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20.知りたい

奇怪な足音聞こえ慣れてしまえば気付かないものだろうか

だか、あえて私達は顔を合わさない

「ふふふっふふふっ!!」

背後から不気味な笑い声がする

 「ハハハハハハハハッ!!」

倍に大きくなる気付いて欲しいオーラ

あまりにも二人して無視してるから声を張り上げたのだろう

 「マコ、話しかけてあげなよ。なんか言いたそう」

 「何言ってんだよ…後ろには何もいないって!!」

 「………」

このままだとレベルアップすると思うけど

どんどん調子にのって

 「ちゃんと気配ぐらい分かるんだから心配すんな!!…まぁ未確認飛行物体とか幽霊とかは感じねぇけどな!!」

 「…奈津実は?」

 「問題外飛行物体。それ以前に、物体なのか!!?」

驚きを隠せない様子のマコ

後ろの外野は涙を流していた

 「ジャジャジャーーン!!私、坂本奈津実は本日大変なものを手に入れてしまいました!!」

それでもめげない奈津実に舌打ちをするマコ

 「なぁ、満春これてさぁ…」

わざとらしく無視を続ける

 「あのさぁ〜別に液体でも良いから会話しようよぅ…シクシクマコ様」

な、情けない…。認めてしまった

まさにスライムやアメーバーの様にマコにすがりつく

 「でも、液体の女王は私ね…」

 「いきなり勢力争いかよ!てか、うちらも入れてんな!!アホ」

思わずつっこみを入れる

マコの性分ぼけられたらほっとけないのだろう

 「だってだって…私の話ぃ〜」

猫なで声でいじける

思わず背筋が凍る

 「ぐひぃ〜っ!!分かった…聞く!聞くからしゃべんな!!」

 「ふっ!…荒木マコ、破れたり」

何処を向いてるのか分からない奈津実はとにかく遠くにVサインをする

一気に復活ってご様子

気付いてないのだろうか…矛盾に

まぁ、それ以前にマコが言ったことなんて1mmも気にしてないだろうけど

まだ遠く彼方に憂いの涙を流してる人は放っておく

 「聞いたって自慢話だろ?つまんねぇ…」

 「……。」

 「そんなんあいつ一人勝手に言わせておけば良いんだって!!」

そうぼやくと私の机に広げてあった雑誌無造作にひったくる  


 

最近思うことがある

芸能人の話はいままでまったくしてこなかったマコ

それがいきなり慌てたかのように持ち出してきた

と思ったら、今度はあの夜から一切してこない

それはどんな意味だったのか漠然として分かり始めてる

きっと『実は興味がない』とあからさまに態度に出し始めたのも

マコ自身感づいているんだろう…

私が気付いてるってこと


時間が経てば冷静に答えは浮かんでくる

最初から嘘や騙すというのが嫌い

自分が正しいって思ったことは真っ向から突き進んでいく

そんなまっすぐなマコには似合わない

でも一つ分からない事がある

いつも直球勝負のマコがどうしてこんな回りくどいことをするんだろう

はっきり言ってマコらしくない

必死に隠して、嘘までついて彼に会わせて

私がいない間にコソコソ話までして

彼方君って私と何か関係があるの?

