表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/93

1.見えない自分

ふっと視界が広がった…ここ何処?

昔、何処かで感じたことがあるような気がする

広がったといっても四方からの光が眩しくて目が痛い

幼い男の子と女の子が遊んでいる

そんな夢を最近頻繁に見ては目が覚める

きっと今日もそんな夢なんだろう

すごく楽しい夢それだけはよく覚えている 

 『今日は何して遊ぶぅ?…』

明るく元気な声が視界がはっきりしない中聞こえた

この声からしてきっと女の子

 『おうた!!お歌うたおう』

今度は男の子の声が聞こえた

お歌???ってことは幼稚園児かな…?

思いだそうとすると頭にもやがかかる

思い出す?…何で、私は何を?

 『お歌好きだね…あっ、でももうすぐアンパンマン始まっちゃうよ!!』

 『ほんとほんと!?見よう見よう!!』

 『でも…分からない。いつもママが』

リモコンを手に取り、首を落とす女の子

声のトーンはいきなり落ちた

 『いいよ…僕がつけてあげる!!』

男の子がいじってる間にテレビはめでたく付いた

そして再び声のトーンは上がる

 『どうして!!どうして分かったの?!』

一つ一つの出来事の驚き

テレビのつけ方も分からない幼い頃

当初の目的を忘れてしまう程両手あげて喜んでしまう

私にもそんな時期あったのかな

ついそんなこと思ってしまうような情景が映し出される

 『やったやった!!すごいよ!!アハハハハッ』

 『あれ…でも違うのが写ってるよ。』

感激に浸る女の子をよそにテレビを見る

咄嗟に男の子の向いてる方へと顔を向ける

 『僕、知ってる…歌手って言うんだよ』

 『か…しゅっ?』

マイクを持ちながら気持ちよさそうに歌ってるブラウン管を通して言う

 『お歌をうたう人…』

 「えっ、お歌うたうの!!いいなぁ〜。でも一緒だね」

と、突然女の子はとびっきりの笑顔を見せる

それは今まで見てきたことのない最高の笑顔だった



ん…何か声が聞こえる?

