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43.それでも埋められない隙間

ゆるい坂道の先にそっと覗かせる

夕日も私達が歩く度に見え隠れする

その度眩しさに瞳を細める

私達二人はこの道をダルさにも似た疲労感を感じながら

玄関までたどり着いた

 「あーぁ!!来週からテストか…」

部屋にたどり着いた途端ベットに横たわる

誰のベットだが気にもとめずに

前もベットへ一直線だっだけどお決まりなのか

後から入ってきた私は静かにドアを閉めた

 「テスト…ガンバんなきゃなぁ〜あぁ〜っ」

欠伸しながら気合いを入れる

 「言ってることとやってることがかみ合ってないんじゃない?」

思わず突っ込みを入れてしまう

分が悪そうに笑うと仰向けにひっくり返る

 「だぁーって!!やる気ないんだもん…学校は友達と会うためにあるんだから」

どこの小学生の意見???

口調も気のせいか幼く感じる

 「だったらここに来た意味ないじゃん…帰る?」

私はわざといたずらな言葉を選んだ

その瞬間マコは跳ね起きた

 「いやだ!!?頑張るっっ!!」

ますます幼い子供に見えた気がした

そのことをとやかくは言わないけど…怒るから

気付かれない程度に微笑むと

私はマコに背を向ける

 「じゃぁ私、何か飲み物取ってくるね!!ちゃんと準備して置いてよ!!」

カバンを指差し忠告をするとドアを閉めた



階段をリズムよく下り冷蔵庫を開けた

何を思ったのか取らず静かに冷蔵庫を閉めた

 「はぁ〜…」

私の知らないうちにため息が漏れる

フッとテーブルに置きっぱなしの携帯に目が止まる

わざと視線から外した

あまり考えたくなかったから

だけど拒否すれば拒否するほど気になる

一つの事が気になれば全部気になる

そんな自分自身に気付き

思いっきり首を左右へと振った

振りすぎて頭がくらっとする程振った



振ったからって何もかも忘れるわけじゃない


………。


昨日あれからマコ教室に何食わぬ顔で戻ってきた

どうして彼方君は来たんだろう

私が電話を受けないから?避けてるから?

そんなに何か話したいことがあったのかな?

だけど今も尚彼方君の中では記憶の戻っていない私のはずで

しかもそれはちゃんと私の口から否定した


…嘘がばれた…とか

ドクンッッ!!


その考えにたどり着いた途端

心臓は急激に高鳴りだした

私、今…

今、ばれてしまってたらいいって思ってた

そしたら素直に言える気がするって

ありのままで彼方君と向き合える…

だけどそれは望まれない結果

手を伸ばして望んじゃいけない結論

私の瞳の中には今も忘れられないくらい焼き付いている



あの歓声の中必死に彼方君を呼ぶ声

誰よりも自分に気付いて欲しい…

言葉に出来なくて泣いてしまってた隣の席の子

ただただ感動で打ち震えてる人

抱き合って彼方君との出会いに喜んでる人

わざわざ遠いところからライブのために来た人

入れなくても外から耳を当ててた女子高生の子

みんながみんなたくさんの人達が

たった一人の『彼方』を愛してる

あの動員数も、あの歓声も、

全てが『彼方』が好きだから


分かってる

再会してからも、あの幼い頃も

ずっと応援してきてたから

そして、私もその『ファン』の一員なんだから


だけど記憶を取りもどしても…

記憶が戻る前と何も変わらない

何も変わらない…変わらないんだ

そう実感した途端空っぽになる

空白の自分に気付いてしまった




思い出さなきゃ良かった

もう一度出逢わなきゃ良かった

こんな自分に気付かなきゃ良かった



……あんな約束しなきゃ良かった……




そんな訳ない

もう一度逢えてよかった

離れててもいい…遠くからでも奏汰君を見れるなら

あの過去の事まで後悔してはいけない

必死に築き上げてくれた奏汰君

私達は会えなくても会えてよかったんだ



どっちつかずの正反対の気持ちに

心が翻弄される…

不意に手に水滴が零れたのに気付く

冷蔵庫の扉が反射して鏡みたいに映る

自分の涙に気付くと押さえがきかなくなったかのように

止めどなく涙が次々とこぼれ落ちる

もう私の意思では止められなかった



心が訴えてる

気持ちがそう叫んでる

それを押さえつけるのに拳を握りしめる

心臓がペチャンコになりそうな感じ

その反動で涙は床へと流れ落ちる

 「…くっ!」

たくさん愛してる人達がいる

そんな彼女たちを無視なんて出来ない

これは無責任な約束を交わした私達の罰

だけど私は・・・!!

