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ヒトガタ機械  作者:
62/74

8-5

 正志が部屋に入ってくるまでが、志織には長い時間に感じられた。朝、喧嘩のように部屋を出てきたのに、彼が一番嫌っている人物の部屋で、その話題をぶり返そうとしている。こんなことなら晴也に相談しなければよかったと心底後悔しながら、彼女は居心地悪く狭い部屋の中をうろうろと歩き回った。

 廊下をどたばたと駆けてくる音が聞こえ、彼女はドアの糖を向いて立ち止った。その音はすぐに大きくなり、ついに部屋のドアがけ破らんばかりの勢いで開いた。

「志織っ」

ものすごい勢いで部屋に飛び込んできた正志は、志織の腕を掴んで部屋からすぐ出て行こうとした。

「痛っ」

いつの間にかもう片方の腕を晴也に掴まれていたらしく、志織は両側から引っ張られる形になり思わず声をあげる。その声に正志は力を緩めてくれたが、反対に晴也が志織のことをぐいと引っ張った。

「苛々するのも分かるが、もう少し落ち着いてくれないか?」

晴也は志織を自分の隣に立たせ、にやりと口元を歪めた。その笑みは、この研究所へ来てから見た彼の笑顔とは全く違った。悪意や嫌悪、優越感、そしてわずかな懺悔が入り混じったような、何とも言えない表情をしていた。その笑顔に、志織は何も言うことができなかった。不愉快な笑みの中に「懺悔」の感情を感じ取った違和感が胸中を支配していた。

「俺は落ち着いている。なんでここに志織がいるんだ?」

苛々した様子の正志が声を荒げたまま尋ねる。晴也は奇妙な笑みを浮かべたまま、志織の肩を何度か叩いた。

「私と君の、今朝の会話の内容を知りたいそうだ。君は言いたくないそうだが……妹さんは、どうしても気になるようだよ?」

「……あれは、志織に聞かせるべきじゃない」

正志は気まずそうに志織から視線を外した。

「マサにい、私もう三十五だよ? マサにいは子供だと思ってるかもしれないけど、もう何を聞いても受け止められるくらいの年齢にはなってる」

志織が訴えかけるも、彼は視線を外したまま微動だにしない。晴也はわざとらしくクックッと喉を鳴らし笑うと、志織を正志のほうに強く押した。

「何を聞いても受け止められる、ねえ……どうだか」

「どういう意味ですか」

よろけるも何とか転ばずに堪え、志織は晴也を振り返った。

「さあ。そこの妹思いのお兄ちゃんに聞いたらいい。私は補足しかしないよ」

はぐらかすような彼の笑みは、またいつものようなものに戻っていた。

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