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22.6年前の真実(前編)

満春の家から坂を下りた数分の公園に場所を決めた

夕日が沈み始めた今

周囲は見渡さなければ見つけられないほどの人の少なさ

きっと子供は遊び疲れ帰った後なのだろう

遊び散らかした後があるシャベル、ジョウロ、作りかけの砂の城

ただいないのは遊んでいる子供達

その中で1人寂しげにブランコに乗っている少女がいた

きっとまだ来ないママの迎えを健気に待っているのだろう

ここからでもはっきりと瞳でキョロキョロと捜していた

その時夕飯の作り途中なのかエプロン姿のママ

ママを見つけるとブランコから飛び降り懸命に走る

小走りで駆け寄りながら少女へ近づく母親

少女は自然と満面の笑顔を浮かべて抱きつき夕闇の中に姿を消していく

……とても楽しい団欒が待っている家に……

 「ごめん、待たせたね」

その光景を眺めながらベンチに座っているマコにジュースを渡す

次第に少女とお母さんの姿は見えなくる

そして辺りには2人以外一人としていなくなった

 「あ、どぉもっ…」

渡された缶ジュースを受け取る

思った以上に冷たかったのか真っ先に太股の上に着地させる

 「昔はあんな感じだったのか?…満春んちは」

 「…えっ何故?」

 「あ!私はさっ、中1からのあいつしか知らないから…」

消えていった少女の影を見つめながら言う

 「…あぁ、あんな感じだったかな」

そう答えが返ってくると同時にマコは顔を曇らせた

 「んで、どこから話せばいいんだ?」

 「なんかゴメン…勢いでここまで連れて来ちゃって」

ずっと謝るきっかけを捜していたのか突然謝る

チラッと彼方に視線を写すマコ

視線は下を向き缶を見つめていた

 「ハハッ!!何落ちてんだよ…全然気にしてないって!!」

いつものおちゃらけた性格

 「んまぁ、気にしてないってこともないけど…」

 「……」

 「満春の母親さ、…精神不安定なんだよ。」

彼方の顔が一瞬曇る

 「6年前…」 

まだ開けてもいないコーヒーを彼方は見つめていた

 「なんか解せないって顔だな」

マコはさっき貰ったコーラーを開ける

シュコッ!!…シュ―――ッ

誰もいなくなった公園に缶の蓋を開ける音が響く

目立った音をたてるとコーラーを一口飲む

何気ない仕草なのに缶を持ち上げる腕が重く感じる

まるでこれからの話が長引くと言うことを予告しているかのように

 「あぁ正直…俺には何がなんなのかまったく」

と、頭を抱える

顔を伏せ額を隠した指の隙間から瞳を覗かせる

 「さっき言われた。貴方にはここに来て欲しくなかった、どうしてきたんですかって」

マコは黙って彼方を見つめていた

その表情は今まで見てきたマコとは別人のもの

 「…俺は満春に負担を掛けていたのかな…。」

顔を上げた彼方は未開封のコーヒーをベンチの置く

カンッ…中身の入っている缶は鈍く響いた

そして深いため息をつく

まるで抑えきれない苛立ちを必死に鎮めるかのように

 「俺にはもう何が何なのか分からないよ…。一体さ、6年前に何があったの?」

起きた出来事になんの理解も出来ない自分

自分だけが分かってないこの状況に苛立ちは増すばかり

気付かぬ間に手のひらを硬く握り締めていた

 「あのさ、6年前のこと…」

 「えっ?」

 「初めにあんたが知ってる限りの6年前を話してくれ」

逆にマコから要求されるとは思わなかったのか

彼方は豆鉄砲をくらった鳩のような顔をした

だが、すぐさま思考を元に戻した

同時に体勢を立て直し思考を言葉に代えた

 「6年前、満春と会う約束したんだ。デビューが決まったら一度2人で会おうねって電話越しでよく話したから…離れててもいつも嬉しそうな声で『頑張れ』って励ましてくれた…俺が弱音をはいたときも、挫折しそうになった時も本当いつも変わらない声で受話器越し満春は満春のままでいてくれた」

 「……。」



ただただ真剣な眼差しでマコは聞いていた

 「俺にとっての安らぎだった…それほど日々現実を突きつけられる厳しい芸能界気が休まらない世界なんだ。ほら、やっぱりなろうってんだから誰よりも早く誰よりも目立っていかなきゃならない…個性がないやつなんてすぐにお払い箱、その人のやる気や意気込みなんて関係ない…商品価値がなきゃもう終わり。うちの事務所は他のとこよりも厳しいだろうね…だから大手なんだって言ったらそれまでだけど」

程良く温まってしまったコーヒーの缶を一気に開ける

手を止めずにそのまま口へと持っていく

 「その中で、何故か社長は俺のことを気にかけてくれて…ただ実力が伴ってなかった。だから本気で必死に頑張った…やっばり社長がどんなに俺には光るものがあるって言っても俺以外にも歌うまい奴やダンスが出来る奴なんて星の数ほどいたから…でも俺がそう思っている中でも落ちていく奴っているんだ…」

