45.悲しい別れ(前編)
ついた公園は辺りに人がいなく絶好の場所だった
公園と言っても当たり前な遊具と
あとちょっとしたベンチで何もない
殺風景で静かな小さい公園
緊張している私の心臓がより大きく聞こえる
何を話せばいいのか忘れてしまいそうなこの感じ
心の整理は決まったはずなのに
私は心臓を掴むように胸を抑えた
その時声が前方から聞こえた
「お…いたいた。やっぱもう来てたんだな」
あの日の後ろめたさとかもうその他色々
だけどそれを必死に堪える
今日は正面から向き合うって決めたから
マコと昨日話して自分でも決着つけようって
もう一度強く決心を固める
「………」
嫌な沈黙が走る
何か話さなきゃいけない
それは誰もが思ってること
私の喉は緊張で今にも潰れそうになっていた
彼方君の足元を見るだけで限界
心臓まで潰れそうになる
「はぁ…」
一歩先の方から浅いため息が漏れる
俯き加減からゆっくりと視線を辿っていく
「何あんた達…お互い話しあるから来たんじゃないのここまで。なのにいつまで経ってもそんな調子でいるつもり?」
ため息は号令と言わんばかりに沈黙を破る
「彼方、あんた会いたかったんじゃないのか?…それに満春何か言いたいことがあったんじゃなかったのかよ」
私と彼方君両方に目配せする
だけど私は気付いていた
こんな強気で言うマコの手が微かに震えてること
何も不安になっているのは自分だけじゃないんだ
今まで誰にも言えず一人この光景を見てきた
マコだって怖いんだ
なんで私はこんな事で後ろめたくなってるんだろう
私は言いたいこと
伝えたいことを言わなくちゃ
「マコ…」
これから私の選択が間違っていたって
「ありがとう」
あとで気付いたって
迷っちゃいけないんだ
私は正面から彼方君の瞳を見た
返事をしないマコは眼差しで答えた
「きっと長くなるから、3人分の飲み物買ってきてくれるかな?」
遠回しの合図
きっとマコは分かってくれる
思っていること
私は謝罪の意味も込めて軽く微笑んだ
マコもまた微笑みを返してくれた
「分かった、飲みもんだな?」
一言交わすと静かにその場を後にする
沈黙を私から壊しにかかる
「久しぶり、だね」
「そうだな」
気まずい空気の中
私は視線を少し彼方君からずらして挨拶をする
分かってる見なくたって分かる
難しそうな顔してることくらい
「とりあえず、何から話せば…」
必死に会話をつなごうと心がける
「一つさ、聞いていい?」
次に繋げたのは彼方君だった
「あの時ライブに来たあの日から記憶戻ってたって本当?」
身体が思わず反応した
予測していたこと
誰にも言わなかったけど
速瀬さんなら気付いてしまうことなんて
だけど質問に対しての返答なんて考えていなかった
「ははっ…その感じからして的中ってことかな」
「速瀬さんから聞いたの?」
無言で言葉は返される
彼方君は側にあったベンチに腰掛けた
とりあえず私はゆっくりと歩を進めながら近くへと移動する
周りには人なんていなかった
そんな場所をマコは用意してくれたんだろう
当然の事ながら近くに人がいない方がいいから
軽くあたりを監視するみたいに見渡し
私は彼方君の言葉を待っていた
「なんで?」
随分間があき、そして彼方君の低い声
もう一度聞き返そうと口を開く
余裕もなく繰り返された
「なんで隠したの?」
意味を理解しても返す言葉はすぐには出てこなかった
「あれはそうした方がいいと思ったから。私だって名乗らない方がいいってそう思ったから」
「……」
「私ね…」
言葉は遮られた
「そっか…記憶が戻ったとしても約束は忘れちゃってるって訳か」
「違う…勘違いしないで!!」
思った以上の声に私は驚いた
『「ごめん…!!」』
お互いがお互いに謝ってしまった
『「あれ…」』
そしてまた声が重なってしまう
私は場違いな笑いを浮かべてしまった
「あは…。あはははははは!!!」
腹を抱えて笑っている自分がいる
その隣で
久しぶりに見る彼方君の笑顔があった
意識した訳じゃないのに彼方君と目があった
それだけで顔が熱くなる
それだけで涙か出て来そうになる
こうやって目が合う事なんて
笑いを抑えきれない私は再び笑い出す
「もうやだっ!!…やめようこのテンション」
気合いを入れて頬を軽く叩く
そう、こんな刺々しい言葉の張り合いなんてやめよう
「こんなのさ、私達らしくないよ…正直に行こう?」
彼方君の隣に座る
「包み隠さず話して?私もありのまま話すから…」
目の前に写る彼はすっかり緊張した顔じゃなくなっていた
「じゃぁ…話し戻すけど忘れたんじゃなければどうして隠したり何かしたんだ…?」
さっきの重い感じは消えいつもの話せる状態へと変化していた
沈黙せず宣言したとおりそのまま答える
「夢は覚めたから…」
「私ね、はっきり言って貴方に再会したとき全然思い出さなかった、記憶喪失だったから。色んな目に遭わされたけど、結果的にねよかったと思ってる。そりゃいい事ばかりじゃないけど」
「………」
「記憶なくしてたおかげで貴方を知らないところからスタートできた…ただの有名人『テレビに出てる彼』から…それから何度か会ってどんどん惹かれていってファンになってライブにも何度かスタジオにも行ったよね?」
張りつめていた糸を解くように話す
隣で黙って聞いている彼方君
「だから『幼なじみ』として見てたら分かんなかった…。こんな気持ち…ライブでの感動や街で偶然であった時とか、テレビ越しで見る貴方を見かける時とか…それだけでこんなに幸せになってしまう気持ち」
「………」
「きっと気付かなかった…貴方を一途に思う彼女たちの想い。もしかしたらあの事件が起こらなかったら。それ位いつも奏汰君しかみてなくて…見えてなかった」
「ねぇ…?彼方君」
「…え」
「知ってた?貴方を遠くで眺めるだけで思わず泣いちゃう子とか声だけで元気になる子とか歌で励まされてる子とか…会場に入れなかった子が壁越しに貴方の歌を聞いたりしてるの一緒に歌ったりとか…」
顔を覗き込む
だけどその表情は読み取れはしなかった
「そんな人達を後目に私は約束だけを優先に出来ない」
「……っ」
「再会したことに素直に喜んだりなんかできない…の。」
私の身体が一気に硬直していく
自分が言ってしまった意味とか
だけど私は正直偽善なんだと思う