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38.決意の涙

私の周りでガヤガヤと音が聞こえる

時計の音 椅子を引く音 カバンを置く音

負けないくらいの声で話してる人もいる

甲高い声 笑い声 怒鳴り声

それが慌しい朝の教室を演出していた



私にとってこの光景は久々だった

気が付いたら目が腫れ

それもあるけど…気持ちの整理がしたかった

誰にも会いたくなかった…

とにかく考える時間が欲しくて

だから何日か休んでしまった

まだきちんと整理が出来たわけじゃない


いつも気にならなかったはずの教室

ただこの場所に来てこの場にいれさえすればいいはずだった所

何もかも見えるものが違ってみえる


心の整理がつかないままな

余計なものまで一気に流れ込んでくる

変わる景色や人の表情や感情の流れ

何も吹っ切れてないけど

目をそむけていたモノが否応ナシに視界に入る

 「………」

まだマコは来ていなかった

いつも遅刻ぎりぎりなのがマコ流

フッと窓の外を見た

彼方君のことが脳裏に浮かぶ 

 「………。」

傷つけてしまった

知らない振りをしてしまった

速瀬さんがまた何か言ったとかそんなんじゃない

私が言ってしまった言葉自体に

でもこれで良かったんだよね…

あの日から同じ事を自分に問いただしてる

何を話したのかあまり憶えてない

無我夢中で言葉にしていた

そこに気持ちなんて入れたら…どうにかなってた

何も考えなくていいって言うのなら間違いなく飛び込んでた

彼方君の顔が瞳から離れない

机へと顔をうつぶせる

いつの間にかマコは自分の席である前の席に座ってる



頭が上手く働かない…

気が付くと時間は昼時を知らせていた

私の中の4時間は無意識のうちに過ぎていった

今何の授業だったのかさえ分からない

周りのクラスメートは解放されたという表情をしてる

まるで私一人取り残されたような感じ

思いにふけっていると眠気眼のマコが顔を寄せてきた

 「今日一日ボーっとしてるな…」

マコは心配そうに私の顔を見つめる

おでこのうつ伏せた後が気になった

視線を逸らすように私はお昼の支度をする

 「…そう?」

身支度をしながら愛想笑いを浮かべる

 「なんかあった…?」

お弁当を広げる手が止まる



何で分かるんだろう…

いつも思う

あまり感情を表に出さない私の心の内がマコにはバレてしまう

マコは他の人とは違う

 「なんかあったんでしょ?」

再度言葉を繰り返してくる

息が詰まって何もしゃべれなくなる

 「別に何もないよ」

私はそれだけ言うとなるべく笑うように心がけた

マコは複雑な表情を浮かべた

なるべく下を向いてマコの顔が見えないようにお弁当を食べ始める

じゃないと場が続かない



どうしてボーっとしているのとか…

何でここ何日か休んでたのとか

…最近、彼方君とはどうなのとか…

休んでる間色々と考えてた

この前の事件だけじゃない

彼方君と出会った頃とか一緒に遊んだ時のコトとか

6年前の出来事とか記憶がなくなった時とか

この間6年ぶりに彼方君と再会した時とか

ここまでうまい話はない

『また偶然会って』とか出来過ぎてる

私の記憶の中にはないけど

うちにマコが泊まったあの夜

…当時を知ってる

記憶の断片がなかったこと

それが6年前の事件が原因だってことも

『仲宮 奏汰』

彼方君つながっていることも

全てマコの不審な行動に結びつく

ライブを誘ったのは偶然じゃない

何で今まで興味なかった音楽の話を持ちかけたのか

家に泊まったときの夜の会話

何よりも無口な私の面白みのない私を気に掛けて

全て知ってるのに面倒な私とここまでつき合ってくれた

時折見せる真剣な表情とか悲しげな表情

こんな事も言ってた


 『満春を昔の笑顔に戻してあげたい…』


ドアの向こう側聞こえた声

啖呵を切っていたマコ

あの時は意味が分からなかったけど

今なら分かる

その言葉だけで十分だった

今でも心に染みわたっていく

それだけでこれから生きていけるって言ったら大げさだけど

昔の自分に戻れる…

笑顔になれる気がした

 「そうか…何かあったら遠慮なく言えよ?相談乗っから」

上の空の私にそう話かける

きっと感づいてる

私が元気がない理由

だけどそれ以上はマコは踏み込んでこない

話さない限り気付かない振りをする

それがマコの優しさ

知らないうちに何度私はこの優しさに救われたのかな?

涙がまたこみ上げてくる

これは元気になるための最後の涙

 「み…はる?」

不意にマコは持っている箸を床に落とす

そして慌てて私の側へと駆け寄ってきた


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