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30.蘇る予感

今日一日を締めくくるチャイムが鳴り響いた

きっと全校生徒がこのチャイムを待ち望んでいたんだろう

見渡す限り爆発寸前のクラスメートがそわそわしている

時刻は4時過ぎ、授業が終了したこの瞬間から

溢れだしたかのように声が色めき出す

 「くはぁ〜…やっと終わった」

吐き出すかのようにだらしない声を発する

私の耳に一番に入ってきた気が抜けるような大きな欠伸

涙目になりながらこっちを向くマコ

爆発寸前…もちろんマコもその一人

 「なぁ?…これからどっか行くか!」

 「あ、ゴメン。今日は用事があって…」

少し間をおいて軽く断る

この前約束したあの日のこと

 『あのさ、今度の木曜日会えない…?』

そう、今日は会う約束をした当日

心なしか落ち着かない朝から

 「なぁんだよ…売約済みかよ。しょうがねーなぁ!!」

不発に終わった爆弾が肩を落とす

 「………」

 「…なぁ、もしかして」

帰り支度をしているマコが

いつも間にか私の瞳を見つめる

時間が一瞬止まったかのように動かなくなる

それをマコが見落とすわけがなかった

 「マジぃ!!本当かよ…相手は?」

 「何で…?」

 「何でって…最近分かりやすくなってきてるんだけど。お前分かってないのか?」

今日一日のストレスがそんなにたまっているのか

そういえばやたらどの先生もマコに問題答えさせてたかも

だけどそれは校庭見てたり、時間ばかり気にしてるから

うっぷんを晴らすためにかこれ見よがしに私に絡んでくる

そんな時のマコは奈津実よりたちが悪い

 「ふわぁあぁぁ!!…よく寝たわぁ」

タイミングを図ったかのように大きな欠伸をしながらの登場

こういう時の奈津実は心強い

 「よく寝ただってぇ??!…お前寝てたのかよ!!」

 「いいのっ!私は誰かさんとは違って頭良いから。自分が偶然寝てなかったからって突っ込むところじゃないと思うけどなぁ〜。すべてはテストだよマコちゃん?」

 「っな!!…頭が良くても寝てばかりじゃ〜益々厚身ちゃんになっちゃうぜ…こりゃ楽しみだ」

そう、絡む標的が奈津実に変わるから

馬鹿なくらいにムキになるのが面白いんだろう

いつもこれで的から解放される

 「ふ、ふふっ…何を失礼なことを言うかと思えば、睡眠は美貌を保つ大切な薬!!」

 「…へぇ、美貌ねぇ」

大げさに目を見開き奈津実の身体を眺める

周りを行ったり来たりオーバーリアクションをする

 「ふーん…美貌ねぇ」

それを横目で見つめながら私は静かに席を立った

今日ある用事を済ませるため

そんなに急ぐ必要はないんだけど、この2人に囲まれると

いつまでも終わらないのは実証済み

私の存在を忘れているこの時に去るのが賢明

 「どう?…奈津実ちゃんのスレンダーな身体は」

 「あ、ありえねぇ」

相変わらずのかみ合わない話は続いていく

耳に入ってくる言葉を後目に私は教室の扉を開く

 「あぁ、もう!!そんなこと言わなくても分かってるって!…あり得ないほどの美貌だなんてぇ。キャッ☆当たり前すぎるぅ」

 「……」

 「ちょっとあんた無言でなにやってんの?」

うかれ調子の奈津実だったがあることに気付く

 「あり得ないほどの…だねぇ」

不意に下を向くとマコが奈津実のお腹を突っついていた

そして終いには了解もなく摘んでいた

 「いやっ…くすぐったいって!!なっ…肉掴むなっつうの!!!人様の肉をにおいそれと触るぁ!?」

乱暴にマコの手を振りほどく

 「なぁんだ!!自覚してんじゃん。…やっぱね人間正直に生きなきゃ!!可愛いよ奈津美ちゃん」

流し目になる奈津実を追いかけるように

ニンマリと視線を追いかけるマコ

 「なっ、何言っちゃってるのかな???…肉が摘めるように演技しただけ!!演技だよ。真似!!」

 「いや、意味分かんないし・・・」

マコは飽きたのか勝利を確信しての行動なのか視線を泳がせる




 「あれ?…満春は?…満春がいねぇ。」

