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26.開いた距離

いつもの見慣れた朝を迎える

今日朝一番の天候は雲がかかっているが晴れといえる空

7月の上旬これからもっと暑くなる

それを予告するかのように

アスファルトは段々と熱気を増していく

窓越しに見ても分かるくらい

教室には次々と人が入ってくる

疎らに聞こえていたカバンを置く音も次第に増え始める

私もその中の一人となろうとしていた

 「よっ!!…はよーーーっ!!」

カバンを置くと聞き慣れた声

ためらいもなく私は声の持ち主へと顔を向ける

 「おはよ…」

元気満々挨拶口調はマコだった

それだけを言うと机に視線を戻す

嫌な沈黙が流れた

 「あ…ゴメン!!昨日…先に家に行ってるって言いながらいなくてっ!あの後急に用事おもいだしちゃってさぁ」

申し訳ないって顔で私に頭を下げる

苦しい言い訳に見える

昨日の家の状況で用事を思い出したなんてあからさま過ぎる

素っ気なかったのが怒っていると思ったのかいきなり昨日の事を持ち出す

 「別にいい。気にしてないよ」

 「ほんと悪かったなっ」

昨日、家に帰ったらキッチンがダイニングが荒れてた

ティーカップは砕けて、椅子は全部倒されていた

もちろんそこにはマコの姿はなく

いたのは…お母さんただ一人

そのお母さんは腫れた目を赤くして放心していた

だけど私が着たのに気付くと誤魔化すかのように欠片を集めていた

真っ赤な瞳で私にいつもの笑いを見せた

何があったの…って咄嗟に聞くことも出来ず

私はただその有様を見つめることしか出来なかった

異様な重い空気にそんなことを聞く余裕さえ失った

どうしてあんな状況で母一人だったのか

いったい何処に行ったのか先に行くって言って姿がなかったマコ

別に疑っているわけじゃなく

なんとなくマコは話さないような気がした

また隠し事が増えた

 「何か…隠してる事ってない?」

だけど一応聞いてみる

ふっと脳裏にあの夜のことが思い出された

あの夜、マコとお母さんで言い争っていた日のこと

 「…えっ」

鈍感な人でも分かるほどの動揺の眼差しをみせる

なんでもストレートに自分に正直なマコ

とてもいい所だし私も気に入ってる

けど、こんな時はなんて不器用に見えるんだろう

 「昨日…」

繰り返し言葉を発しようとしたとき

 「ねぇねぇ!!!!ねねねねっっ!!!」

遠くから…と言っても教室内だけど聞き慣れた声が

地雷を踏んだようなギャグ音が近づく

反射的に振り向いた先

 「ねぇねぇ!!聞いた聞いた!!?…そっかぁ、聞いてないのか残念っ!!うーーーーんっっ!!どうしよっかなぁ???」

この独りよがり勝手なしゃべり方は奈津実だった

振り向くだけで暑苦しさが増す

顔にこそ出さないがこんな元気何処からでてくるんだろう

その時後ろ、マコの席から深い息が聞こえた

息は息でも安心したため息

『ホッ…』と言う息

同時にショックだった

言うならば気付いてはいけないもの

知りたくなかったもの


また隠すつもりなんだ…


頭の中でますますあの夜のことが蘇ってくる

完璧に私に隠し事をしている二人

次々とキリがないほどの不信感が押し寄せてくる

思わずマコから視線をそらした

それをぶち壊すかのように

弾丸のような声が耳に飛び込んできた

 「ちょっとちょっと!!…この奈津実ちゃんの話聞いてる!?」

 「はいはい。聞いてるよ、たっぷりと!厚身」

隣からマコのいつもの声がすり抜けていった

そしていつものリアクションをみせる奈津実

 「キィーーーーッ!!!違うって言ってんでしょー!!!?…でぇも何気に久々にそう呼ばれて有頂天になってる私にで・こ・ぴ・ん☆」

定番の展開が私の目の前で繰り広げられている

自分の世界に入ってる奈津実

それがむかつくのか怒鳴りちらかすマコ

何も考えることなくただ座っている私

…のはずなんだけど

不安の渦は容赦なく私を飲み込む

昨日の出来事はただ事ではなかった

涙の跡でグシャグシャのお母さん

目が泣きすぎて真っ赤になって

必死に誤魔化そうとする姿が痛々しく見えた

あんな母親を見たことない

何も信じられない、拒絶する眼差し

昨日のお母さんの顔が頭から離れない

その理由を知っているはずなのに何も言わないマコ

逆にその話に触れた途端身体を強ばらせてた

それはさっき奈津実が来たときの安堵の表情で分かる

私に質問されることを恐れている?

一体、何があったんだろう

何がなんなのか私には分からない

嫌だ…この感じ

何かが起ころうとしてるそれだけは分かる

 「はぁはぁ、ゼェ、勝手にやってなっ!!」

突然マコの姿が目に入る

いつのもパターン

きっとマコがあほらしく思えてきたんだろう

適当に見切りをつけて席へ逃げようとする

 「あっ!!…ちょっと待ってよ。さっきの言いかけようとした話気になんない?」

 「………」

無言で奈津実の方に振り返る

 「あ、気になるんだーっ???」

そう言ってニヤッと口をつり上げる

まるで毒リンゴを白雪姫に渡すかのように

まぁ、もちろん2人ともそんなキャラじゃないけど

だけど今の奈津美はりんごを渡す老婆にそっくり

やっぱりさしずめマコは白雪か

 「………」

マコの額にギャグ的血管が浮き出る私には見えた

奈津実は血の気が引いた

今度の白雪姫は気性が荒いようだ

危険を感じた奈津実は渡すはずの毒リンゴを隠した

 「あぁぅ…ウソウソ!!冗談だってば…そんな怖い顔しないでよぅ!」

 「話って?」

何事もなかったかのように話しかけるマコ

 「あ、そうそう!!!奈津実ちゃんリサーチ連盟部で調べたんだけど…」

 「部員は?」

 「しくしく…」

ゆっくりと片手でゼロのサインを出す

 「あぁ、悪かった。…話は?」

突っ込んだマコは悪いと片手で顔を覆う

 「有力情報が入手できたのよ!!…日夜活動してきた甲斐があったわ!!…これは確かな情報。キュフフ…今や私の白馬の王子様、私…奈津実はこの日を幾度待ち続けたことか!!…彼方君」

私達は同時に奈津実に視線を向ける

今や聞き慣れた名前

それが奈津実の口から言葉となって出てきた

ふっとマコの顔を覗き込むと複雑な表情を浮かべていた

 「何?情報って彼方のこと…?」

動揺を隠せないマコ

一瞬忘れかけていた思いが蘇る

 「そうそう!!あのね、実は…」

気付いたときにはマコと私は身体の全神経を耳へと集中させていた


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