振動と一緒に声が聞こえる

いきなり夢の中で騒音が起きた

 「…満春!!」

誰か私のこと呼んでる…

そう感じた瞬間目の前にいる男の子達は私の中から消えた

ガタガタガタガタ…

現実私の身体を揺さぶっている音だと気付いた瞬間

 「おいっ!!満春、いつまで寝てんだよ!」

容赦なくカタカタと椅子は左右に音を立てる

 「なぁ、授業もう終わってるってば!!」

震動2ぐらいの地震が私の机を襲う

私はうっすらと静かに目を開ける

 「授業…ここ何処?」

顔を起き上げたと同時に瞼をこする

 「はぁ?何寝ぼけてんだよ!!ここは教室・・・あんたは居眠り常習犯、分かった?」

嫌みったらしく丁寧に言葉を重ねる

 「ふあぁ〜〜〜〜ぅふん…」

全く聞いていなかった

 「眠い」

マコの言葉は空に舞い私は一言で返してしまった

ますます呆れ顔になるマコ

 「起きて言うことはそれかい…。まったく、あんたのお陰で先公がカンカンになってたんだけどなぁー。起きないから最後らへん諦めてたけど」

マコの声は耳には届いてなかった

それよりもさっきまでの夢が気になる

最近この手の夢をよく見る

いつも同じ女の子と男の子

何かにつけては仲良く私の夢ではしゃぎちらかしてる

 「何て言うのか…満春は冷静って言うか冷めてるっていうか普通びっくりしたりとか跳ね起きたりとか」

そう言いながら頭をポリポリと掻く

マコのこういうのは慣れた

私は喜怒哀楽が乏しい…それはよく言われること

気が付けば必要最低限の何かが欠けた

自分でも分かる何かが欠け落ちてるって

 「…」

 「まぁ、いいんだけど」

と、そう言ったマコはばつが悪そうな表情を浮かべた

余計だと思ったのかそんなマコもよく目にする



気が落ちたマコの脇で黙っていた

別に話すことがなかった…

眠いからじゃない普段からこんな感じだ

フッと周りを見ると目立つ

周りが騒いでる中自分たちがどれだけ静まり返ってるか

…何で私と友達でいるのかなってつまんないだろうに

今までマコ以外の人は嫌な顔して去っていったのに

 「でも、どうしてそんな大人しいのにもてるんだか…しかもクラスで一番厄介な女を相手にしてまで」

マコはそんなの気にしないらしい私があまりしゃべらないのは知ってる

だけどそれを無理に荒立てたりとかしない

 「んで、奈津実なんだけど…あいつまた男にフラれたらしいぜ。しかも満春!!あんた狙いの奴にまた!!」

目の前で指を突き出され僅かにビックリする

厄介女って言えばやっぱり奈津実のことか・・・

何かしら私に文句をつけてくる

マコが言うには「好きな相手を私が取るから」だって

見に覚えのないことを言われる

 「こりゃ、またやっちゃいましたねぇ…満春さん」

わざとらしくさん付けをする

 「関係ない…」

寝ていたから分からなかったけど今は昼休み

気付いた私は着々とお弁当を広げる作業に取りかかる

 「あぁ…来ちゃったよ。厚身ちゃん」

言われなくても分かる

この独特の足音は興味がなくても自然に耳に入ってくる

きっと奈津実が通った後の床は泣いてるだろう

 「うっさいよ!!あんたはちょっとポッチャリしてるだけじゃん!!それに誤解しないで…これは着膨れよ!中身は、んもぅ…スレンダーなんだから」

モデルポーズを決める

と、隣でお腹を抱えて笑ってる人物がいる

 「決まんねぇ!…しかもスレンダーって…あんたの場合は胸と尻がなんじゃないの」

笑いを殺しながら言葉を続ける

奈津実の顔が一気に赤くなっていくのが見えた

 「きぃーーーーー!!違うわよ!!…お胸さんもお尻さんはお山の様にボーンと」

よほど悔しかったのかオーバーリアクションで力説する

私は考えることなく2人の言い合いを聞いていた

 「気持ち悪い体してるねぇ・・・厚身ちゃん」

と、わざとげんなりとした顔をする 

 「何でそこだけ真面目のとってんのよ!!それと奈津実っていうプリチーな名前があるんだからねっ!!分かっててそんなことばかりいってんの知ってんだからね」

だったらほっとけばいいのに

2人は気付いてるのだろうか

私の机を自分のと言わんばかりに占領しているのを

押し合いへし合いだったらどっか他でやってほしい

今日は人一倍うるさい…やっぱり原因は一つか

そう思った瞬間何故か奈津実は私の方へと視線を向けた

 「何関係ないみたいな顔してんのよ!!私はあんたに用事あんだからねぇ!!」

言い争いごときで息を切らしている奈津実

この万年パワー全開女に悲しみに暮れるということがあるのだろうか

 「あんたまた私の愛おしい人を横取りしてくれたわね!!」

思った通りのことを思った通りの言葉で言われる

多少気味が悪い気さえした

 「んで、今回は何て言われたんだよ」

私の机を占領していた姿は消えた

そしてマコは一つ前にある自分の席へと腰を落ち着かせる

少し間があって奈津実の力説ならず熱弁をしだす

 「昨日、私…坂下 奈津実は体育館の裏で告白をしました。」

語り始めると奈津実は胸元へ手を当て乙女ポーズを取る

それを冷めた目でマコは見ていた

 「私はドキドキしながらその時を心待ちにしていました…。風が優しく舞う木の葉の中で愛しい人を待ち焦がれていました。チュンチュンとさえずる小鳥達、私の心をそっと後押ししてくれるそよ風達は優しく『大丈夫』と囁きかけてくれたのです」

