表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/93

31.夜7時、広場にて

想像したとおり学校の帰り駅前はごった返していた

考えていたと言ってもうんざりする

気合いを入れるために深く息を吸い改札を出た


喧嘩(?)をしていたあれは最早じゃれあいだろう

2人を置いて教室を出た私は1人

改札を出た私はめまいがした

いつも見慣れているところとは言え何回来ても慣れない

行く手を阻むみたいに交差する人、人、人

正直な話待ち合わせじゃなきゃ来たくない

それぞれの会話は

この街では騒音となってこだまする

私の好む静けさとは程遠い


少し気落ちしながらも足を進めていく

待ち合わせ先それは私の足で20分ほど歩くとあった


 「……?」


この大きなものなにかなぁ…

この公園には不釣合いなセット

確か彼方君が指定した先ってここだったと思うけど

何なのか分からない…巨大な四角いものが置かれている

何か分からないように上から黒いカバーが被せてある

…近々工事でもするのかな?

いつも周りに気を配っている性格じゃないが

これだけ派手に置いてあれば気付く

もう一度指定された場所を頭で思い描く

…待ち合わせ場所もここ…。

この前の電話での話を思い出す

間違いはなかった

一見公園というか広場

何かのイベントじゃないと役目を果たさない場所

夏なら花火大会、冬なら十日町

だから今のこの瞬間は価値なし

見渡すばかりカップル

こんな場所で何しようっていうんだろう

でも呼ばれたからには理由があるはずだし

こんなに殺風景だと自分の身の置き場がない…

あるのはあの工事道具らしきものだけ



考えてみればこの場所はよく言う『デートスポット』

うちの学校から近いんだったらお馴染みになるだろう

希に顔見たことある程度の生徒が通り過ぎる

お互い軽い面識だから声を掛け合わないけど…



私は何もすることがなくそこらにあったベンチに腰を下ろした

ふっと空に顔を写していた首を地上へと向ける

写る人全員に瞳を動かしていた

人と人の間から見えるまた人

人の瞬間瞬間を観察していた…


運命とか乙女なことを言うつもりはまったくないけど

座って腰を下ろして人の波から外れて

『人間』第三者として見た時

この世界でどれくらいの人がいて何分の一の確立で人は出逢っていくんだろう

そのうちの何分の一で私は彼方君と出会ったのかな?

こうやって行き交う人

もちろん人は目線を合わさずに行き違うけど

それさえももったいない気がする

今、隣ですれ違った人…また出会いを失ったって

でも偶然私は彼方君と目を合わせて向き合って確立の一つを手に入れた

その運命を逃さなかったってことになる

見逃せなかった…見送れなかったそれが運命?

見逃さなかったのは運命?偶然?

偶然、運命…なんか違う気がする




もっと違う何かがそこにあったんだ…



ツキンッ…

最近になって多くなってきた

記憶を辿っていくと何も見えなくなる

迷路からなかなか抜け出せない

必ず終わりはあるはずなのに…

絶対ゴールがあるはずなのにまたスタートへと戻る

私の思考はそれから動かなくなる

まるで『突き当たり』、目の前は壁

圧迫感を感じざる得ない

何時までもこの繰り返し


ふっと気付くと辺りは人で溢れ返っていた

こんなに人が多く来るような場所だっけ?

なんかこれからお祭りでもあるような感じに思える

 「…7時21分」

ケータイを開いていた

確か待ち合わせ時刻は7時だった気がする

もう過ぎてる…

そう言えば気になることが一つあった

この間彼方君からの電話の時

 『俺はちょっと待ち合わせにはいけそうにないんだけど…」

 『待ち合わせなのに、来れない?それって行く意味あるの?』

 『うん、駄目かな』

そんなことを言われた

…一人でここに来たって意味ってあるのかな?

誘っておいて自分は来れないってどういうこと?

