7-4
苛立ち困惑する志織の隣で、正志は苛立った様子で晴也を睨んでいた。その目は檻で監禁されていた時と同じ鋭い光を宿しているのに気づいた時、志織は思わず正志の手を握った。
「妹に心配される兄でいいのか、君は?」
その手の動きを見た晴也が嘲笑を浮かべる。正志は目の光を一層強め、志織の手を振り払った。
「どうやら君は、二十五年前から成長していないようだ。志織さんのほうが冷静に対応ができている。そんなだから壊されかけたんじゃないか?」
「お前っ!」
ソファから立ち上がった正志の腕を、志織は慌てて引っ張った。ここでもし晴也の機嫌を損ね追い出されたら、二人は完全に行き場をなくしてしまう。どんなに苛立つことを言われようと、隠れ場所だけは確保しなければならない。
正志は立ち上がったまま数秒晴也を睨みつけていたが、やがてすとんとソファに座りこみ、彼から視線を外した。代わりに、鋭いけれど晴也に向けていたのとは比べ物にならないくらい穏やかな視線を志織に向ける。
「どうしてこの人に頼ろうとしたんだ?」
正志はこの部屋に入ってきたときと同じ質問を志織にぶつけた。あの時は本人を前に答えることにためらいがあった彼女も、晴也の態度を見てその質問に答えることに抵抗はなくなっていた。
「お父さんの同僚で、正志について知っていたのは真下さんだけだったの。だから、真下さんなら正志のことをちょっとでも知ってるかもしれないと思って……。でも、真下さんはNELの人だから、正志の保護に協力してくれるとは思えなくて。だから……」
「息子でありロボット開発者である俺に助けを求めた」
言葉の最後を晴也は勝手に引き継いだ。正志は一瞬眉を寄せ晴也を見たが、彼の存在を無視するようにすぐに志織に視線を戻し、小さくため息をついた。
「脱走計画が、ここまで運任せだったとはな……」
呆れたような表情を浮かべているものの、正志の表情は柔らかかった。
「君は妹に甘いんだな」
晴也が冷たく告げたが、正志は表情を変えずに志織を見つめ続けていた。