皆が知ってる通り誰もが知ってる有名人

生まれながらにしてテレビで活躍してそうな人と

自分自身を繋げるものなんて

普通こんなこと考えてたらたくさんのファンに怒られそう


あの日聞いた…事件、記憶喪失

考え始めるとゴールのない迷路に迷い込んだみたいになる

だけど同時に思う

全ては私の知らない6年前なんだ

いつも思いだそうとすると落とし穴に落ちてスタートへと戻される

まるでゴールにはたどり着かせる気はないみたいに

でも、穴に落ちても落ちても落とせない言葉がある

不意に喫茶店で口にした言葉

『本名は仲宮――…奏汰』


私は…仲宮奏汰を、前から『彼方』知っている

知りたい。彼のことを…





いつも通る坂道を昇った先の住宅街

軽い坂だけどやたら長いので疲れる

その先にある赤い屋根の一軒家

周りにはお昼を食べ終わった後の呑気な雑談会

主婦の笑い声が微かに聞こえる

袖をまくり腕時計に目を通す

だいだい2時過ぎと言ったところ

黒ずくめの男は密やかに電柱の陰に隠れていた

かくれんぼと冗談でも言えるような感じではない

熱く太陽が照らす中数分後

軽快に心地いいヒールの音をならす来客が男の視線の先に現れた

 「やっぱりなぁ…」

来客は赤い屋根の家のインターホンを押す

家の中から奥さんらしい人が顔を出した

昼の後片づけだろう…エプロンをしている

何を話してるのは聞こえないがまた数分後

ヒールの女性は丁寧にお辞儀をし、赤いヒールを鳴らしながら後にした

 「……はぁ」

影がなくなったのを確かめた黒男はため息をもらす

女性は車で走り去って行った

 「やっぱ来ると思ったよ」

男は電柱に隠れるのをやめた

隠れる理由がなくなったからだ…

暑さに我慢できず黒い帽子を取る

サングラスも邪魔なのか外す

黒に隠された正体は彼方だった

センスの悪さで分かったかもしれないが

 「絶対速瀬さんここかぎつけると思ったからからね!!まったくそう言うとこ鋭いから隠れといて正解っだったよ…どうやって調べたんだか」

なぜこんな事をしたかというと

ズバリと言えば一言サボったから…今日の仕事を

今頃事務所は大騒ぎだろうと思い立っての行動だったようだ

それは大騒ぎって問題ではないのだろうけど

彼方の頭もそんなの問題ではない

考えた末だった

あとで速瀬さんに怒られるだのクビかもの問題ではない

ただ彼方は事実を知りたいだけ

それ以外何も頭の中にはなかった



彼方はさっき速瀬が訪ねた家に歩み寄る

標識には立派な文字で『桐谷』と書かれていた

この前、満春に教えてもらった住所

6年前やっぱり引っ越していたのだ

だから電話も繋がらなかった訳

今はもう痛まないが受け取ったとき落胆した

 「………」

何故かインターホンを押せずにいた

一瞬押す手が硬直する



 『家族とか友達とか私、話さないんじゃなくて……話せないんです』

 『えっ?』

 『昔の記憶がないんです…』

 『それって記憶…』

 『喪失です。…やっぱり驚き、ますよね』

この前待ち合わせした喫茶店での会話だった

 『本当は言うつもりなかったんですけど…』

 『じゃぁ、どうして?』

 『ごめんなさい、迷惑ですか?』

 『いやっ!違う違う。疑問に思って…』

 『よかった。でも何となくですよ…彼方さんには話したくなって力になってくれそうで』

 『そうなんだ、それで』

何気ない言葉に自分は嬉しく思ったの覚えてる

 『はい、記憶と言っても最近までは記憶喪失ってこと自分でも知らなくて…そんな自分の事なんて気にもとめなかった。でも最近お母さんと友達が話してる聞いちゃって』

 『親と友達?…変な組み合わせだね…で、その原因は?』

 『でも、聞いた途端頭が真っ白になってその後は…』

 『そりゃそうだよね…』

 『でも、言葉のはしはしは憶えてる』

 『それは…?』

 『確か、6年前』

不意に彼女の面影を重ねていたせいで身体がこわばる

最近それが癖になってきていた矢先

彼女じゃないって分かってるだけど

あまりにも表情も何もかも似すぎていて6年前といわれると

傷をえぐり返されたかのように心が痛む

 『6年前、何かが起きて…記憶喪失になって感情を表に出さなくなった…あ、後、ここよく分かんないんですけど違う人かもしれないけど『カナタ』って名前をよく出してた。まったく分からないですよね。でも違う『カナタ』かもしれないし…私が考えようとするとここ最近では貴方としか会ってないんでそう思ってしまうのもすごく失礼なんですけど…。でも誰かを待っていたような気がするんです。それがお母さん達が言ってた『カナタ』って人なのか』

しどろもどろになっていく会話

それを彼方がゆっくりと制す

 『あの…』

返って来ない言葉に不安の色を隠せない表情

この時まだ違うって思ってた

彼女なはずないって

目の前の違う女の子が6年前似た境遇を体験したんだって

 『あっ、ごめん…いいよ。詳しく説明してくれるかな?』



彼方の視線はインターホンをドアを見つめていた

あの時速瀬の前ではああ言ってしまったけど

今からやろうとしていることは恥さらしかもしれないとか

無駄なことに気を巻き散らかしてる余裕がないくらい

確信をを得ている気がする

彼女の話を聞く限り…満春、6年前、記憶喪失、本名を知ってた

 「俺も知らない6年前…」

うわごとのような小さな声で呟く

そして意を決して鳴らす

ピーンポーン…

数秒経つと懐かしいともいえる声が聞こえる

 「…どなた?」

一般的にいう営業スマイルならず主婦スマイルでドアを開ける

そしてますます想い出へと返る顔が彼方を出迎えた

 「こんにちは」

軽く一礼をする

顔を上げた先にはただ固まっている主婦、満春の母親がいた

 「わかりますか?」

沈黙が2人の間を通り過ぎる

この沈黙で勘違いは過ぎ去る

面影がある小さい頃よくしてくれた優しい叔母さん

彼方も少なからず緊張をしている

 「憶えて、ますか?」

次々と質問を投げかけるが不発で終わる

ここに彼方が来るのが信じられないと言いたげな顔

 「かな、たくん…なの?」

 「はい…そうです。」



そう告げた時の叔母さんの顔

幼い頃優しくしてくれた面影がなかった

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