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18.笑顔そして頼れる人

…気付いたらベットの中にいた

太陽も空高くまで昇ってカーテンに透けて部屋を写しだしていた

マコは気まずそうに無駄口を交わした後さり気なく昨日の事を持ち出した

ようは探りを入れたって所だろう

その時嘘をついた…

あまりにも真剣に思い詰めたような眼差しにためらいを憶えたから

そう答えた後のマコは息をしていなかったかのように深く息を吐いた

 「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

明るいウエイトレスの声が聞こえる

午後2時を回る時計はランチラッシュの名残がある

ドリンク片手に雑談してる人

仕事が始まるまでの時間を利用して読書してる人

私は何をしてるかというと

フッと顔を上げる…あ。

 「よっ!!お待たせ…今人気彼方君でぇす!」

ピースサインでふざけた口調で登場する

今日はカラスでもホームレスでもない服装

変に飾り立てないほうが目立たないことに気付いたのか

だけどこんな登場したらどんなでも目立ってしまう

まんま自己紹介ってねぇ…

…まぁ、それは置いといて

見ての通り待ち合わせをしていた

なんかもう誰かと話してないと色々と考えてしまう

あれから一週間

私は言うなら無理矢理

何も分からず痛くないよって言われて無理矢理注射された気分

そんなとき彼方君から連絡があった

 「おーーーいっ!!大丈夫?…起きてるかい???」

目の前で手を振っていた

私がボーっとしてたことに気付いたらしい

 「あ、ごめんなさい…」

今度は彼方君がボーっとしている

端から見れば怪しく見えるんだろうな…私達

そう頭によぎると起こしにかかる

 「あの…どうしたんですか?何か」

 「あっ、ごめんごめん」

まったくさっきの逆になってるこれじゃ…

 「あ、いやっ…最初にあったときの満春ちゃんと印象が違うなぁーって」

思わずはてなマークが頭に浮かんだ

なにか納得した感じの様子

 「初め会ったときは何か冷たい感じがしたからさ…何事にも無関心みたいな。だって貴方に興味ありません!!人気だろうと有名だろうとなんだっていうんですか?ってさぁ〜」

 「………。」

そういいながら頼んだコーヒーを口に運ぶ

何の考えることなくその行動を見ていた

 「あ、ごめん…冗談になんないね…本人の前で。ただそんな気がして…よく言えば冷静なんだよっ!て俺はまた余計なことを」

怒ったと思ったのか弁解の言葉を並べる

詰まりながらも一生懸命に

 「ふっ!…くすくすくす」

彼を見ていたら思わず笑ってしまった

何故何故と慌てふためく彼方君を見ていたらますますおかしくなった

今までにないんじゃないかと言うくらいの笑い声

それは自分の耳にまで聞こえる

自分の心もちゃんと理解して落ち着いてる

笑っちゃえって

うろたえる姿が面白くて…

トップを争うような人がこんな事で焦るなんて

私の知らないところで彼の姿がもう一人の満春をくすぐっていた

 「えっ?え…俺、可笑しいこと言った???」

もう悪いと思って事情を説明する

笑いを堪えながら…

 「フフッ…あの、冷静沈着って書いてあったんですけど」

 「…えっ」

 「それって本当のことなのかっと思って…今の言葉聞いて」

まだ笑い終えないまま話をする

そしてやっと理解したのか身を乗り出して力説する

 「あのさぁ…!!あれはノリというかそれが売りなんだって!!しかもそんな昔言ったか言わなかったか分かんない雑誌何処で見つけてきたの?…俺は焦りもするしうろたえもする。れっきとした血の持ち主」

