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46.悲しい別れ(後編)

だからって幼馴染っていう事実なんてかえられはしない

だけど、これはもう結論付いてしまった私の決意

 「じゃぁ、俺はどうなるんだ?一体誰のためにここまでやってきたと思うんだよ」

固く閉ざした口を開く

 「お前を泣かせたくなかったからこの約束をいつまでも守ってきてた。今じゃ夢みたいな話だけど『笑って会える場所』じゃないか!お前が笑ってくれるからここまで来れたんだよ。いつも聞こえてくる電話越しの元気な声」

 「もうさ…」

 「だいたいさ…どうしてそこまでファンのこと思うんだ?お前を傷付けた張本人じゃないか!」

 「止めよう…そう言う問題じゃないよ」

 「え?」

 「そんな行動に出てしまう彼女たちの気持ちが分かるから」

私は落ち着いた声で話す

 「っ…!!」

 「好きなんだよ…彼女達」

言葉に詰まったかと思った途端涙が零れていた

自分の彼に対する気持ちと彼女たちの気持ちが比例して

何にも考えられなくなってしまう

 「こんなに辛い思いをするのも馬鹿な約束をした罰なんだよっ」

ずっと抱え込んでいた結論

どんなに酷い仕打ちをされても仕方ない

それくらいのことを私達はしてしまった

小さい頃とはいえ軽い約束を交わした私達に選ぶ手段なんてない

考えれば考えるほど決定づく

私の好きと彼女たちの好きは一緒

そんな彼女たちを都合よく弄んでいたんだ

だって有名になってテレビに出る

みんなに認められ惚れてしまうファンのいて

その人達を踏みつけて彼方君に手を伸ばそうとしてる自分

…そういうことだから


 「俺は、それでも・・・」


無言で首を振る

 「それは…自己中だよ」

彼方君はいきなり微笑んだ

それは皮肉にも似た笑み

 「ははっ…なるほどね。速瀬さんの言ったとおりだわ」

 「速瀬さん?」

 「俺は自己中だって…周りのことが見えてないって前言われたよ」

 「速瀬さんに?」

 「あぁ。ついでにあのさっきいたマコって子にも言われた」

 「……」

 「仕方ない、じゃないか…。俺には全てなんだからそれしか見えないのは当たり前だよ。お前が望むなら芸能界辞めたっていい」

途端に悲しい顔をする

私は言葉を失った

かける言葉なんてなかった

 「ごめん…ごめんね?」

この謝りもなんの意味をなしているのか分からない

だけど何か言わないと

私自身何か壊れていきそうで

なんて言えば答えたら良いのか

 「なぁ?一つ聞いて良いか?」

 「え…?」

 「俺は幼い頃からお前が好きだった…好きじゃなけりゃここまでしないけど普通は…。内面的な部分もそうだけどお前の笑った顔に惹かれた…さっきお前と笑いあって数年間忘れたフリしてきだけど…気持ちまだあることにも気付いた」

胸が高鳴るのを感じた


 「満春が好きだ…お前は?俺のこと一体どう思ってるんだ?」


また再び鼓動が鳴る

不意打ちというのもあるけど

今、一番聞かれたくない質問

私はしばらく固まり返す言葉を必死に捜していた


 「わ、たしは」


私は…私は

ベンチから腰を上げる

なるべくなるべく彼方君の顔が視界から見えなくなるまで


 「好き」


喉からあふれ出る言葉を必死に飲み込む

好き…

ここまでが精一杯の正直だった

 「好き、だった。」

一呼吸置くと私は力の限り彼方君がいる方へと振り返る

その顔は笑顔だったと思う

 「好きだったよ!!…だけどそれは幼い頃の話し。あれから色々あって、好きな人が出来たんだほら私記憶なくしてたでしょ?その時よくしてくれた人で…」

そんな人いない

私はマコ以外誰の支えもなく生きてきた

 「病院で知り合ったんだけど…私のことよく理解してくれて」

そんなことなかった

私を取り囲む人は同情する人だけ

また一つ嘘をつく

ウソってつき始める次々と言葉がでてくるものなんだね

 「きっと、6年前のあの日から別々の道に走っていちゃったんだね」

出来るだけ彼方君の瞳を見るようにする

もう、これで終わりにしたいから

…最後にしたいから

 「だけど知らなかったぁー!!彼方君が私のこと好きだったなんて…私だけかと思った!!って言ってもこんな小さい頃の話だけどねぇ〜」

きっと私妙にはしゃいでると思う

嫌にニコニコして自分で自分が分からなくなる

 「さっきの…」

 「え?」

 「さっきまでの言葉は嘘だったのかよ」

一気に真顔のなる

顔中の血の気が一気に引いた気がした

早くもぼろが出る

 「さっきまで言葉?」

 「あぁ…」

あれは私の本当の気持ち

そう言えたら楽だけど

それじゃ、いつまでたっても私達は終わらない

いつまでもあの約束を追いかけてしまう

決意が鈍らないうちに顔に力を入れる

 「い、嫌だなぁ!!…勘違いしないで!!あれは幼なじみとしていったんだよ。昔のよしみとして知り合いだからって会ったりするのはなぁ〜っていう話し」

自分でも無理あると思う

下手な言い訳だと思う

そんなんじゃ誤魔化せない

 「これはファンからの忠告なんだから!!」

彼方君の無言の視線が怖い

だけどここは真面目に真剣にならなくちゃならない

 

