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35.思わぬ再来

アンコールも終わりを告げ会場が騒がしくなる

いろんな服装をした人達が私の側を通り過ぎる

シンと静まり返ったさっきまでとは逆にお祭り騒ぎみたいになっていく

それからどれ位経つんだろう



素直な考えが体を動かした

単純に彼方君に会いたいって思って…

今日一日色んなところを捜したから

今の私の思考はそれだけで何よりも勝る

捜した分だけ歩き回った分だけ想いが募る

単純思考っぷりに我ながら笑える

その前向きな思考が何よりも身体を動かす

だけど、この状況じゃ裏から入りたくても入れない

右見ても左見ても警官だか警備員だか配置されてる

無断で入るのは良くないって分かってるけど

彼方君にさえ会えれば誤解は解けるって思ったのに…

会う前にこれじゃねぇ〜

 「…ふぅ」

目にした座れそうな柵に腰を落とす

もう少し収まってから行こう

今動くと生きて帰れない



こんな何人もの人があの建物に入ってたんだ

この何千何万の人がたった一つものを求めに

そしてこの会場で会ったこともない同士が心を通わせる

みんないい顔してる

顔は見えないけど空気がそう伝えてる



そしてみんな同じ想いで帰って行くんだ



たった1回だけど共有出来るとは思わなかった

それが彼方君がやっている仕事

紛れもない奏汰君なんだ…

心なしか嬉しくもそして寂しくも感じた

願っていたはずなのに

 「………。」

だんだん人並みは途切れていく

普段通りといえる街が見え始める

この静けさがやっと今は夜なんだって気になってくる

一時それさえ忘れてしまいそうな賑やかさだったから

 「行ってみるか!!」

再度決心を固めて腰を上げると同時に

目の前に2,3人の柄の悪い人達が立ちはだかる

 「あんた…桐谷満春って子?」

 「え?…」

言葉も出ないほどの迫力に圧倒される

取り囲んでいる人達は何処か他の人とは違っていた

私に刻まれた記憶の中である信号を確実なものにする

ずきんっ!!!

頭に電流のような激痛が走った

黙っていらえなくなりそうな痛み

脳裏で走馬燈のように6年前が思い出される


 『…あんた桐谷満春だろ…』


・・・一体誰の声・・・?


 『…っせ!!?放せって言ってんだろ!!』


い、いや…だ、誰の声っ!?

怖い…いやだいやだ

この声聴いたことがある


 『こいつさえいなければ!!…こいつさえいなければぁぁあっぁぁ!!!?』


目の前が真っ白になる

…あぁ、ぁあぁ…いやだ

いや、思い出したくない!!?

思い出したくない思い出したくないっっっ!!!!

 

 「あがっ…っつ!!痛っ…」


顔を引きつらせ血の気が引いていた

寒くないのに歯ががたがたと震える


 「だだだっ、誰か…」


本能一つで後ずさりする

…この人たち、嫌な記憶をつれてくる

 「ちょっとこっちに来てもらえる…話したいことがあるんだけど」

違う…おかしい

私を睨みニヤニヤしながら話しかけてくる

 「はぁはぁはぁ…助けて」

走ってもないのに息切れが起きる

 「あ、たまが痛いっっ…」

そんなことお構いなしに話を続ける

 「…っいいからちょっと顔貸せよ!!!!」

無防備だった腕を掴まれる  

いきなりの凶変ぶりに私の身体は容赦なく震えを増す

 「…い、いややめて」

身体に力が入らない

振り払いたいのに振り払えない

逃げたいのに足は動こうともしない…

同じ事を経験したことがある




 「いやぁぁぁぁああああああ!!!!!!…誰か!!」



やっとまともに出た声は声にならなかった

誰もいなくなった会場が私の声だけに素直に反応する

私の声は会場につき抜け私に反響して返ってきた

それは誰も来てくれない事を意味していた






  

電話のつながらない携帯を片手に彼方はジュースを飲んでいた

気を利かせて寄ってくるスタッフと飲んでも気分は乗らない

 「最後のあの締めは良かったよなぁ…俺、スタッフだったけど泣きそうになったもんな…感動するようなことやってくれたな!!彼方」

 「…あ?、あ、あぁ…ハハハッ」

誤魔化し笑いをしながら携帯を取り出す

着信は0件だった

彼方は思わず不安な顔色になる

 「…どうした?」

 「あ、いや…俺、ちょっと外出てくるわ」

軽く愛想笑いをすると輪の中を抜け出した

他の楽しんでいるスタッフの邪魔にならないようにドアを静かに閉める

そして携帯を取りだしリダイヤルを押す

 「………。」

またリダイヤルを押す

 「くそ!…なんで出ないんだよ。こんなに掛けてんのに!!」

不安があふれ出す

 「昨日今日連絡の一つもないなんて…」

これじゃまるで…



まるで…6年前みたいだ



そう言いたい気持ちを無理矢理喉に押し込んだ

 「なんで掛け直してこないんだ」

 「…っく!!」

だけどあの瞳は思い出したっていう表情だ

歌い終わった俺から瞳を逸らさず泣き続けた俺は見てた

嫌な予感だけが彼方の身体を震わせる



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