そっと頬に流れる涙を拭う

 「そして念願の彼!!!山口太郎君17歳」

いきなりの大声に適当に聞いていたマコは驚いた

奈津実のいつになく真剣な眼差しに動揺をしている様子

鋭く瞳から閃光が放たれていた

そして奈津実の息を吸う音が3人の間に響きわたった

一緒につられて息をしてしまうくらいに

 「彼は…来ませんでした」

10秒程時が過ぎていった

何が起きたのか目の前は真っ白になった

やっとの思いで視界が晴れた途端

隣から声を必死で押さえ肩を震わせている奴がいた

言わずと知れてマコになる

 「プッ!?…ハハハハハッッ!!!?」

とうとう堪えきれずに一気に吹き出してしまった



絶好調の笑いをするマコを隣で何故か黙って聞いている奈津実がいた

横目で見ると死んだかの様に静まり返っていた

時刻は昼過ぎなのに奈津実にはもう太陽さえ昇らないかもしれない

…んなわけないのだけどキャラ的に

 「ハハハハッ!!あり得ねぇ!?…来ないだなんて!それはそよ風さんも小鳥さんはお前のことあざけわらってたんだよ」

腹を抱えて笑う

時にはそれでは押さえがきかず机をバンバンと叩いていた

 「い、今までの奴は『俺、野獣趣味じゃないから』とか『団子より花が好きだから』とかいっぱいいたけどさっ…それってそれ以前の話じゃん!!」

笑い泣きしすぎて息が出来ず途切れ途切れで話す

あまりの小馬鹿にした言い方に地獄の底から這い上がったようだ

底といっても足が楽々に着くほど浅いのだろうけど

 「そんなに笑うなっっ!!…今回はふられたけどもう新しい人見つけたもん!こう森林の中で一羽佇んで水を飲んでる白鳥みたいな人ぅ」

懲りたかと思いきや瞳にハートマークを宿す

そんな姿を見てマコは呆れていた

 「みんなよく知ってる人!!…だけどあんた達には届かぬ人」

きっと白昼の空に思い焦がれる人を浮かべているのだろう

瞳のハートは健在のまま何処か違う場所へと行ってしまった

私は見送りもせずまだ半分残っているお弁当を突っついた

そんな私を見ながらマコも静かに戦地を後にし席へ着く

 「本当…何だろうね、あいつ。満春もなんか言ってやりゃよかったのに」

「…別に。」

残りあと僅かな昼休みを惜しむかのように

私より半分も食べてないお弁当を引っかき回しながら言う

 「あっ…そういえば言いたいことあったんだ」

顔の前に箸を突き出すと

急に自分の鞄をあさりだした

 「明日さっ!放課後空いてるか?…ほらこれ!!ライブのチケットなんだけどさかなり急だけど」

目の前にチケットらしきものを差し出す

その時私はご飯を食べ終わりしまう作業へと変わっていた

 「行かないかってこと…?」

 「そう!その通りぃ!!物分り早いじゃん」

声は倍になって返ってきた

瞳は期待&真剣な眼差しを向ける

それにビックリする感じもなく私は

 「興味ない…」

いつも通りの返事を返した

だが、そこで引き下がるマコでないことも重々承知

 「そんなこと言うなって!…一人じゃ行きづらいんだよ。なっ!頼む!!」

食べ終わってないのに箸を置き、私をお地蔵様と勘違いしてるのか

顔の前に手を合わせお辞儀をする

 「行かなければいいじゃない…」

 「何だよ…冷たい奴だなぁー。そうだ!!帰りマックつけるからさ、な?」

「別に食べたくない」

怒ってるのだろうか私

マコがご機嫌を取ってる様に見えた

気が付けばお弁当が手つかずになっている

そんなに行きたいのかとつい疑問に思ってしまう

だからこんな言葉が出てしまうんだ

 「行かないとは言ってないけど?…」

そして次の瞬間目の前が真っ暗になって

フッと見るとマコが私に抱きついてる

マコらしい最高の笑顔

見てて分かるけどマコは男っ気があって全然女らしくない

だから物事とかもサバサバしていて今回みたいなことは珍しい

というか…初めて『一人が嫌だ』って言うなんて

 「マジ、ありがとっ!!…んで、ライブのことなんだけど彼方』っていうアーティスト知って る?今、超人気なんだぜ!!」

一瞬にして頭が真っ白になった

 「…か、なた…?」

酷く息が詰まった気がした

何かが頭の中が疼いた

 「そう!…彼方!!若干21歳で頂点まで登りつめた今、話題のミュージシャン!なんとただ今ニューシングル連続5週第一位!!これがまだまだ記録更新中なんだよねぇ…だからいつもいつも売り切れだったんだけどそれがまた昨日友達から譲ってもらってよぅ!!」

マコは詰まることなく熱く語っていた

けど、私にはどうでも良かった

息が詰まった瞬間私は何を思ったんだろう


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