表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/93

33.会いたい

翌朝、私は学校をサボってしまった

気付いたときには自分の家に帰っていて

目が覚めたときには無性に会いたくなった

ひたすら会いたいって気持ちを抑えられなくなって

昨日のことは夢じゃないと感じるために

今すぐ会いたい…

私は多分不安なんだろう

またすぐ消え去りそうで

明日になれば無愛想な無関心なつまらない私に戻っていそうで

…でも自分でも分かる

これが正真正銘『満春』なんだって

カーテンを開ける日差しが差し込んだ

目は腫れ上がっているけど

気持ちは十分に晴れ上がっている

落ち着かない本性の私は気付けば外に出ていた

やっぱり昨日の今日で学校もサボちゃったし

もっと重要な記憶を残したまま

浮き足立つ私には思いつかなかった



今電車に乗り込んだ

確か彼方君の事務所はまだ先かな?

どんどん速度を増していく電車のドアに身体を預ける

昨日と見ている景色が全然違うって思える

どこか光かかったような世界、楽園って言ったら可笑しいけど

あれだけ泣いたから気分もすっきりしてるし

こんな私は方向転換が早い人だったんだ

 「…あ」

そうだ…いきなり事務所行ったら迷惑だよね

彼方君に電話入れとかないと



いきなりってこと自体大迷惑???

記憶戻ったからって馴れ馴れしく行っていいべきかどうか

ごちゃごちゃ考えるより当たって砕ける

砕けるだって…覚悟決まってるし



その前に…

 「あ、しまった…」

携帯、昨日のバックの中

気が付かないまま寝てしまったらしい

一心不乱だったから携帯出してないことも覚えてない

もう電車は何駅か通過してしまっていた

重くため息を吐き出す

 「はぁ…仕方ない」

自分のせいとはいえ認めたくない


電車から行き交う人が見える

普段慣れているスピードで線路の上を走っていく

窓から見える人は途絶えることはない

すれ違う人ほんの一握り

極限られた人としか向き合えない

『出会い』それが奇跡いうならば

昨日思い出した記憶

あれはどれくらいに値する奇跡なんだろう…

リアルじゃない…当たり前だ

人間簡単に忘れて好きに思い出せる訳じゃない

一生に一度あるかないかの奇跡に感謝さえしたい気がする



 「…?」

気のせいか心が締め付けられる感じがした

この時、身体だけは感じてしまったのだろう

私達がしてしまった過ちを後、後悔することになる







 「あ、いないんですか…?」

声のトーンが下がる

ビル街に立つ一際立派な建物

目が奪われるほどの防犯体勢

きっと埃一つ落ちてないだろう社内

全てに置いて一流企業並

ここは本当に芸能事務所なのかと思わず考えてしまう

何か事件が起きてからじゃ遅い!!

そんな理論がこの事務所から感じる

さすがにこんな緊張感漂う場所に踏み入れられず佇んでいた私

どうしようか迷っていたところに

前、彼方君が一回連れていってくれた撮影にいたスタッフが目に入って

今の状況に至る

 「あ、すみません今、彼方君…」

相変わらずのトーンで話しかける

 「その類の情報は教えちゃいけないことになっているんだ…いくら知り合いと言っても、ごめんね」

いきなりのストップがかかる

言い終わる前に言葉を遮られ

スタッフの人は頭を掻きながら軽くお辞儀をする

起きてからじゃ遅い…

やっぱりあれがモットー会社なのか

知り合いさえもお断りなんて…

気持ちを入れ替えるしかなかった

 「分かりました。ありがとうございます…」

スタッフを後目に歩き出す

ますますな声のトーンに少し目尻も下がっている

普通だったらきっと優しい人なんだろう

だから引き下がるしかない

それでも無理にお腹に力を入れ尚かつ気合いも入れる

私の頭の中はフル活動していた

この6年間で相当蜘蛛の巣が張っているのだろうか

動き出すのに時間がかかる

今の彼方君が行きそうなところ

それは仕事場?振り出しに戻る

 「はぁ…」

事務所を離れ大通りへと出ていた



突然ガヤガヤと騒ぎ出す街の活気から

切ないメロディーが耳元にやんわりと入ってくる

 「あ、この曲」

彼方君の曲だ


…奏汰くん


私が記憶なくなっている間もずっと

歌い続けてたんだ

6年前のあの日会えなかったのに…

何を思って今までうたってたんだろう

知っていることなのに有線越しに実感が湧いてくる

昨日聞いた曲と今日聞いた曲

伝わり方が全然違う

記憶のない私が側にいて辛かったはずなのに

脳裏の奥に閉まった記憶がうずく

さっきから奥底でまだ知らない疑問が疼く

 「ふぅ・・・」

余計なことを考えるのはもうやめよう



あれから思い当たる場所をとにかく探した

彼方君がファンに追われてたあの通り

その後行ったごくごく普通の喫茶店

撮影の合間、待ち合わせした駅前

…捜してて思った

これじゃ、彼方君がいるところじゃなくて

彼方君と行ったところだ…

そんなんじゃ探せるわけない

のに…何も他に思いつかない

私は今の彼方君の何を知っているっていうんだろう

記憶は取り戻せたけど

これじゃ記憶がないのと同じ

 

携帯…何で忘れたんだろう

バックの中の空洞に苛立ちを感じる

足の矛先は昨日の会場へと向かっていた

そこでは昨日使った機材を片付けているスタッフ

何人位いるのか分からないけど大人数で運んでいる

そうだよね…昨日ライブやったんだから

ここはもぬけの殻って決まっている

いたら不思議だよ



近くのベンチに座りこむ

 「一体、なにしてんだろう」

ただ会いたいからって会える相手じゃない

分かってなかった…

今は奏汰君じゃなくて『彼方』君なんだ…

精根尽きて独り言を呟く始末

だってもう何も思いつかないから

今の気持ちは『遠い存在』な彼

下手したらハードなスケジュールだもん

撮影とかいって海外にいちゃってるかもしんない

それが出来ちゃうのが今の彼方君

自然と肩が落ちていく

今まで夢心地だったはずなのが現実に引き戻されたみたい

昨日までの私が『夢』

今日からの私は『現実』

本当はどっちだったんだろ

一体どっちが良かったかさえ分かんなくなってくる

 「…なぁ?社長もやるよな!!」

休憩なのかスタッフの人がやってくる

目当てはベンチの隣に位置する自販機

 「本当本当!!…なんたって大張り切りだから」

 「そうそう!!これだって急に決定しちゃうし…その方が話題になるってさ」

意味なく私は耳をすなせていた

自販機が無言で飲み物を提供する

 「しかも昨日ライブやったばっかりなのに今日はM会場でご披露だってな!…こっちは片づけで大忙しだっていうのに…夢を見せる人はいい気なものだ」

冗談まがいに飲み物を受け取る

スタッフは少し汗をかいたジュースを開ける

彼方君を指していることが分かる



この暑さ一気に飲み干してまだ足りないという顔をする

私は思わず自販機にある全てのジュースをあげたくなった

財布の中身が破産になろうが関係ない

だけどそんな感謝の気持ちよりも早く私の足は駆け出していた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