もちろん奈津美情報に決まってる

 「ふっ…!」

 「って思ってる…よね?」

また思いっきり笑っていた

もうなにが面白いのか分からない

ただただ面白い…それだけ

自分がそんな感覚を味わえるなんて夢にも思わなかった

気付いたら笑ってない自分がいて

顔に触れるといつも笑ってない鏡に映し出される自分も無感情

なにも心動かされる時なんてないって思ってた

 「はい…れっきとした」

そんな人形みたいな自分が壊されていく

確かにどこかわだかまりあるけど心地いい

さすがにここまで笑って罪悪感がわいてきた

彼方君にとっては馬鹿にしてるようにしか見えないだろう

だけど彼は意外な表情をして私を見ていた

 「やっぱりそっくり…その笑顔…」

 「…っえ?」

不意に言われた言葉

そういいながらその微笑みは崩さなかった

 「あ、いや…それより話しない?…そうだな。満春ちゃんのことなんか聞かせてよ!!俺のことばかり話してたってつまんないでしょ?」

確かに会う度彼方君は自分の話ばかりしてた

それは私が無口で話したがらなかったからなんだけど

 「それに俺のことは知ってるみたいだし!別に何でも良いよ…小さい頃とか家族のこととか友達のこととか…」

硬直する私

多分…今一番触れられたくない部分

次々と案を加えていく彼方君を余所にうつむく

小さい頃、家族、友達…

何を話せば良いんだろう

お母さんが作ったご飯変わらず美味しい

マコは変わらず私と友達でいてくれる

けど、なんだかそれはウソのような気がして…

『知らない振り』して誤魔化される

どんどん深みにはまっていく自分がいる

さっきまで晴れてた頭が一気に雲がかかっていく

何もかも信じられなくなっていく

私にはあの夜のことが全然理解できてない

自分の記憶、お母さん、マコ…

私自身が疑わしくなっていく

周りで一体何が起きてるのかな?

