表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/93

44.マコの想い

さっきから交わす言葉なんてなかった

ただひたすらカップの中を覗いては口へ運ぶの繰り返し

私はというとマコの反応を逐一見つめている

昨日あの後結局話し合う結果となった

まさか次の日…だなんて

心の準備なんてまったく出来てなんていない

何を話せばいいかなんて考えられない

だけど心臓は必要ないくらいに高鳴っていた



都内にある喫茶店

皆それぞれの昼下がりを過ごしている

その中で私達は理不尽ながらも学校を休んでいた

結局泊まっていったマコが言った一言から始まった

 『満春…明日は学校ふけるぞ』

一瞬私は耳を疑った

 『そんな顔じゃ学校なんていけないし…それと彼方と会う約束してるから』

マコの言ってる意味が分からなかった

だが、マコはそんなことお構いなしに言葉を重ねる

 『だから準備しとけよ』

それからさらに次の日現在に至る

ここでひとつ疑問に思うことをぶつけてみた

私はアイスティーを一口飲むと口を開いた

 「あのさ、マコ」

 「ん?」

何もすることなく窓の外を見ていたマコは不意に私に視線を返す

カップをテーブルへと置く

 「あのさ、今日私が行かないっていったら約束どうするつもりだったの?」

マコの瞳はしばらく硬直した

きっとその先の事なんて考えてなかったんだろう

すこし微笑み混じりで答えを返す

 「無理矢理にでも連れてきたかな…?」

平然と語るマコ

わ、私の気持ちはお構いなしですか

ほおずえをついていた手が腕組む動作に変わる

 「だっていつまで暗い顔してる気なんだよ…原因がそれなんだから解決するしかないだろ?満春みたいに納得してない気持ちでただ『時が解決してくれる』なんて甘い話はないよ…何もかもやり尽くしてから時ってもんに頼れよ」

いつものマコらしさにホッする

時々核心につくことをよく言う

空になったグラス

ストローでかき混ぜていた氷は意味もなく回り続けていた

まるで空回りしていた私のように

 「納得してないんだろ…?終わりになってないんだろ?」

私の中で昨日泣いて泣いて泣き止んだ後

妙にすっきりした気持ちになった

潰してたものがなくなって

それがきっと私を正直にさせたんだろうな…

自分の中ではずっとずっと終わってなかったんだって事に

無理矢理押さえ込むことで解決しようとしてたかも

だからはっきりさせないと…

そのために先手打たれたけどマコは私と会う約束をさせたんだ


 「ここまで心配させちゃったけど…私の出した答えにマコは黙って見ていて?」


私が一晩中悩んで出した答え

何一つ嘘なんてついてないと思う

自分の気持ちの奥をさらに奥まで疑いながら問いかけながら出した答え

私の心臓は知らぬうちにいらぬ緊張で張り詰めていた

 「…あぁ、分かった」

それだけ言って頷くマコ

きっとマコなら頷いてくれると思ってた

言い方ずるいと思うけど

 「ありがとう…」

私達だけ周りの世界から取り残された気分

というか昨日の時ほど深刻にマコと話したことはなかった






昨日の話に遡る

マコは私と出会ってからと全てのことを話してくれた

 『ごめんな…満春の事情全て知ってたんだ』

私が泣き止んで少ししたら話してくれた

台所から私が落ち着くようにとコーヒーを両手に持って

 『ありがとう』

持ってきたあったかいコーヒーを両手で覆う

私はすぐに何のことだか直感できた

 『満春が記憶失ってたことも…6年前のことも全部』

 『………』

 『なんか色んな事がありすぎて何から話して良いのか分かんなくなってきたな…』 

罰が悪そうに頭を掻く

私はその仕草に微笑んだ

 『知ってたよ…』

マコが私に視線を向ける

 『何か隠してることがあるんだろうなって事ぐらいは…マコの口から聞きたい』

掌に覆ったカップは温かい

とても安心できた

だから決意もそんなに必要なかった


 『どうして私にここまでしてくれたの?』


そろそろ時期が訪れたんだろう

私は誤魔化さずに質問をした

ずっと私が思ってたこと

あの夜中にマコとお母さんが話してたのを目撃してから

 『あぁ…なんでなんだろうな?…自分でも分かんないかも』

マコはソファーの上であぐらを掻いた

そんなこと気にせずマコの言葉に耳を傾ける


 『お姫様に見えたからかもしれない…』


 『え?…お姫、さま』

瞳を白黒するしかなかった

あまりにも意外な返答に

 『ほら、私ってなりからして男っぽいだろ?…男どもに囲われて育ってきたし言葉も冗談でも女らしいとは言えねーし』

 『………』

 『あ!!…でも勘違いするなよ!!私はちゃんと男が好きだ…!?』

居たたまれないのか落ち着きがない動きを見せる

意味の分からない力こぶに

私は思わずクスッと微笑んだ

 『大丈夫だよ!…そんなこと思ってないから』

 『そういうとこだよ』

 『え?』

 『私の理由』

何が何だか分からなかった

だけど冗談で言ってるわけじゃないって表情見たら分かる

 『男所帯で育った私には満春は新鮮だったんだよ…誰にでも分け隔てなく笑顔を見せる…だけど決して曖昧な笑みとか媚びうる訳じゃなく白黒はっきりとしてるお前が』

はぐらかすことなく真剣に話す

私も自然と照れもせず聞いていた

 『最近のヤツは何を考えているのか分からない時代によぉ…喧嘩して口論してって家庭で繰り返してた私の前に、こんな表情するヤツいたんだなって正直驚いた…そんなお前の周りにはいつも人がいたよ…そしていつの間にか気になっていった』