 「…満、春?」

階段から顔を覗かせるマコ

思わず硬直した

この顔ではどうしても振りかる事は出来ない

知らないマコは階段を下りてこようとする

私は思わず声を大にしていった

 「も、もうちょっとだから!!」

話す言葉は涙声

 「…え?」

マコのトーンが微妙に変化した

勘が鋭いマコ

私の声の変化に気付くことくらい

だけどこんな私をマコには見せたくない

心配させたぶん笑っていたいから

マコの前では…。

 「だ…から上で待…ってて?」

可能性があるのであればこのまま黙っていて欲しい

私は驚いて硬直したままでいた

マコの足が動く音がする



内心ほっとした

 「なぁ…満春」

遠ざかると思っていた足音が急激に近づく

安心した分心臓が大きく跳ねた

私の肩にマコの手が差し伸べられる

一気に拒否信号が体内を走った


 「上行っててって言ったでしょ!!!?」


私は顔を見ずにマコの手を振り払う

ハッと我に返る

焦った私は怒鳴ってしまっていた

戸惑いの中見たマコは…

私の知らないマコだった


 「…何だよ…それ」


何も言い返せなかった

どうしてそんなことを言ったのか分からなかった

 「意味分かんないんだけど…」

呆れ吐き捨てる様な言葉

自分の髪をかきむしる

行き場のない衝動を何処に向かわせるでもなく

自分の身体に押し込める

そんなマコの一つ一つの仕草が私の肌に突き刺さる

心臓が底のない沼に落ちてく

どんどん重くなっていく

 「こっちはさ…心配で心配で聞けないくらい気をもんでたのに」

 「あ…」

 「何も分かってないと思うな!!笑顔戻ったって愛想笑いばかりじゃないか!!!?それが昔のお前か?…馬鹿すんのも大概にしろっ!!いつでもどこでも気持ちのない顔しやがって…っ」

マコは私に身振り手振り怒りをぶつけてくる

こんなマコ初めて見た気がする

 「わ、私は…」

 「マコのためにってか!!…なんで私のために無理して笑顔になる必要がある?!…記憶が戻れば不安な事だって戸惑うことだっていっぱい出てくる。悩んでるなら悩んでるって…迷ってるなら迷ってるって言ってくれよ…これじゃただの木偶の坊じゃないかぁ〜」

マコの声が段々弱くなっていく



 「私にどうしろっていうんだよ…」

どんなに私の行動がマコに影響していたのか手に取るように分かる

少し沈黙が続いて冷静になったのか

私の頭をポンポンと叩くマコの手が優しかった

ずっと背けていたマコの顔が久しぶりに視界に入ってきた

 「なにも、記憶が戻れば満足って訳じゃないんだ…こっち的には」

いつも奈津実とはしゃいで騒ぎちらかしてるマコ

だけど今日はお姉さんに見える

これもマコの顔の一部なんだろうな

 「何でもフォローするし助けてやる…」

 「…ご、ごめんね。マコ」

私一人勘違いしてて

 「ホントに…」

涙がまた流れないように必死に堪えながら

言葉をつないでいく

 「酷いこといって…」

軽く笑顔もマコが視界に現れる

不安な分だけ涙は正直だった

 「まぁなんだ、話聞く前にその胸にあるしこり流しちゃった方がいいんじゃねの?今まで泣けなかった分」


…待っててやるから

そうは言わない


不器用なマコのことだから

優しい言葉なんてかけないんだ

とても優しいけど言葉足らずで…だけど逞しい

私の緊張の糸は完全に切れた

無我夢中にマコの袖を掴み泣くことしかできなかった

それをただジッと背中を撫でながら見ていたマコ

もうこれ以上は分からなくなっていた

そして後から聞いた

マコが昨日彼方君と相談したことも

私に会わせる約束も交わしていたことも…

ビックリはしたが後は何も

まるでそれを必然と予感していたかのように 

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