からも見放されていくことを心から祈っているわ!!」

机を叩いた震動は彼方の手のひらまで響く

彼方の腕は貸すかに震える

だが、心まで届くにはあまりにも病んでいた

そのまま怒り任せにドアを閉める

閑散とした事務所の一室

あたりは物音を立てるもの一つもない

ただ机を叩いた音が頭の中で鳴り響いている

静かに壁に沿いながら床に膝をつく

それは『落胆』と言う言葉が脳裏に浮かぶ

そんな文字が頭に浮かんだかさえ分からない

余裕なんてこれっぽちもないのだろうから








あれから彼方君に会わなくなった

あんな別れ方したし、きっぱりと言ったから

当然と言えば当然、当たり前と言ったら当たり前

あれからどれ位経ったんだろう

結構経ってる気がする

だけど、なるべくカレンダーは見ないようにする

別に、私は何かを待ちわびてるわけじゃないから

期待とかしてるわけじゃないから


…もう、何か起こるなんて思わない


だったらカレンダーを見る自分なんて必要ない

だってカレンダーを見ると今の私が浮き彫りにされる気がするから

昔の私と違う

ぽっかりと心に空洞が空いた自分に

だけど、こんな私でも学校に来れるのはマコがいるから

親友っていうのはこんなに心強いんだって

この歳になって気付くなんて思わなかった

お陰であまり落ち込まずにいられる


あれからテレビに彼方君は出ていないらしい

耳元でうるさく言うヤツがいるから

ちょっと詮索しちゃってる

奈津実から何か言ってこないか耳を傾ける


今はそれが精一杯


 「はぁ…」


私とは反対に携帯のスケジュールを覗き込む奈津実

そしてまたため息


 「はぁぁ〜」


その動きを私は何もすることなく

観察していた


 「ぷはぁ…」


だんだん大げさになっていくため息の嵐

 「はぁぁぁあぁぁ〜〜〜〜…」

 「聞いて欲しいのか!?」

居たたまれずマコがツッコミ入れる

 「あ、分かる?」

 「あぁ…お陰様で」

そりゃ誰だって分かるでしょ

肺の空気全部出してるんじゃないかくらいのため息吐かれちゃ

 「最近、全然彼方の笑顔を見てない…」

ドキッッッ!!

私の表情が凍る

分かってる、マコが私の顔色伺ってることは

出来る限りの笑顔をマコに送る

そんな事なんて知らない奈津実は

いつもと違って弾丸トークではなく頼りない声で話す

 「見て?分かる?この記号」

そのスケジュールには日にちの下にハートマークが記してあった

 「彼方に会えた日。だけどこの2ヶ月半あまり全くの後沙汰なし…」

そこで再びため息

やっぱり、奈津実の元気の元は彼方君なんだ

私から見ても落ち込んでいるようにしか見えない


 「まったく…浮気しちゃうぞぅ!」


ガクッ!!

でもないんじゃない

だけど、まぁ…それなりに元気ないか

奈津実は奈津実なりにしょんぼりモードかな

 「ねぇ!!」

私は一つ提案をした

もちろん私に注目する人が2人

 「今度の日曜日、どっか遊びに行かない?!」

突然の提案に両隣で驚く姿

いつ見ても思う

リアクション2人とも同じ

何でこれで仲悪いのかが不思議

まぁ、逆を言えば良いのかもしれないけど

 「パァーッとさ遠くに…そうだなぁ、遊園地!!」

 「女3人で?」

微妙な顔をする奈津実

 「げっ!!お前も来るのかよ」

こっちはこっちで違う微妙な顔をする

 「いいじゃないいいじゃない!!奈津実いたほうが楽しいって…」

うまくフォローを入れる

じゃないと、まったくって言って良いほどまとまんないんだもん

 「はい、決定!!!」

むちゃくちゃなまとめ方をする

私、幹事役の満春であったが

私自身もどっか遠くへといきたい気分だったから

変な取り合わせだけど羽を伸ばしたかった



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