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42.一番の理解者

もう夕方になる

今日の授業は終わり、下校時間になる頃

生徒は早々と教室を出ていき

残った生徒は授業と一転し、しゃべり場となっている

いつもと変わりのない中

校門出口のあたりで数人の生徒が騒いでいた

それはある人物へと視線は注がれている

全身黒い服装をした人物に…




私は帰り支度をしていた

まぁ、大抵これから寄り道って言うのがマコのお帰りコースなんだけど

まだ空っぽのカバンを机の上に乗せる

明日必要なものといらないものと分けていた

そんな私をマコはただひたすら眺めていた

 「マコは帰らないの…?」

軽く微笑んで質問する

けど、マコの返答は沈黙となっていた

 「…マコ?マコってば!!」

マコの身体を揺する手が掴まれる

食い入るような目で凝視していた

 「ど、どうしたの…マコ」

 「まだ…」

戸惑う私の耳にマコのささやく声は聞えなかった

もう一度問い返そうと口を開く

 「まだ…私には話してくれないのか?」

突然な物言いに私の身体が固まる

いきなりだけど分からないほど馬鹿じゃない

 「えっ―」

何を意味しているのか知らない振りは出来なかった

そこまで鈍感じゃない

ひらすら言葉が詰まる

ただ真剣に瞳を見つめてくる

その瞳から逃げることももう許されてないような

 「無理、なのか?あぁ…いや忘れてくれっ」

気がしたが簡単にマコは折れた

その時いきなり校舎内にどよめきが走った

気付けばみんなが窓の外を食い入るように見ている

何が起きたのか一瞬で分からない

そう困惑した頭の中に衝撃音が舞い降りた



それはドアを激しく開けた音

 「ねぇ…!!?校門のとこに彼方が来てるってよ!!」

現れたのは奈津実だった

帰ったはずなのに

彼方のことに関しては鼻が利くというのか

匂いをかぎ分けているのだろうか

だが、関心をしている暇のなく

今の状況が把握できない自分に必死になっていた



………か、なたくん?

彼方?かなたって!!

今、奈津美…彼方君って言った!!?



 「は…ぅ!!やっぱり私に会いに来て下さったのね!!会えない分辛さが募ってこんなところまで…い、今貴方の奈津実がお側に行きます!!待っててくだ…ぐほぉぉぉおお!!!?」

マコは一目散に教室を飛び出す

奈津実は思いっきりはねとばされた

続いて教室でしゃべっていた運がいい生徒も

奈津美は元からいなかったかのように

体当たりして出て行く



 「なんで……」



戸惑いですくんでしまっている足は言うことを聞かない

教室から動けないでいた

力をなくした腰はカクンと椅子に着地した




マコが走っていった先に

蜜に群がる蜂のような生徒が溢れ返っていた

目の前には目的の本人が見えないほどの人だかり

騒ぎなんてものじゃない…

キャーと言えば駆けつけるし

人が集まっていればまた人が寄って来るもの

興味本位で集まる人も含め

学校に関係のない人まで紛れ込んでいた


 「……!!」


マコは一瞬唖然とした表情になった

だがすぐに正気を取り戻し

周りを見渡し小さな石ころを拾い

彼方の足にめがけて放り投げる

足元に当たった石には気づかない

再度石を拾い今度は少し強めに背中へと投げる

運良く他の人には当たらず

彼方は腰の当たる違和感に反応した 

人混みをかき分けるようにあたりを見渡す

幸い囲んでいる生徒は女ばかり

身長の高い彼方は容易にマコのことを見つけることが出来た

だが、マコは用心のため木の陰から顔と手だけを出す

ここで彼方と接点があると分かれば取り返しのつかないことになる

他の人には見えないように

彼方に『来い』とジェスチャーを送る

と、言っても皆目の前の彼に夢中なのだか…

察知した彼方は適当に笑顔を見せながら校門から外に出る

その後をマコは裏門から追う



ちょっと離れたところにマコを捜しているであろう

彼方が右左と行ったり来たりしていた

 「こっちだよ…」

小声で誘導する

彼方は多少の安堵を見せた

 「あんたが学校なんかに来るから大騒ぎだよ。あっ、人だかりはやんだ訳じゃねーんだ。ここの中で話しようぜ?」

と、言い終わらないうちにマコは奥へと入っていく

彼方はその後を追う

その先には狭いがちょっとした広場がある

そこでマコは立ち止まった

途端振り返り怒りをぶちまけた

 「なんで学校になんか来たんだ!!…あんな風になるって予想つかなかったのかよ!!…満春に会いたければ他に方法があるだろう!?こっちの迷惑考えなかったのかよ」

怒りをあらわにするマコ

 「…それでも俺は満春に会いたかったんだよ。もう一度あって話しがしたかった」

 「そんなこと関係ないんだよ!!?何があったのか知らないけど最悪の事態考えなかったのか?…・何も知らずにあそこで満春が登場して見ろ!!どんな態度をとってたんだ!!ところ構わず近づいてたんじゃないのか?!」

彼方は言葉を返せなくなる

それはマコの言っていることが正しいことだから

表情で読みとったマコだが怒りを止めることが出来ない

 「少しは周りのことを見ろ!!…満春の立場を考えてやってくれ。あんたは平気かもしれないでもこっちは一般人なんだ!!」

彼方はますます押し黙る

脳裏にはつい最近口論した速瀬の言葉が甦っていく

それと同じ事をマコは言っていた

前よりも拍車をかけて彼方にのしかかる

 「…ごめん」

それしか言えなかった

言えるわけがなかった

そんな彼方から目を反らし林の奥へと視線を走らせる

 「いや、こっちこそ大声張り上げて悪かったな。悪気はなかったのは分かってるんだけどな」

分が悪そうにマコは頬を掻いた

 「んで、何で満春と何があったんだ…?」

単刀直入に質問する

彼方は不思議そうな顔をする

 「君は聞いてないのか?満、彼女から…」

 「何も、全然。何かあったのは察しがついたけど」

軽く左右に首を振る

彼方は途端に無言になった

 「あ、ならいいんだ…気にしないでくれ」

マコに向けて微笑むと出口へと足を進める

おもむろに彼方は背を向けた

 「ちょっと待って!!」

マコの声が林中に響きわたる

 「気になるっつーの!」

ぐいっと彼方の袖を思いっきり掴み留まらせる

馬鹿正直なマコはストレートに突っ込んだ

回りくどいことは嫌い

 「遠回しなことは嫌い…気になることは片っ端から突っ込む!!可能な限り、とにかく気持ちの向くがままに」

何を言い出すのかと戸惑う彼方

ただただ呆然と聞くことしかできない

 「それが吉と出でても凶とでても…これ私のモットーなんだわぁ」

帰ろうとする足をマコに向ける

 「だけど満春目の前にすると、らしくない…いろんなあいつ今まで見てきたから考えてしまうんだ。だからどうしても切り出せない。放っておいても言うヤツじゃないって分かってても…」

ゆっくりとマコに近づく

 「本当は役に立ちたいんだ…親友として一番の理解者でいたい。だから彼方あんたに聞いてもいいか?」

苦笑いしながら話していたマコだが

改めて彼方へとむき直す


 「…何があったのか」


満春から少しは聞いてるマコの存在

いつも負けん気強くて、お調子者で…素直

初めて彼女と話したときも

この子は『満春』のことになると真剣なんだ

そう、直球と言ったのに今の言い方も遠回しなのも気付かないくらい

真剣なほどに慎重なんだ

彼方は思わず苦笑した


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