8-3
晴也に詳しく聞こうと思ったとき、調理ロボットから調理完了のアラームが鳴った。
「長くなるから、詳しくは、私の部屋で話そうか」
ロボットから取り出したホットサンドを皿に乗せ、彼は振り返った。いつの間に用意させたのか手には湯気の立ったマグカップも持っている。
「あの、私の分は……」
恐る恐る言うと、彼ははっとした表情になった。調理ロボットに向き直りいくつか指示を出す。途中アレルギーの有無だけ聞かれ、彼はさっさと調理指示を終えてしまった。
「すまないね、いつも一人だから、つい忘れてしまって」
彼はテーブルに皿とマグカップを置きつつ言った。すまない、といってはいるが、悪びれる様子は微塵も感じられない。志織はただ曖昧に微笑み、調理が終わるまで二人とも何も話さなかった。
完成したホットサンドと淹れたてのコーヒーを手に持ち、二人は晴也の研究室へ入った。昨日と同じく、晴也は椅子に、志織はソファに腰掛ける。
「とりあえず、冷める前に食べよう」
晴也に言われ、志織は今すぐ問いただしたいのをぐっとこらえ、コーヒーを口に含む。NELのロボットが淹れてくれるコーヒーもおいしかったが、晴也のロボットのコーヒーもなかなかの味だ。口から鼻に抜ける香りに、思わずリラックスしてしまい目を閉じる。一口をじっくり味わった後、マグカップを置いてホットサンドに手を伸ばす。一口齧ると、たっぷりのツナがとろりと溶けた程よく熱いチーズと絡み、こんがりと焼けたパンが香ばしい。
「おいしい……」
思わず呟くと、晴也は得意げに笑った。
「まずいものを作るロボットなんか、作る価値がないだろう?」
二口目のホットサンドを頬張りながら、その言葉には素直に頷いてしまう。ロボットしか見ていない変人かと思っていたが、味覚もしっかりしていたようだ。
ホットサンドを食べ終え、コーヒーも半分ほど飲んだところで、志織はカップを置いて話を切り出した。
「それで、正志はあなたに何を言ったんですか?」
晴也は焦らすようにゆっくりとコーヒーをすすり、カップをデスクに置くと大きく息を吐きだした。
「そもそも、正志くんは君が私にこのことを聞きに来ると、知っているのかい?」
「いえ、多分知りません」
正志には、食事をしてくるとしか言っていない。晴也とすれ違うことくらいは予想したかもしれないが、まさか本人に直接尋ねているとは思っていないのではないだろうか。