 「…。だから私達、もう会わないようにしよう?」

 

やっと言えた言葉

 「そう、決めたから…それを言うために貴方に会ったの」

のどの奥が酷く痛む

まるで他に言いたいことがあるを主張しているように

だけど私は息を飲み出来るだけ抑える

言い終わると席を立った

 「本当に、本当に…今は何とも思ってないのか?」

頷くことをためらう私

首を縦に振ってしまうとそれですべて終わりだから

終わりにしたくない自分と

終わりにしなくちゃいけない自分との葛藤で

胸が潰されそうになる


 「俺は信じない」


気持ちがどっかに飛んでいきそうになる

そんなこと言わないで…

どうして納得してくれないの

私だってそんなの聞いてないで立ち去っちゃえばいい!!

だけど、終わりにしたくない

この最後の時間を…

貴方といれる記憶が戻って最初で最後の時間

喧嘩でも争いでもなんでもいい



この時間を繋ぎたい…



 「そういえばね!!…私のクラスで熱狂的な貴方のファンの子がいるの。その子は本気で貴方のが大好きでポスターだってこ〜んな特大サイズ持っててシングルだって…こ、これでもかっ!!てくらい聞いてて、でもそれだけじゃない…写真集や雑誌とかレアなものとか学校でいちいち自慢とかもしてきて…等身大の『彼方』を愛してる」

 「信じない」

手を掴もうとする腕を払う

 「そんな人達を私なんかでがっかりさせないで?」

なんでもいい繋ぎ合わせる

私は必死に涙を拭う

 「…!!」

 「貴方を大切にしてる人達を…お願い大事にしてあげて?」

矛盾してる事だらけでもうグチャグチャ

これが私の精一杯

きっと伝わったって信じてる

 「それじゃ…これからも頑張って」

最初の一歩

うん、もう歩き出した

大丈夫、大丈夫…

歩き出したんだから


  

もう振り返る必要なんてない

サヨナラだって言ったし

後は…


 「っ…!!っく」


この流れ出る涙を止めるだけ

 「満春!!…俺は信じない。好きなヤツが出来たなんて嘘だ、ただのファンだなんて信じない」

どうしてここまで聞きたくない人の言葉が届くんだろう

聞いていたい言葉はそれじゃないのに

これだけ心はざわついてうるさいのに


早くここから離れたい!!


走った…とにかく走った

自分が何処に向かって走ってるのかなんて知らない

そんなことどうでもいい

ただ聞こえないところへ

見えないところに行かなきゃ

私はまた立ち止まってしまう

 「お前が…お前が俺のこと好きじゃないなんてっ!!ちくしょうっっ!!!」

思いっきり砂を蹴り上げる




一心不乱でここまで来た

だってどうしていいか分からなかった

言われたって答えてあげること出来なかった

 『お前が俺のこと好きじゃないなんてっ』

嘘…そんなの分かってる!!

だけど本当のこと言えなかった

言ってしまったら私の支えていたものがなくなってしまうから

 「っく!!…はぁはぁ」

好きなんて言ったらもうその流れに任せてしまう

きっと彼方君に寄りかかってしまう

それに何度も心の中で叫んでる

今まで言えなかった言葉


 「満春…」


涙で霞んだ目の前の情景が陰る

私は必死にその先を見た

 「あ…――」

心配そうに私を見つめるマコ

 「マ、…マコ」

ポロポロポロポロ…

凛と立っていたものは完全に折れた



 「っっ…ぅう!!!マコォォ―−−!!!!」



私は力の限りマコに抱きついた

 「すき…すきなの。すきすきすき…すきぃ〜っ」

 『お前俺のこと一体どう思ってる?』

決まってるじゃない

私はずっと待ってた

会える日を…

記憶がなくなった後だって

必死に捜してた!!

夢から覚めない暗闇の中で

玄関越しに、電話越しに、6年前も

幼い頃離れたあの場所から

トラックで行ってしまった奏汰君を

ただひたすら…

 「マコッ!!…ぅっ」

言葉になんないほど

言葉では伝わらないほど

この気持ちは募っていく

好き…。



だけどこの想いは頭の中で強く想っては消えていく

その繰り返し

 「うわぁぁぁああ……!!!?」

空しく私の気持ちは涙と一緒に流れていく

激しく辛く噛み合わない私の気持ちと共に


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