理解が出来ない

でもしっかり来る私も私だけど

そんなこんなで時間が7時の針が40分をさしていた

彼方君が指示した時刻はとっくに過ぎてることを示していた

気付けば日はすっかり落ち

暗闇の中で時間を確認する度携帯の光で目がくらむ

思わず目を細めてしまうほど

むやみに行き交う人の合間をぬって小さなため息

一体何があるって言うんだろう

異様に人が集まって賑わうこの場所で




その瞬間何処からか悲鳴が聞こえる

 「キャーーーーーーーッ!!」

あまりにも甲高い声にビックリ

何故かそれにつられるように周りから人がいなくなる

気付くと大分人がいなくなっていた

その時私みたいに乗り遅れた人の話が耳に入った

 「ねっねっ!!今日ライブやるらしいって本当かな!!?」

えっ?!ライブ…待って誰の?

 「いきなり決まったライブだから口コミでしか広がってないってやつでしょ?…実際本当なのかどうかも分かんないよねぇ〜…あっ!!見て!?あそこに人が集まっている!!行ってみよ!!」

あっと言う間に目の前を掠めていってしまう

…ライブ???

じゃぁ、今の悲鳴は客の悲鳴だったの?

待って待ち合わせをした相手って

 「…ライブってもしかして…」

半信半疑で疑問に想いながら足を進ませてしまう






「ちょっと待ちなさい彼方!!」

その頃の舞台裏

いつも通りの罵声が飛ぶ

だが、態度はうって変わって

冷静沈着な速瀬とは思えない程の騒ぎっぷりに

周りを取り巻いているスタッフも目を奪われていた

 「待ちなさいって言ってるでしょ!?」

 「なんだよ!!!!?」

まとわりついてくる速瀬の腕を強引に振り払う

と同時に歩くスピードも遅くなる

 「これから何をしようって言うの!!?」

 「何って…これはシングルのPRじゃないのかよ…」

面倒くさそうに答える彼方

 「違うわっ!…そんなことを言ってるんじゃないの!!」

 「曲のこと?」

少し落ち着きを取り戻したかのように言葉を返す

速瀬も周りの視線に気付き冷静さを取り戻す

と、同時に聞かれてはまずいとばかりに彼方を連れて物陰の裏へと移動する

 「そうよ…まさかこれで彼女に思い出してもらうつもりなの?」

 「………。」

 「こんなことで思い出せるはずが!!?」

 「でもこれには俺の精一杯の気持ち…」

彼方だって信じちゃいない

だかこれが自分が一番歌いたい曲

どんな歌より勝る曲だ

これで成功してもしなくても自分の言葉が彼女に伝わればいい

さっきとは違い冷静に話す2人

 「これには今までの全てが詰まってる…歌詞を自分へと取り込んでいく間に確信した。色んな行き違いがあって誤解もしたけどだけど傷ついたり傷つけたりしたけど…でもいつもいつも同じ場所にたどり着いてしまう…。俺、6年間の自分にもう嘘はつきたくないから」

彼方はまっすぐに速瀬を見た 

 「かな…た?」

 「このステージが終わった後話したいことがある」

今回で二度目の瞳

彼方はまっすぐと目を逸らさず速瀬を見つめた

一度目はこの事務所に初めて入ってきたとき

その光景が速瀬の胸の内で蘇った

 「だ、だいたい、だいたいね!!こんな歌詞一つで貴方の歌一つで記憶が戻るんだったら苦労してないわ!!こんなこと、そんな事に望みを持っても後悔するだけよ・・・」

速瀬の心の中が熱くなっていく

 「だけど、今の俺に出来る事って…歌うことだから」

それだけ告げると彼方は物陰から出ていった

 『…歌うことだけだから』

速瀬の心の中で熱さは増していく

苛立たしさも増していく 

髪を縛ってあったゴムを一気に引っ張る

あまりにも強い力にゴミははじけ飛んだ

音をたてずにゴムは床へと転がって突き当たりで倒れた

 「まだまだ子供ね…その考えあまりにも浅はかすぎる…。理解なんて出来るはずがないわ…私も、社長も…そして初めてあの子がこの事務所に入ってきた日から散々言っても変わらないんだから。もう何度目よ」

静かに速瀬も物陰から姿を現す

 「懐かしいわ…。」

その声は誰にも届かなかった



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