今頃気付いたマコはしばらく教室中に目を配らせる

 「満春ぅーーーっと、本当にいない…おいっ!奈津実。満春知らないか?」

 「ふふっ!!私に負けるのが怖くて逃げたわね…」

なんの勝負してたんだよ

よく分からない言葉はもちろん無視をする

もう一度辺りを確かめるが結果は同じだった

満春のカバンはない

そこでやっと気付くマコ

 「あいつ帰っちゃったのか?」

 「なんかそうらしいね…はぁ、せっかく大スクープ持ってきたのにぃ…野獣の世話をしてたら遅くなちゃったじゃない」

マコの身体は過剰に反応した

そう、マコの身体は脳より早くあることを察した

 「…まったくしょうがない。」

奈津実はゆっくりと頭を振る

きっと生まれてから片手で数える程しかしてないであろうため息をする

その隣でマコは顔を引きつらせながら後ずさりをしていた

ずりずり、ずりずり…

一歩また一歩奈津美に目を配らせながら遠のく

そしてまたもや頭より先に身体は反応した

 「こうなったら満春抜きで話すかぁ!!!?」

ずりずり、ずりずり…ずっ!!

さりげなくマコの肩に奈津実の手が置かれた

これでマコは動けなくなってしまった

 「ねぇー?まこちゃん…聞いて聞いて!!大スクープ!!?」

 「断るッッ!!!!」

問答無用で即答した

おもわず奈津実に猫なで声が止まる

 「断るったら断るっ!!…絶対やだ!!?お前の話長いんだよ!!いつまでもいつまでも…くねくねくどくど」

 「でも面白いでしょ?」

素直なマコはつい頭を縦に振ってしまった

反射的に首を振ってしまったマコ自身もビックリしていた

ハッと我に返るとニンマリと微笑んだ奈津実

 「なぁんだぁ!まったく素直じゃないんだから…やっぱり聞きたいんじゃない」

 「き、気の迷いだ!!!」

 「そんな意地張らないでぇーー…」

戸惑うマコにやたら人懐っこく引っ付く奈津実

それをまるで床にへばりついてしまったガムを剥がすように押しのける

 「うわっ!?引っ付くな!!きもいっ…近寄るなってぇの!!?」

 「……―――ぅ」

奈津実の視線に押し黙った

マコの脳裏で『段ボールの中に捨てられた猫』の図が思い描かれたから

そんな眼差しで見つめられていた

 「はぁー…んで、何なんだよ。そのスクープって」

泣く泣くマコはおれた

普段は自分の意志を曲げることはしないマコだがこういう眼差しには弱い

針金のようにグネグネと意思を曲げられてしまう

 「はぁーーーいっはい!!よく聞いてくれましたぁ!!」

それを知ってか知らずか奈津実ははしゃぎ出す

そんな態度を見たマコは腑に落ちない顔をする

だが、そんな気持ちは次の発言で覆されることになる

 「それはずばりずばり!!永遠の貴公子彼方様関連ニュース!!!!?」

 「………」

 「ふふっ!!…この前、彼方様に恋人いるって言ったじゃない?実はその彼女って女子高生なんだって!!」

 「…え?…なっ」

 「ネットで書かれて…公表はされてなかったけど、どうやら一部の人は彼女の正体素性全て公開されてるらしいよ」

その一言でマコの頭は真っ白になった

一人ではしゃいでいる奈津実が違う世界の人みたいに

 「なんで…。」

 「へ…?何でって?」

 「何でそんなに早く…!!なんでそんなに早く…っ!!」

奈津実の肩を思いっきり掴む

 「そんなこと言われても…ネットで書いてあったんだもん。私だって知らないよ…ただすごい内容だった。文句とか愚痴とかそんなレベルじゃない。一面にその女の子を中傷するような言葉ばかりで…名は伏せられてたんだけど多分一部は…」

満春の顔が脳裏に浮かぶ

情報が漏れるのがあまりにも早すぎた

甘く考えていたわけではない

だかそれはあまりにも急だった

浮かんでは消え浮かんでは消え繰り返していく度に不安が増していく


 「み、はる…」


誰にも聞こえていない独り言は空しく

空気中で砕け散って消えた


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