私は返す言葉がなかった

あまりにも遠いことのように話すマコの瞳に

まるで今の私にはその面影がないような気がして

 『その時だよ…もう一つのお前を発見することになったのはあの電話ボックスの前で会ったときさ』

 『電話ボックス?』

頭に一つに映像が浮かんだ

 『それまではさ…まるでテレビの中のアイドルのように見えてた満春がいきなり自分の世界に近づいてきた様な気がした。ははっ!!人間なんだから落ち込むときもあるのにな』

マコは合間合間にはにかむ

 『でも、笑顔を見せる子が一瞬で消え去りそうな表情が気になってショックで仕方なかった…それから何度もその場に居合わせちゃったりしていつの間にか事情も知っていった』

 『………』

 『それが満春と親友になった理由…簡単に安直言ったけどな!!立派な理由なんだぜ?』

話に一段落つけたのか自分の入れたコーヒーに初めて口を付ける

でも私には分からなかった

どうしてここまで私に親身になってくれるのか

 『でも、私には分からない…それだけでここまでのこと?…あんな回りくどい真似までして』

マコらしくない

 『どうなんだろうな?気分は彼女の弱い部分を見てしまってこいつは一生かけて俺が守っていくと心に誓った熱血男って感じ?』

 『何それ…?』

言ってしまったことに咳払いを一つ入れて誤魔化すマコ

 『まぁ、いいんだ。忘れてくれ。あまりにも放っておけなかった…あれほど待ち続けたのにこんな結末はない。記憶を無くして笑顔も忘れて感情もどっかに置いてきてそれさえも「無事だったからよかった」で忘れようとしている家族に苛立ちを感じた』

拳を握りしめるマコ

 『まるで満春だけが重みを背負い込んでいるようで許せなかったっ…前の満春と違うんだ!どうしてそれを見て見ぬ振りをする!!心の中でそう叫んでやまなかった。生きてさえいれば無事ならそれでいい…よく言う言葉だよ。だけどあれが生きてるって言えるのか』

口調が強くなる

 『あの時障害事件が起こって病院に運ばれたあの日…目を覚ましたお前見て涙が止まらなかった…何を見ても視線さえ動かさないお前に』

 『マコ・・・』

私はマコの身体を抱き寄せた

あまりにもか細い声で話すマコに

 『笑う事さえ分からなくなってたお前に…だけど、周りではそれ以外の話しが交わされてた…事務所関係やマスコミ終いには慰謝料の話それにお前は覚えてないだろうけど大人ってこんななのかなって失望した』

マコは私の袖をきつく握りしめる

 『もっとさもっと…あるじゃん!!大切な話。目の前に!!自分の娘って言うものが、それから悔やんでも悔やみきれなかった!!どうしてあの時強引にでも行くなって言えなかったのか!!』

私の腕を強く叩くマコ



そんなことどうでも良かった

私に消えない記憶があるようにマコにもあったんだ

その怒りに似てる感情がこんなにも私の腕を痛くさせる

心臓を熱くさせる

 『だから思ったんだ…こいつは私が守ってやるって!!』

こんなマコ初めてみた

いつも強気で短気でいつも奈津実と冗談言い合っている裏では

こんなマコが潜んでいたんだって

だけどそんなマコの一部を早くも受け始めてる自分がいる

それは何より私にとって強い味方となった

 


きっと昨日の今日で気まずいんだろう

いつも喋っているその口は閉ざされている

用もなくミルクティーをかき回してる

お互い様だろう…

取り乱してしまったのは

だけど、満春に変なところ見られてしまった

そう感じてるんだろうな

だけど安心してる

いつものマコに戻ってるから

いつもの男気いっぱいのマコだから


 「マコ…ありがとう」


今までのこと全部

いつも親とは違う視点で私を見てくれてたこと

 「な、何だよ…いきなり」

一昨日ははっきりと言えなかったから

 「さぁ?何でしょう…」

私ははっきりと答えなかった

ここで正直に言ったら誤魔化すに決まってる

 「はぁ?分かんないヤツだな・・・」

私は微笑むだけ微笑んどいた

まだ首を傾げるマコに携帯は鳴り出す

マコの携帯からゆったりとした曲が流れ出した

 「電話?」

 「いや、メール」

素早く開くと中身を確認した

私はその間何もすることなくアイスティーに手を伸ばした

 「満春」

飲もうとした私の動きを止める

 「ん?」

 「この店の近くの公園に来てってさ」

そう言いながら文面そのまま私に見せる

誰からのメール?

そんなこと聞かなくても分かった

飲み終えてないコップから手を離しテーブルに置く

 「もう、来てるのかな?」

心臓が勢いよく跳ねた

マコは一口飲んで席を立ち上がる

とりあえず私達は近くの公園に向かうことにした

身体は重みを増していく

だけど私に出来ることといったら

そんな気持ちを無視するしかなかった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