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15.忘れたはずの約束

彼女から離れスタジオへと歩き出すと同時に思い出す

それは自分の人生を変えることになった2回目のこと

1回目は幼い頃一人の少女と約束を交わした時

あの出来事だけは何年経っても忘れることが出来ない

『今』の自分へと変えていった出来事

それは彼方が熱を出して倒れたその後の事だった

意識を取り戻すのに2日過ぎた頃

傘も持たず走って無茶して待ち続けたことが祟ってのことだと思う

 『やっと起きたわね…』

 『あ、う!?…速瀬さん?…ここは』

脳裏に浮かんできたのは事務所の医務室

 『あっ!…そうだ満春ちゃんは!!?僕駅まで迎えに行ってそれで』

勢いよく立ち上がる

のを、言葉で速瀬は呼び止める

 『どんな子?』

 『え…?』

いきなりの質問に戸惑う

 『どんな子って…』

小さい頃別れたきりで容姿なんか分からない

多分変わっていないと思うけど

そんな言葉で納得するような相手じゃない

 『そんな忘れてしまうくらい会ってない子なんて忘れてしまいなさい…2日目寝込むほどの熱出して追いかけるようなものじゃないでしょう?』

 『それは!!だけど…!!約束したんだ』

駆け出そうとベットから飛び起きる 

 『それで…来たの?』

彼方の心臓が硬直した

 『分からない…けど、今待っているかもしれないっ』

ベットから降り床に足をつける

 『待ちなさい!…まだ気付かないの!?貴方は駅前で倒れたのよ!!熱出してるもの気付かず待ち続けて愚かさにもほどがあるわ…結局来なかった彼女にこれ以上貴方が追いかけることってあるの?』

 『……!!!』

 『…始めからな訳じゃないけど…スタッフが後、つけさせてもらったわ』

 『何の権利…!!』

くってかかろうとする彼方を言葉で制した

 『言ったはずよ。契約書に判子を押した時点でこれは遊びじゃないの…よってそんな絵空事を並べてるような暇はないわ。遊びなら他を選べばよかったわね…残念ながら貴方は立派な売り出す商品なの』

痛い言葉を淡々とつづっていく

 『遊び、絵空事ってなんで…』 

 『何でって…そんな悲しい顔して私に聞かないで。彼女が本当に想い出にしていなかったのなら貴方はこんな所にいないでしょう?』

 『………。』

 『昔、彼女とどんな約束をしたのか知らない…何を理由でこの世界に入ったのか知らない。ここからは大人として言うわ…確かに知らないけど、これはね約束がどうとかじゃないのこの世界に関わった以上人生がかかってるの!貴方一人のために色んな人がもう動いてる…。今だって貴方をこんなベットから引きずり出して駆けずり回らせたい気分よ!!貴方はたった一人の彼女のためなのかもしれない…では、貴方は一人のために何人犠牲にするの?』  

 『………っ』

 『だけど…もう貴方一人の問題じゃない。貴方のために多くの人が『彼方』を応援してて、貴方を立派な舞台に送り出そうと必死になってる…それを視野に入れてちょうだい!!それが現実…自分ばかり見つめてちゃ駄目なのよ?一緒に夢見てた幼い頃の話はもう卒業!!』

 『知らないくせに…』

分かっている…分かっていた

考えられないほど子供じゃないし

だけどそれを考えるほど大人でもない…

止められないものってある!!

 『えっ…』

 『僕たちのこと何も知らないくせにっっ!!』

思いっきり怒鳴り声をあげると

だって…僕たちは約束したんだ!!

泣きながら誓ったんだ!!

 『遠くても会えるように』って

そしたら満春ちゃんは笑ってくれた…

大好きなあの満面の笑顔で!!そんなはずがない

 『あ、そうだ!!でんわ…電話だっ!!』

そうだよ…何でこんな事に気付かなかったんだろう

彼方は足早に公衆電話へと駆け寄る

ガシャッ…!ピッ、ポッ、ピッピッ…



そうだよそんなわけない!!

この電話の向こうには元気な満春ちゃんがいて

昨日はゴメンっていつもの声で………

…………えっ?



ガチャッ……。ピッ、ポッ、ピッピッ……―


ガチャッ…。ピッ、ポッ、ピッピッ…

 『ははっ。そんな…きっと間違えたんだ』

ガチャッ…。ピピィーピピィ!!

カードが送り返される

 『………………な、何で』

ガチャッ…。ピッ、ポッ、ピッピッ…

震える手でもう一度ボタンを押す

 

 『何で…う、嘘だろう…』


手に力を無くし強く握っていた受話器を落とす

彼方の目は信じられないくらい見開かれ何も写そうとはしなかった

足の力も無くし泣き崩れる彼方

泣き声以外何も聞こえない静かな空間から

耳を澄ますとかすかな音が聞こえる

だらしなく落ちた受話器から漏れる何の感情も表さない機械音

 『(今、お掛けになった電話番号は現在使われておりません・・・)』



その冷酷な音はいつまで経っても彼方の耳から離れなかった



 「聞いてるかい?彼方君」

フッと現実へと返される

雑誌の取材は始まっていた

咄嗟に彼方は最高の営業スマイルをつくる

 「あ、ごめんなさい!!…何でしたっけ?」

当たり障りのないように恐縮しながら聞く

今は、雑誌の取材…ファンからの質問を答えてるところ

彼方はとにかく営業スマイルを保っていた

顔が引きつっている彼方本人にも分かっている

でも、それが今の彼方に出来る精一杯の事

 「あ、もう一度聞き直しても良いですか?」

なんとか立て直そうとする記者

 「はい、では…もう一度お伺いします。」

悪い顔ひとつせずに再度繰り返す出版社の人

と、同時にカメラのシャッター音が響く

 「ズバリ!!彼方君…貴方の初恋はいつですか???またはいるんですか?出来ればなるべく詳しくお答えください…」

彼方はかすかに硬直した

が、どうやら取材陣は気付いてないらしい

 「い、今時聞くんですね…まだそんな質問…」

場を繋ぐための言葉を笑顔で冷静さを装った

いつもだったら上手い言葉の一つや二つ

タイミングが悪かったそういうしかない…

 「ははっ!!確かにそうですねぇ…でもこの質問が一番多かったかな?」

それだけ言うと取材人は彼方の言葉を待った

その空気が焦らせる

 「そ、そうですね…今時だったのかな。忘れちゃいました!!そして今はいません。仕事で忙しいんですから!!」

そう言って雰囲気を和らげる彼方

でもその瞳は暗く、どこか宙を舞っているような様子

誰も彼方が嘘ついてるなんて知る由もなかった

  


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