40.たった一本の線
今日は学校が休みの日曜日
しかも明日明後日も休み
いわゆる三連休
明日は祝日明後日はうちの創立記念日
だけど世間では二連休となる
それに伴ってか街は予想以上に溢れ返っていた
もうすぐ季節の変わり目だしお店の戦略と言っていい
この2連休…稼ぎ時だ
私はともかく知ってか知らずか相手の戦法にどっぷりはまっている
マコなんてその波に負けまいと必死に
行き当たりばったりのお店を網羅していた
「なんだよ…みんな考えることは同じってかぁ!!」
呆れ返るマコの私は隣で笑っていた
9月をさしていた
軌道に乗り遅れた個人店やラストスパートをかけるデパートは
ますますの格安セールを行っている
それを狙ってそれと重なっての二連休
マコもそれは重々承知な訳だ
私の隣で荷物を下ろしぐったりと座り込むマコ
「もう挫けちゃいそう…」
珍しくしおらしいマコだと思ったけど
甘かった…泣き真似
「そんなこと言っても売れ残りが増えるだけだよ…嫌なんでしょ?」
私は苦笑しながらマコの肩を慰めるように叩く
ますます肩を落とすマコ
「それに、今回バイト代少ないからって服はこの連休にかけるって言ってたのマコじゃない…」
その考えの人がこの人混みの中でどれだけいるのやら
「そうだよな!!…ここで落ち込んでたらマコの名がすたるぜぃ!!」
どこの江戸っ子だろう
勢いよく膝に力を入れ立ち上がる
こういうところは奈津実そっくりだとマコは嫌がるけどそう思う
「荷物、持ってあげるからさっ!」
私はそう言ってマコの置いた荷物を持つ
先にとことこと歩く
「なっ…ちょっといいって自分のものなんだから自分で持つよ!!」
後ろから追いかけてくるマコへと振り返る
「これからまだ多くなる予定なんだから一人で持つより2人で持った方がいいでしょ?」
冗談めいた口調で笑う
マコはそんな私につられたのか苦笑しながら隣へつく
「あれ…満春もしかして携帯なってる?」
マコの視線は私のカバンへと向けられる
間違いなくカバンから音は鳴り響いていた
だけど知らない振りして私は隣のデパートへと
少し歩く足を速めに移動させる
「?満春、出なくて良いのか…?」
マコは不思議そうに顔を覗き込む
それに気付いた私は軽く微笑んだ
「これ、メール音だから平気!だから行こう!!」
荷物を胸に抱えると走った
あれから何ヶ月経ったかな…?
2.3ヶ月位経つのかな
考えないようにしてるけど
決まって考えてしまうときがある
私はマコがいない間に携帯を開いた
『着信アリ…彼方』
あれから随分経つのに収まらない
この電話で気付かされてしまう
医務室で久々に彼方君に会ったことも
街中でぶつかったことも
一緒に喫茶店行ったことも…スタジオ案内されたことも
夢じゃない…
自分がまだ忘れられてないことさえも
私はどうすればいいの
どうしたらいいのか分からない
きっとこの電話に出ることさえ私達の運命を変えてしまう
一歩彼方君に歩み寄ることが多分重大な意味がある
この電話も取っていいのかさえ分からない
あの時の気持ちがまた甦ってしまう様な気がして
ライブの時の別れ際
私は何度も伝えたかった
伝えるために行ったライブ
『満春です』って改めて言いたかった
それが抑えきれなくなりそうで怖い
携帯の画面をもう一度よく見つめる
その時着信音が鳴った
ブルブルブル〜〜〜ッブルブルブル〜〜〜ッ
ビックリして携帯を地面に落としそうになるのを必死で抑える
軽快に鳴り続ける携帯に視線を向ける
『着信 彼方』
心臓は大きく跳ねた
ドクン…ドクンッ
固まったかのように私は動けなくなる
そしてまた同じ事を繰り返す
この短い間にあっという間に思考の迷路に迷い込む
思いっきり目を閉じた
携帯を胸に強く握りしめる
携帯の振動が私の心臓と重なる
嫌に心臓がバクバクしている
取っちゃ駄目だ…見ちゃ駄目
決心が揺らぐ
ここさえ我慢すればこの時さえ我慢すれば
一種の呪文のように自分に語りかける
着信が鳴り終わると私は力が抜けたか様に携帯を地面に落とす
一気に力が抜けた
顔を手の平で覆う
もう、泣きたくなんかない…
「おいっ…満春、大丈夫か!!」
落とした携帯を拾い上げる
「あっ…マコ。いつの間に戻ってきたんだ」
安堵のため息をもらしマコに笑いかける
「あ、ついさっきだけど具合悪いのか?」
「だいじょうぶ大丈夫!!…この人込みで目が回っちゃって」
渡してくる携帯を受け取る
マコはまだ心配そうな顔で顔色をうかがってくる
「大丈夫だって言ってるでしょ?…ほら元気なんだって!!」
私はガッツポーズをして微笑む
それを見てマコは肩をなで下ろした
「…ならいいんだけどよ。焦った…正直」
「ごめんごめん心配かけて」
前より笑えるようになった
前より話せるようになった
今がすごく楽しい
記憶が戻って私が戻ってきてよかった
だからいつか忘れられる
いつかこの電話もならなくなって…普通の生活に戻って
…戻ってしまうのかな…。
心の奥でこの繋がりだけは消さないで欲しいって思ってる
電話を掛けているこの瞬間だけは彼方君は私と繋がっている
想ってくれている…
苦しい…辛いけどいつまでも鳴っていて欲しい
首を左右に大きく振ると
私はそっとバッグに携帯をしまいマコを見て微笑んだ