ただ確かなのはどんどん厚みを増していく不安

なにか良くないことが起きようとしてる前兆

 「どうした…?悲しい、寂しそうな顔してるけど」

完全に不意をつかれていた

心配そうに私の顔を覗き込む

 「なんか俺、変なことでも言った?…」

 「あ、違うんです」

 「じゃぁ、なんか悩み事でもあるの…」

そういいながらより心配そうな顔をする

 「いえ、違うんです!…本当、ごめんなさい…ごめんな―…」

 「み、はる…ちゃん?」

ポタッ ポタッ ポタッ

漠然とした不安が涙となってあふれ出した

この頃限りなく情緒不安定に近い状態だった

誰かに話を聞いて欲しいのかもしれない

何もかもがバランスを崩して壊れていく

なんか心の拠り所をなくした様な

だけど、どんなアンバランスでもこの1週間涙流れることなんてなかった

それは自分の性格であるからそう思ってた

嘘はつき通せるって思ってた自身にも



それがどうしてこの人の前でこんなに泣いてるんだろう

自分の中で制御がつかなくなってる

何より…泣いたり笑ったりする自分を彼の前だと受け入れられる

気付かぬ間に彼方君は私の心の拠り所のなってるのかもしれない

 「…どうしたの?!大丈夫?」

 「…っく!!ひくっ」

正直涙なんて止まらなくても良いと思ってる

泣いてる反面、複雑な気分

でも、やっぱり自然と涙は止まっていくもの

しだいに涙は流れなくなっていった

彼方君は心配はしてくれたけど私が泣き止むまで待っていてくれた

 「本当にどうしたの…何か俺気に障ること言ったのかな?」

落ち着きを取り戻した私に問いかける

 「あ、いえ…そんなんじゃないんです」

泣いたせいで声が裏返る

だけど精一杯そこははっきりと答えた

 「じゃぁ、悩み事?…不安なことでもあるとか」

私は口をつぐんでしまった

これじゃ…そうですって言ってるようなもの

多分この様子だと感づいてる気がする

そして彼方君が口を出そうとしたその時

プルルルループルルルループルルルルー

 「!!!!」

突然彼方君の携帯が鳴り出した


この空気にはそぐわない軽快な音楽で

余りにも場に合わない音の携帯で一瞬分からなかった

重い間を切り裂くかのように飛び出した音に私達は止まる

  「あ、ごめん…」

そういいながら慌てて携帯を取り出す

もう一度私に軽く謝ると席を外し携帯を耳に当てる

 「はい、もしもし?…あ、なんだ速瀬さんかよ。間が悪い」

マネージャーさんかぁ…

 「いやこっちの話だよ」

速瀬さんと話し始めてしまった

手持ちぶさたに私は何分か前に頼んだままのカフェオレを

静かにかき混ぜながら窓越しに外を見る

外にはたくさんの人達で溢れ返っていた

見ているうちに落ち着いた私

相変わらず彼方君は電話で話をしていた

3時過ぎの街並みは余裕満々の主婦でごった返している

まだ時間があるのか世間話に花を咲かせてる主婦

ここまで楽しそうな声が聞こえてきそう

母親に買って買ってと駄々をこねている子供

ベビーカーをゆっくりとあやす様に押して歩く母親

赤ちゃんはすやすやと眠りに入っていた

そんなゆったりな時間が流れていた

こうのんびりな風景が覗けるって事は意外と穴場なのかも

そう思いにふけっていた時電話している彼方君が後ろから窓越しに視界に入ってきた

オーバーリアクションで指を刺す

電話片手に苦笑しながら『見ろ!』と窓の外を指す

きっとマネージャーさんの話なんか聞いていない

指している方向を目でなぞっていく

 「あ……」

間抜けな声を上げる

多忙に行き交う中彼の指は一人の男の子を指していた

6.7歳位の男の子が重たそうにスーパーの袋を持っていた

中には見える限り大根やら人参やらが見える

きっとお母さんに頼まれたんだろうなぁ…

相当重いのか持ってるはずの袋は引きずってる

もう大根らしきものはおろしにになりかけている

人参はコロコロ落ちては必死に拾って歩く

私はその一部始終を見て思わず吹き出してしまった



初めてのお遣いなんだろう

なんだかとてもぎこちない

窓越しに写っている彼方君も危なかしげな男の子を見て笑う

それに気付くと笑ってしまった

隣で彼方君も大笑いしている

その視線に気付いた彼方君と今度は顔を見合わせて笑ってしまった

 「ーーーーぁ!!?…!!」

あ、あれ?…何か聞こえるけど

っていうか誰か忘れてる気が

今度ははっきりとした声で耳につく

 「もしもしっ!!彼方、聞いてるの!!」

速瀬さんだ

携帯を耳から離している

それでも通る甲高い声は聞こえていた

 「彼方返事しなさいっ!!?」

今にも飛び出しそうな剣幕

彼も気付いたらしく慌てて携帯に耳を傾ける

 「はいはい!もしもし聞こえてるよ!!そんな声張り上げなくても…」

いつもの面倒くさそうな対応している

さっきまで男の子を見ていた瞳は窓越しに彼方君を見ていた

誰に悟られるわけでもなくそっと

そっと彼に気付かれないように…

なんだろう、さっきから…

こんな何気ないことで

とても楽しい…心がウキウキする

たとえば、例えばそう

昔のアルバムを久しぶりに開いたような感じ



さっきから懐かしいが続いてる…

出会った時不思議に思ったモヤモヤしてた正体ってこれだったのかな?

窓越しでもこれだけ見ていれば気付かれる

「まだ?」って催促しているように見えたのか

彼方君は苦笑いをながら『ゴメン』と合図を送る

私はぜんぜん迷惑じゃなかったというかこの時間が好き

だからすぐ私は『大丈夫です』と首を振る

どうしてこの人に前だと笑えるんだろう

どうしてこの人の前だと泣けたんだろう

どうしてこの人の前だと素直になれるんだろう



硬く凍り付いていたものが溶かされていく感じ

知らない自分が顔を出す

いつも私の頭の中は空っぽで真っ白だったはずなのに

喜怒哀楽をどこかに置いてきたんだろうって

私はそう思っていた…

私が知らぬ間に隠していた?

前から不思議に思っていた

分からない…でも一つだけ分かる

私のこの気持ち、彼の前だと安心する

 『お前最近、変わったな。』

前、マコにそう言われた

マコに言ったことがあながち間違いじゃないとすればきっとそれは…

私はカフェオレを一口のみ決心を固めた

彼に話をしてみよう

この前の夜の話、もしかしたら唖然とするかもしれない

記憶がないなんて知られたら引かれるかもしれない

私自身もあやふやでうまく説明できるか分からない、不安

だけど、信じたいと思った


そう決意した鏡に映る私が微笑んでいる気がした・・・

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