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晴也が二人を連れてきたのは、二階の角部屋だった。壁は機械で埋め尽くされており、床にも大量の機械や部品が置かれている。そんな機会尽くしの部屋で、質素なベッドがぽつんと浮いて見えた。
「ここは、私の寝室だよ」
晴也はそう言いながら窓辺に近づき、カーテンを大きく開けると窓を開けた。
「さあ、ここから逃げなさい」
「……窓から、ですか?」
志織が思わず眉根を寄せると、晴也は楽しそうににやりと笑う。
「志織さんは怪我をするだろうけどね、正志くんなら平気なはずだ」
「でも、ここから飛び降りたところで、外にいる人たちに見つかったら終わりだろ?」
正志が苦々しげにため息をつく。しかし晴也は奇妙な笑顔を崩さないまま、二人に背を向けて歩き出した。
「どこへ行く?」
「今のまま落ちたら捕まるのは確実だ。それは君たちだってわかってるだろう。最後にちょっとだけ手伝ってあげよう。逃げられるかどうかは君たち次第だがね。サヨナラー」
彼はそれだけ言うと、後ろ手で手を振りながら部屋を出て行ってしまった。
晴也の寝室に取り残された二人は、彼の思考についていけずぽかんとして顔を見合わせた。
「……手伝うって、何をするんだろう?」
「さあな。一番大事なことを言わないのは癖なんだろうな」
正志が呆れたように笑う。
「上手くタイミング見計らって逃げろってことなんだろうけど」
志織はそう言いながら、機械を踏まないように慎重に窓に歩み寄ると、開け放たれた窓から外を見下ろした。この部屋の下には出入り口がないらしく人はいないが、ここから飛び降りたとしても逃げる途中で見つかってしまってはお終いだ。近辺にはこの研究所しかないから、山の木々の間に紛れ込むまでに見つかってしまう可能性は高い。夜ならまだしも、こんな昼間だったらすぐに見つかってしまうだろう。
「いつ飛び降りる?」
いつの間にかそばに歩み寄っていた正志が、志織と同じく窓から下を見下ろす。
「晴也さんが手伝う、っていうのが何だか分からないけど……」
そこまで言ったときだった。
「正志くん! 志織さん! 逃げろ!」
外から微かに晴也の声が聞こえた。