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志織は、雪本をまっすぐ見つめて尋ねた。
「何故、正志を二十五年もの間、監禁していたんですか?」
「君が言った通りだ。あれを安全に壊すことができなかった」
雪本が正志を「あれ」と呼んだことに、志織は少なからずショックを受けた。しかし雪本はそんな志織を気にせず、話を続ける。
「高村は死ぬ前に、正志の設計図を完全に廃棄してしまっていた。通常なら、意図せぬ暴走をした時のため、どこかに緊急停止ボタンがあるはずだ。しかし、正志本人に何度も聞き取りをしたが、緊急停止ボタンはどこにもなかった。高村のことだ、そのボタンを最初からつけていなかったのだろう。それならばと我々は正志を解体しようとしたが、自分に暴力を振るわれると分かると、彼は暴れて周囲の人間に危害を加えた」
「そんなはずっ……」
思わず雪本の話を遮った。志織の記憶の中にある正志は、優しかった。虫も殺せないというわけではなかったが、他人に危害を加えるような人間ではなかった。……そもそも人間ではないのだが。
「あの暴れ方を見ただろう? あれを生身の人間が受けてみろ、死んだ者こそいなかったが、多数の研究者が骨折などの重傷を負った。とうとう頭を強く打ち昏睡状態になるものが現れ、正志を壊すことは諦めた」
「その研究者は、どうなったんですか?」
尋ねる声がかすれた。
「一週間後に意識を取り戻した。幸い後遺症などはなかった。だが、あのまま解体作業を続けていたら、死者が出ていたかもしれないな」