 「………。」

 「幼心に思ったんだろうな…いつか俺もお払い箱になってしまうってね!俺は他の奴みたくお払い箱になるわけにはいかなかった満春がいてくれたから…電話越しだけどあいつの声が聞こえるからここまで来れた…世間では天才だの音楽界を牛耳るだの言われてるけど」

段々暗くなっていく中に2人の姿は見えなくなりそう

だったが突然公園の電灯が灯る

 「あぁ、ごめん…これじゃただの昔話か自慢話だね」

でもこれが彼方の全て

 「いやっ、私も聞きたかった…」

完全に灯った電灯はまるで映画のワンシーンのように2人を移した

彼方達の影が伸びていた

 「そうこうして…俺のデビューが決定した。会いに行こうとした当日今でも信じられないくらい憶えてるよ。逢う約束も電話でだった6年前の夏から秋に変わる頃あれは土砂降りの雨の日だった…満春に会うのを反対されて速瀬さん、俺のマネージャーと大喧嘩した後押し切って傘もささずに事務所を飛び出した。そして待ち合わせた時間から10分遅く到着したよ…だけどいなかった、何処捜しても見当たらなかった」

 「………」

 「翌朝まで待ってたけど満春は来なかった…その後その場で俺は熱で倒れて気付いたらベットの中…意識を取り戻した俺はもう絶句するしかなかった。」

 「………」

 「それから冷静になって考えた…満春の気持ちは俺から離れていったって。人は裏切るもんだって速瀬さんがよく言ってた。実際俺の知っていた番号には繋がらなくなったし6年前は来なかった…。最終的に俺は彼女はだんだん約束なんてどうでもよくなってしまったんだって…新しい環境や出会いに心を動かしてしまったんだって…初めは本当に信じられなかった。昨日今日の話だったから…でも現実は彼女と俺を繋げるものが何もなくなってしまったんだから…そう思うことでしか俺は俺でいられそうになかった」

 「……!!!」

気のせいかマコの身体が過剰に震えた

 「…ってよ」

ひっそりとした鋭い声が暗闇を裂いた

聞き取れないほどの小声に今の季節には似合わない冷たい風が通る

マコの手のひらに力がこもる

 「待てよ…待てよ!!」

握りしめていた缶が無惨にも地面に転がり落ちる

まだ残っていたコーラーが零れだす

マコの怒鳴り声は公園の木々を揺らした

 「ふざけんなっ!!!!?」

気持ちを抑えきれず立ち上がる

右手は必死に殴ろうと震える意志を抑えていた

マコの怒りは成人の男一人の腰を軽く引き上げた

 「心が動いただと??!裏切っただと!!!?知らないとはいえお前…!!」

彼方の肩を掴む

 「ふざけんじゃねーーーよ!!!…私は見てきたから分かる!!満春がどんな気持ちであんたに会う日を待っていたのか…電話もそうだ!!あんたが電話しなかった日が続いたときどれほど辛い思いしてたのかまったく知らねーからそんなこと言えんだよ!!」

 「どうであれ事実を知らない俺にはそうケリをつけるしかなかった」

 「毎日毎日たった一人の電話を待っては悲しい顔して待っては泣いて…寂しさを隠してた知らないだろ……受話器を置いた後いつも泣いてたよ…」

足に力を無くし地面にへたり込む

 「でも、自分には電話越しで笑って励ますことしかできないって…」

座り込んだと同時に今まで我慢していたものを吐き出すかのように

マコの瞳から次々と涙が零れた

 「それなのに…分かってるんだよ。時々しか出来ないことくらい寂しい思いをさせるもの彼方が頑張ってるからだって…辛くないはずはないだろうし、だけど魂が抜けた満春を見てると…ごめん」

そう言い終わったマコは止めどなく流れる涙に顔を覆った

 「………」

顔を隠すだけじゃ補えないほどの涙に夜の静けさは容赦なく襲う

不意にマコの肩を優しく叩く

そしてゆっくりと静寂に腰を下ろしマコの目線に合わせる

 「ごめん、俺が言える筋じゃないけど」

視線を向けないマコに構わず瞳を見つめる彼方

 「酷いことを思ってたって分かってる。だけど今回満春に似た満春に出会って俺はまだ忘れられてない事に気付いた…。何処かで満春を捜してた。いつも…。だからこそ本当のことが知りたい…どうしてこんな誤解が生まれたのか聞きたいっ」

マコは彼方に瞳を合わせる 

不安な表情を見せていた彼方は凛々しく決意した表情に変わる

まるで何もかも受け入れる体勢が整ったと言わんばかりに

一瞬強い風が吹いた

突然な風はますます彼方の決意をより固くさせる

その顔から感じ取ったマコは

終わりが見えなかった涙を無理矢理拭った

まだ上手く立つことのできない力を無くした腰を

震わせながらゆっくりと立ち上がる・・・

 「……話すよ、全部。」

無言の承諾と共に

マコの頭の中は複雑に思考が絡み合っていた

今までにあったこと、一体何があったのか・・・

何処から話せばいいのか

彼方は思っていた通りに彼だった

全て話すつもりでついてきたから

例えそれが互いを傷付ける結果になったとしても



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