16.些細な変化
学校の帰り途中…私とマコは家の前
緩いんだかきついんだか恒例の坂道を歩いていた
目に染みる夕日は今、丁度この坂道に隠れて見えない
真っ赤な夕日が姿を現している時刻
人通りは多くないが買い忘れたのか遅いで主婦らしき人が坂を下る
呑気な私達は今日発売された彼方君が出てる雑誌を見て雑談
雑談してるのはマコだけだけど
しかし歩きながら雑誌の字が読めるなんてすごい
「んーっ!初恋話は聞きたかったなぁ!!へぇ…今…彼女いないってよ!!」
「………」
そんな叔母さんみたいな顔で突っ込む
なにを言わせたいのかこのおばさん
読み終わったのかマコは雑誌を閉じる
「ってか、珍しいな…お泊まりなんてしかも満春からの誘い」
「…そう?」
「あぁ…それにここ最近」
と、いいながらマコは意味なく含み笑いをした
そして私に向けてニヤッっと笑う
「…何?」
私がそう問いかけるとますます口の端が歪む
いつになく気持ち悪い
気がつくと家の前に着いていた
玄関を開け先にマコを2階の私の部屋へと行かせる
私はというと冷蔵庫にあったオレンジジュースを片手に2階へ上がる
マコはベットの上でグダーとしていた
そして私が来るとバッと跳ね起きる
「しっかし!!久々だな…桐谷家!!そして満春の部屋、匂い」
「…そう?」
匂い…突っ込むのは止めとこう
オレンジジュースとグラスを机に置く
「お前……変わったな」
いきなりの言葉にジュースをつぐ手を止める
何故かマコの眼差しは真剣そのものになっていた
一気に空気が変わる
「…変わった?」
意味不明なことを言われ聞き返す
変わった?何が…私が?
不思議に思う私をただただ見つめる
「嬉しい時とか顔は崩れないけど雰囲気が変わる…嬉しいって」
「……え」
またまた理解不能なことで頭は空回りする
でも、やっぱりマコは冗談を言ってる様には見えない
冗談ならもっとおちゃらけてみせるだろうマコは
真面目そのものに見える
見られているこの状況に
「………」
私は単純にジュースを再度つぐことしか出来なかった
「ほらなっ!…雰囲気変わった…」
「…雰囲気…」
少しはにかみながらのマコ
「前なんて行動すら読みにくかったんだぜっ!!」
変わった?…私が?
マコの言ってることがいまいち分からない
最近心の奥にある霧が少しずつほんの少しずつ晴れていってる感じ
それを感じ始めたのが丁度喫茶店で…
『彼方』君と彼をそう呼ぶことにした。
それから何度か会ってる
「最近会ってる?彼方とは…」
「…んまぁ」
やっぱり違和感を感じる
どうしてそんな冷静でいられるんだろう
ありえない話なんだ…
面識もないはずの私と彼方君が知り合いになったっていうのも
友達が芸能人と会ってるって事を普通に受け止めてる
マコの表情見ても私に対する焦りや悔しさとかが見えない
普通、憧れでも自分の好きな人なら…
まるでこうなることを望んでいたみたいに
さっきから興味津々
それともテレビの中の人間だから別物なのだろうか
だって、あんなにも始めは彼方彼方って
「ふーん…やっぱりそのせい?」
「…そのせいって?」
何故かその言葉にドキッとした
「マコ、前から聞こうと思ってたんだけど…」
「あん?…なんだ?」
飲もうとくわえたコップ越しにマコの声がエコーする
「何でもない…。」
そう言って私もジュースつられて飲む
私の持っている漠然とした疑問
本当に彼方君のファンなの?
オレンジの酸っぱさが喉から出そうな気持ちを抑え付けたのか
私はこの疑問について口に出来なかった
「???…まぁ、いいならいいけど話戻って良い?」
「あ、会ってるよ…けど『そのせい』って言われても分かんない」
そう言いながら膝においたコップの方ばかり見ていた
「そうか…」
その一言だけ返された
色んな事を考える…わざとじゃなくて
なんで今、マコは『そうか』としか返さなかったのかとか
今、マコは何を考えてるのだろうとか…
余計なことを考える事が癖になり始めていた
今、自分は何を思っているのかとか…
全部ひっくるめてそんな思考を受け止めちゃってる自分にビックリしてる
こんなことを考えてるのを知ってか知らずか
マコはさっきと変わらない表情で私を見ていた
「本当に変わったなぁーっと思って…親友としては嬉しいぜ!!本当に」
そう言って冗談っぽく笑ってみせるマコだけど
そんなマコの言葉を聞いて心なしか微笑んでいた
『親友』言われた時のこの喜び
それが変わった部分っていうのであれば嬉しい
確かに素直に笑える…
…マコの言うとおり嬉しい事なのに
どうしてこんなに気持ち、心がざわついているんだろう
感情が一つ一つ植えつけられる度に不安が増していくよう
そう考えるとまた心の奥に潜む霧が濃くなっていった
まるで余計なことを重大なことをひた隠すかのように