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正志は不機嫌さを隠すことなく晴也を睨みつけていたが、やがてため息をついて志織をソファに座らせた。
「長くなるから、座ったまま聞いてくれ。あと、聞きたいことは多いと思うけど、口を挟まないで聞いてて」
いつになく真剣なその口調に、志織は反論もできずに頷いた。
正志は立ったまま話し始めた。
「志織にかくまってくれるかもしれない人のところに行くと聞いたとき、俺は正直疑ってた。そんなことをするなんて、俺たちを騙そうとしてるか、よほどの変人かしかありえないって。ここにきて、真下さんを見て、最初は後者なんだって思ってたんだけど」
「ずいぶん失礼な物言いだね。匿ってやっているというのに」
ふざけたような声色で晴也が口を挟んだ。
「黙っててくれませんか。あんたは補足しかしないんでしょ」
正志が晴也を睨みつけると、晴也は大げさに首をすくめて口をつぐんだ。
「真下さんがNELにいたと聞いて、もしかしたら俺たちの父さんについて知っているかもしれないと思った。昨日俺のほうが早く寝たし、志織は疲れていただろうから、そんなに早く起きないことは分かってた。だから俺は、ここに来て、この人に父さんについて知ってるか聞いたんだ」
正志は落ち着かないというように、部屋の中をゆっくりと歩き回りながら話し続けた。
「俺はずっと疑問だった。父さんの死因は過労って聞かされてたけど、あの檻にいた間、NELのデータを徹底的に検索してみたけど、父さんは死んでしまうほど忙しくなかった。裏で何か大きなプロジェクトが任されていた痕跡もない。死因をごまかしている様子もない。ただ、俺の存在がばれたのは、父さんが死んだ後に戸籍を調べられたからじゃなくて、父さんが死んだ後、俺のことを通報した人間がいたらしいということが分かった。だからこの人に、当時の父さんに変わった様子がなかったかどうか俺のことを通報したのは誰なのか、晴臣さんから何か聞いていないのかって聞いたんだ。そしたら……」
彼は突然ぴたりと足を止めると、その先を言うのを拒むかのように唇を噛んだ。
「マサにい?」
思わず声をかけると、正志はゆっくりと志織を見て、それから困ったように微笑した。
「ごめん」
「……なんで謝るの?」
「……分からない」
彼は途方に暮れたようにそう呟くと、その場にしゃがみこんで頭を抱えてしまった。突然の行動に呆然としてしまい、志織はまったく動くことができなかった。