3.何気ない日常
硬くなった身体を左右に動かす
また私は眠りに入っていたらしい
目を開けた向こう側は橙色の世界を映していた
今日の授業最後のチャイムが学校中に響きだす
ボーとした視線を正面に向けていたら前にいるマコが急に振り返る
「うわぁぁああ〜〜〜〜っ!?こんな時に限って!!」
目先で雄叫びを上げていた
だが、そんなことじゃ私の頭は起きなかった
「…見てくれ、テスト…」
悲しい表情を私に向けながら言う
その姿はちょっとした風で吹き飛んでいきそうな感じ
フッと渡されたテスト用紙に目を移す
「さっき返ってきたテスト…3点」
それだけ言うとマコが砂となって消えてった様な気がした
「何だよ、3点って…0点の方がまだ恥ずかしくないよ…なんかこの3って言うのが何故か私的も空しさを感じるんだよなぁ…しかもしかも!!聞いてくれよ!?このおかげで今日補習になっちまったんだよぉぉ!!」
今度は溶けてったような気がした
この上ないぐらいの落ち込んだ顔をする
肩はしようがないくらい下がっていた
「何で落ち込むの?」
私は思わず聞いてしまう
途端マコは勢いよく顔を上げた
「なっ!お前忘れたのか?!…今日はライブの日だぜ!!…楽しみにしてたのに…今日ぅ」
テストを握りしめうなだれていた
その声の隙間から聞き慣れた足音が聞こえてきた
やたらとすごい効果音で歩いてくる主
「おーっほほほほほっっ!!」
途中からはこれまた聞き慣れた高笑いが耳をつんざく
今日のは増して自信満々の足音をしている
その足はやっぱり私たちへと向けられていた
視線はためらいもなくマコのテスト用紙へと
足音の主、奈津実の顔は紙相手にほくそ笑んでいた
「何その点数!!・・・すぅあ、すぅあ、すぅあ」
「何だこいつ!呼吸困難にでもなったのか?!」
と、マコとお互い見合わせていると
奈津実の顔の筋肉が面白くコミカルに動いていた
途端、世にも恐ろしい顔が私たちと対面することになる
「すぅ、3点ですってーぇ!!!?」
別にそうでもなかった
言うならばギャグだ
「あはははははっ!!さんてん…3点3点!!」
思いっきり顔を歪め一番近い机をバンバン叩く
それを見たマコの頬が赤くなっていく
ほっとけばいいのに…奈津美の思うつぼだ
「そんなに連呼すんじゃねーよ!この体脂肪女!!」
いきりだって奈津実のところへと向かう
「だって…さ、3点って…こんなの犬だって50点は…取れるよ…私だって逆立ちで70点は取れるって絶対!!」
いつもいじめられっぱなしの奈津実
ここぞとばかりに反撃を開始してる
「なのになのに3点って!!…ぶっはははは!!」
答案を奪い取りバシバシと掌で叩く
マコの手は怒りで震えている
それに気付かずまだ奈津実は笑い転げていた
もう笑いすぎて引きつってる様子
「何だよ…だったらお前点数いくつなんだよ!!」
と、悔し紛れに言う
しかし迷わず持つ手は差し出されていた
「…ま、ま、負けた…。95点だなんて」
マコの眼球は今にも飛び出しそう
テスト用紙を掴んだ手は硬直して離さなかった
「ふふっ!…負けた?負けたと言ったわね?それは違うわ!!…私のとってはあなたは対象!!あなたと勝負するぐらいならミミズと勝負した方がまだ私が負ける気がするわっ!!」
用紙を内輪がわりにヒラヒラと仰ぐ
もう大威張りな感じ
奈津実の心はご満悦と見える
その瞳がいきなり私の方へと向けられた
「で、あなたは何点なの?」
と、テスト用紙に視線は向けられる
私まで被害が来るとは
実は自分自身点数は知らない
今まで寝てたから
「私は95点…あなたが100点じゃなきゃ勝ち目はないわね」
奈津実の手が置いてあった用紙をめくる
途端、マコと同じ様な表情をした
そう、豆砲玉をくらったような顔である
そのまま5秒程立ち止まった状態になった
豆鉄砲でもくらったかのように目が点
マコは不思議そうに見つめる
私は気ままに時を待っていた
そして5秒が過ぎると
「く、悔しい!!覚えてらっしゃい!!」
テスト用紙を投げ捨てたかと思うと足早に去っていった
錆れた捨て台詞もついでに
私は何事もなかったかの様に床に落ちたテストを拾い上げる
と、すぐそばにマコの顔があった
「おい!あの様子じゃお前100点取ったのか!?…」
興味津々の瞳で手元を覗き込む
「違う…」
「えっ?」
同時にマコへとテスト用紙を翻す
と、今度はマコの目が点になった
「…98点」
2人の間に私の声が静かに響きわたった
何か言いたそうにテスト用紙に向かって指を指す
「何て微妙且つ嫌がらせ的点数を!!そりゃ奈津実悔しいわなぁ…年中寝てるような奴に…。だけど私の仕返しをしてくれてありがと!やっぱお前は私の親友だ!」
身に覚えのないことでマコは必死に頭を下げている
ただ勝手にそっちが争ってただけなのに
目を輝かせながら手を握ってくる
「あのさ…今日、どうするの?」
一つ気になることがある
マコは多分奈津実の件で忘れてるだろうから
「へっ?どうすんのって何が??」
やっぱり忘れている
何言ってるのか分からないと言う顔をされる
だから私は単刀直入に言った
「ライブ」
途端に輝く瞳は消え、肩を落とす
まさに天国から地獄に落とされた人
私の手を掴んでいた手は地獄に引き寄せられる様に落ちた
「あぁ〜っそうなんだよなぁ…ここは一発ふける?いやっ!それはまずい!!補習出なきゃ留年って言ってたもんなぁー…うぐぅ!!どうしよう…。」
百面相の様にコロコロと顔が変わる
これに関しては妙に真面目なマコ
1人頭を抱えて考えていた
「……。」
私は結論が出るのをひたすら待っていた
一段落着いた様
マコの一人芝居は終わったようだ
「ごめん!!…今回マジやべぇーんだ…。親の方にも連絡行くかもしんねーから!!だから辞退す る。」
と、必死に頭を冷める
私は何も言わずその様子を見ていたらいきなり顔を上げた
その顔は何か違う真剣そのものだった
「だけど、お前は行けッ!!…何故って勿体無いからだっ。これは約束だ!…必ず!!」
そんなに好きになって欲しいのか行って欲しいのか
何か違う感じのも見える
そう私に告げると半泣き状態で教室を出ていった
いつの間にか私以外の生徒は帰ってしまっていた
でも外にはちらほらと生徒が下校する様子が見える
人は夕日に照らされてシルエットになる
情景は黒とオレンジ色で彩られていた
そんな風景を眺めていた
ちらっと窓越しに見えるチケットを見る
無意識にチケットを手に取る
「かなた…」
『彼方』と書いてある文字をなぞる
何だろう…気になる、けど分からない
そんな想いが堂々巡りしている
私は脇にあるバックを拾い上げ
気付けばチケットを握りしめ教室を後にしていた